「出てく気なの? 本気で?」
「それは、無謀と言わざるを得ません」
私とランサー、二人ほぼ同時の制止が飛び出す。彼女は静観しているものかと思っていたから意外だ。一瞬目が合うけど、私は
「このお屋敷の周囲は、常時完全に包囲され監視されています。あなた方が単独で脱出し、追跡の目を振り切り、潜伏するのは困難と判断します」
──え、初耳なんだけど。
「か、監視!? 常時!? ウチも!? 外で目撃されてただけじゃなくて!?」
「いやそりゃされてるだろ。居場所が判ってるんなら“目”は置いておくに決まってる。早けりゃ召喚直後、どんなに遅くてもサナトリウムで本格的にアーチャーとやりあった時。あれ以降は他の全勢力から監視されてなきゃおかしい」
さっきまで凹んで悩んでたくせに、しれっとした顔で聖が言う。けどそれどころじゃない。そんなことより──
「どこから、どうやって!」
「ざっと見渡しても家の周りに使い魔がウヨウヨいるぜ。中までは入ってきてないけどな、この家の結界ちゃんとしてるし」
「偵察と監視のためにキャスターもいる拠点に突入してくるほど、魔術師たちも愚かではないかと」
なんかさらっと衝撃的な発言があった気がするけれど、もう突っ込んでられない。
「……つまり? 家の中はセーフだけど、外に一歩でも出たら使い魔に監視されるってこと?」
プライバシーとか……ああ、うん。無さそうだよね。魔術師ってそういう人たちなんでしょ。魔術のためならヒトの家の中、覗きまわるくらい気にしませんってか。私は気にしますけどね!!
でも、じゃあ、私が外出するのは──もしかするとずっと、全部、他の陣営には垂れ流しだったってこと……!? 嘘でしょ、あり得ないっての……!
「最悪……」
今度は私が頭を抱える番。
「だから実のところ、ランサーの言い分は尤もでな。言いはしたけど潜伏ってのは無理筋だ。二陣営同盟で目を付けられてる俺たちが長期間別行動するなんてデメリットしかねえ。ルーラーがいつまで居るのか、分かったもんじゃないしな。
結局、ルーラーがここに来るか、俺たちがルーラーのもとに出向くか。どうあれ対面せざるを得ないし、逆に聖杯戦争の情勢はルーラーが来るまで動かない。今日は一日、無用の外出は控えてこの屋敷に居るこった。
教会行って、調べたいことも出来たんだろ?」
「言われなくてもそうするっての! 誰が監視ウヨウヨの中で出かけるかっつの……」
この家にあるかも知れない、聖杯戦争についての情報探し。
昨日半日の家宅捜索では、ついぞそれらしき物証は見つからなかった。やはり、そういう“何か”があるとすれば──書斎をおいて他にないだろうという結論に至ったのだけれど。
……今更になって、同盟初日のキャスターの「使わせていただけるとありがたいのですが」の言葉に二つ返事で書斎を貸したのが悔やまれる。あの時はまさか聖杯戦争中に使うと思っていなかったし、キャスターなら私的なものが見つかったら触れずにそっとしておいてくれそうだったから問題もないと思ったのだ。
一度許可を出したものを引っ込めて、「調べ物をしたいから出ていってくれ」とは言いにくい。だからって、あのさして広くもない部屋で、一日中キャスターと二人っきりというのも、息が詰まりそうなのだ。なにせかなり年上で、男性で、おまけに異世界人と来ている。緊張するなという方が難しい。
とはいえ、
「──ッし、やるかあ……!」
思い切り気合を入れて勢いをつける。今日こそ、義母さんの隠し事──見つけるぞ!