Fate/second to none   作:吉田一味

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ルーラーがやってくる!⑤

「何故って、簡単なことです。私は貴方と友人になりたいからですよ、臙条叶さん」

 

「───」

 

 それは、今日一日で一番の驚愕だった。

 

 全く理解できない言葉。いや、そりゃあ、私だって友達の意味くらいは判るよ。そうじゃなくて、私からの一方的な友達認定(気兼ねなく話せる相手扱い)じゃなくて、だって、だって。

 

 秘密まで打ち明けて、あえて踏み込んで────私と友達になりたがる人なんて、居ると思わなくて。

 

 私はさっきからの同じ言葉を、繰り返すしかなくて。

 

「なんで」

 

「如何せん、マスターに外出を禁じられている身でして。寂しい老人の我儘と思ってください」

 

「あっ、あー…………」

 

 ここ臙条邸はさっきも話題に挙がった通り、聖杯戦争の渦中にある。本体に戦闘能力がほとんどないキャスターがノコノコ出かけていったら、大挙して他陣営のサーヴァントたちが押し寄せてくることだろう。外出禁止令も無理のない話だ。

 

 キャスターにとっては、この屋敷の中だけが安全圏であり、そこにいる(マスター)と、私と、ランサー(どうめいあいて)だけが話し相手なのだ。

 

 外出制限という意味なら私とそう変わらないように一瞬思ったけれど、教会に呼び出されたりしてたし、聖杯戦争が終わったらまた日常に帰ると思えばこんな窮屈なのは一時の話だ。だが、キャスターはそうではない。聖杯戦争のために呼び出された彼らは、聖杯戦争が終われば退去する。

 

 サーヴァントのキャスターにとって、それは二度目の死。

 

「そんな限られた話し相手と、距離を置かれて当たり障りのない話しかしない関係で終わるというのは、やはり寂しいものです」

 

 これも取材ですよ、と言われてしまえば、そういうものか、と思えてくる。

 

 まあ、そんな理由でもなければ私と友達になりたいなんて言ってくるとも思えないから、納得ではある。

 

「けど、だからって宝具のことを喋っちゃうのは、やり過ぎじゃ……」

 

「少なくとも、遠慮は無くなったでしょう」

 

 ほら、口調、と言われて気づく。いつの間にか、聖と話すくらいのラフなものに砕けてる。彼が言い出すみたいな突拍子もないことを、キャスターが言ってきたからだ、きっと。

 

「……聖のサーヴァントだっての、納得かも。最初は何でだろーとか思ったけど」

 

「おや。褒め言葉と受け取っておきましょう」

 

 触媒無しで召喚されたサーヴァントはマスターと相性がいい英霊になるという。こういうところか。

 

 とはいえ確かに、ここまで踏み込んでくる──というか開けっぴろげにしてくる相手に、こっちばっかり遠慮するのも馬鹿らしい。白状すると、私だってこの人に聞いてみたいことはいっぱいあるんだから。

 

「いいよ、判った、判りました。何から話そう?」

 

「そうですね、ではまず──」

 

 

 

 ……書斎漁りは、そんな次第で午前中だけで終わり。

 

 その後の私たちは色んなことを語り合った。義母(かあ)さんのこと。書斎の収蔵内容のこと。キャスターの著書のこと。幻獣のこと。聖杯戦争のこと。

 

 話し出すと止まらなくなる。でもだからって私が一方的にまくしたててた訳じゃなくて、キャスターだって多分同じくらい喋ってた。作家だって彼は自己紹介したけれど、先生とか教授とか、そういう話して教える仕事についても、暮らしていけただろうなって思わせる話し上手。

 

「私たちには言葉があります。例え違う世界の人間であっても、過去の偉人やフィクションのヒーローであっても、言葉を交わし分かり合える……かも、知れません」

 

 ホントにずーっと喋り続けて、そろそろ喉も疲れを訴えてきたころ、こんな会話があった。

 

「ルーラーとも……私のマスターなどは警戒心剥き出しで居ますが、話し合えば害意、敵意の類いは無いと納得させられる可能性は十分にあります。少なくとも、私は話してみたい」

 

「そうだよね。そんなこと言ったら聖杯戦争の他の陣営だって、別に戦いたくて戦ってるとは限らないし。全部話し合って丸く収まれば、こんな危ないことする必要もないのになぁ」

 

「流石に……そこまでは厳しいと思いますが。けれど挑戦する価値はあると思いますよ。聖杯戦争、戦わずして平定。劇的(ドラマチック)なうえ、被害も少ない。文句のつけようのないハッピーエンド、実に素晴らしい!」

 

「そういうの、キャスターが書いたのにもあるでしょう? 見飽きた……というか書き飽きたんじゃない?」

 

「実は、あまりそういう王道の“めでたしめでたし”で終わる物語は書いてこなかったものでして。意外だったでしょうか?」

 

「あー……うーん、意外と、意外じゃない、かも。キャスターがそういう痛快娯楽小説みたいなの書いてるトコ、想像つかないし」

 

「おやおや。どんなイメージでしたか」

 

「うーん、重厚な推理小説か、複雑に入り組んだピカレスクものとか?」

 

「ふふ。どちらもハズレです。生涯を通じて、短編小説以外は書いたことがないものでして」

 

「えっ、ええ!? 短編って、つまり、えっ、短いのだけ!? ええぇ~……!」

 

「長く紙幅を費やすことに価値を見出せないものでして。簡潔に、必要な()()だけで綴ると、自然とそうなるのです」

 

「そうなんだ……。それで英霊の座、だっけ。そこに認められるって、すごいことなんじゃ……」

 

「どうでしょう。生憎と他の例を知りませんので」

 

「それもそっか。でも、短編なら私でも読めるかも」

 

「残念ながら、作品を書いて共有することはマスターに禁じられておりまして。曰く『いくら同盟関係だからって手札を全部晒すなんざ有り得ないだろ』と」

 

「ふ、似てないよ、キャスター。でも言いそう。それで執筆禁止令が出たから宝具の性能を共有しちゃうって、キャスターも大胆というか、なんというか」

 

「そういう次第ですので、お見せすることは難しいのです。聖杯戦争が無事に終わり、ハッピーエンドを迎えた暁には、きっとお見せすると約束いたします」

 

「そっか。じゃあ、ますます頑張る理由が増えちゃった」

 

 ──いつからか。

 

 そんなふうに、未来を夢見る言葉を紡ぐようになったのは。

 

 聖杯戦争に参加して、信頼できるランサーと、信用したい同盟仲間とを得て、いっときあの()()()を忘れられた気になっていたんだと思う。

 

 完全無欠のハッピーエンドだとか、キャスターに作品を見せてもらうだとか。

 

 そんな絵空事、叶うわけないのにね。

 




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