Fate/second to none   作:吉田一味

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裁定のとき②

 

「コンスタンティヌス一世、ねえ。聞いたことあるけど……」

 

「あのな。『聞いたことある』で済ませていい偉人じゃないぞ」

 

「それは判ってるけど」

 

 サンタンジェロ大聖堂でのルーラーの布告とやらから、ややあって。

 

 私たちは車内にいた。

 

 向かう先は、フユキ・ハイアットホテル。──言わずもがな、ルーラーの待つ拠点。

 

 教会のコートニー輔祭に連絡して自動車(クルマ)を出してもらって、彼らに会いに行くこととなった道中だ。

 

 時刻はすでに夕方、ほとんど日も暮れつつある。到着するころには完全に没しているであろう、マジック・アワーの街を行く一台。

 

 これほど遅くなったのは聖が駄々をこねたから。

 

 『絶対に罠だ』『行ったら真名看破(ぬか)れるんだぞ』って喚くわ、私たちにも『行くんじゃない』『正気か』って言ってくるわで、散々揉めた。……ちょっと誇張しすぎた気もするけれど、まあ、おおむねそんな感じの言い争いになって収拾がつかなかったのは事実だ。

 

 ルーラーの真名──コンスタンティヌス一世ことガイウス・フラウィウス・ウァレリウス・コンスタンティヌス(だっけ?)についても、その時に散々っぱら聞かされた。

 

 ローマ帝国の皇帝。東西統一者。“大帝(マグヌス)”。

 

 十字架の庇護者。

 

 政治・宗教・軍事の多方面にその才覚を発揮した、類稀なるひと。

 

 西欧社会の礎となったとさえ評される、世界を動かすもの。

 

 疎い私でも、彼の名前は教科書で見たことがある。現在のトルコはイスタンブール、その基となった都市──コンスタンティヌスの町(コンスタンティノープル)は彼が()()()()という。私からすれば都市はそこに既に()()もので、新しく建てるという発想なんて浮かばない。まさしく格の違う人間って感じで圧倒させられる。

 

 確かにそんな人間なら英霊になるだろうし、サーヴァントの中でも特異なクラスらしいルーラーに選ばれることも納得できる。同時に、聖が会いに行きたがらない気持ちも共感できるけれど、だからといって疑いを晴らさずに居ることだってできないだろう。

 

 というようなことを話し合いの時に言ったら「お前は何も分かってない」と言われたので同情はしないこととする。

 

 ……アホの聖は置いておいて。これも、さっきも話題には上がったけれど、

 

「真名が判っても、何が出来るか判んないパターンもあるんだね」

 

 何の話だって言われてもおかしくない話題運びだったけれど、聖はすぐに判ったらしい。

 

「ここまでの英霊は、そう居ないだろうけどな。宝具として持ってこれそうな要素が多すぎる」

 

 ロンギヌス、ミルウィウス、コンスタンティノポリス。彼は指折り数えながらつぶやく。ほとんど判らないけれど、コンスタンティノープルが入ってるってことは同じような逸話なのだろう。まさか、全部が建築した都市名ってことも無いだろうけれど。

 

「寄進状に凱旋門……。ここらへんは当人の逸話じゃないけど、英霊召喚がどう受け取るか判らないしな。まあ、結局事前予想は当てにならない、出たとこ勝負って話になる訳で」

 

「あっ、その話もういいから。もう散々したし、第一出発しちゃたんだから今更だから」

 

「…………」

 

 聖が面白くなさそうな顔で黙る。

 

 確かに彼の言う『ルーラーの情報が無いのに一番に行くのは危険だ』って主張も、一理あるとは思う。けれど、同じ事はみんな考えるだろうし、時間は限られている。待たされたルーラーはきっと怒って、じゃあどこに向かうかと言われれば、最初は私の家になるだろう。だって、みーーーんな知ってるんだし。

 

 こっちから出向くか、あっちに来させるか。

 

 ルーラーの心証が良くなるのは、ちゃんと期限内に自発的に会いに行く方に決まっている。

 

 他の陣営──それこそアーチャーやアサシンと鉢合わせ(バッティングし)ても面倒だし、あえて夜遅くや日の出なんかの時間帯に出歩きたくもない。となれば、さっさと行くに限ると私は主張したのだけれど──残念ながらそれは、なんとランサーを含めて全員に反対されてしまった。

 

 『話がまとまる保証もないのに、日が高いうちに会いに行ったんじゃ動くに動けない。せめて日暮れまでは待て』って言うけれど、まさか他にも宿泊客が大勢いるハイアットで、そんな過激なコトするとは考えにくいし。思慮深い王様だっていうなら心配する必要ないでしょ。

 

『……まあ確かに、来ちまった以上は仕方な──』

 

「ぅひゃあっ!」

 

 憮然とした表情のまま、口どころか表情筋全体をぴくりとも動かさない聖の、声が急に耳元に届いて私は飛び上がってしまった。

 

 正確には耳元ですらなく、念話で直接つながっているのだが、感覚的にはほぼ耳元での囁き声だ。となれば当然、慣れない私が急に話しかけられて反応しないはずもなく──

 

「どうかしましたか?」

 

 運転席のコートニーさんも不審に思ったのか、バックミラー越しに問うてくる。

 

「あっいえ! な、何でもなくて……その、虫が居たみたいで」

 

 ……二月に何の虫が居るのだ、という話である。あからさま過ぎる誤魔化しに、察してくれたのかコートニーさんは「そうですか」とだけ返して運転に集中した──というか、こっちから意識を切ってくれた。

 

 聖は「虫? 居るかそんなん?」なんて探すフリをしながら、器用にも同時に念話で、

 

『あのなあ、慣れておけっつったろ。今後毎回話しかけられるたび反応する気か』

 

『う……っ、し、仕方ないじゃん。慣れって言ったって、繋いだの今朝だし。バタバタしてて使ってないじゃん。……ていうか、私は私で()()、納得してないから!』

 

『あーあーうっせえ念話で怒鳴るな、響くから。文句は帰ったら口頭で言え、聞くから。んで臙条』

 

『なに』

 

『意識、念話に向けすぎ』

 

『ッ!!』

 

 念話でのやりとりの間、私はそっちに集中してしまうから挙動が変になってる、らしい。

 

 ま、まあ確かに、言われてみれば確かにとは思うけれど、だからって目前の聖みたいに念話と普通の発話、両方いっぺんには無理だから。そういうのは、何か特殊な訓練を受けた人とか、それこそ昔の偉人の逸話とか、そういうのだけだから。

 

 ……はーあ。全員接続念話(こんなの)、便利かも知れないけど、無い方が気楽なのに。

 

 同意が欲しいのと慣れるためとで、私は全員に向けて、

 

『ランサーとキャスターも、ホントに良かったの?』

 

『私は賑やかでいいと思いますよ。安全のため出られなくても、皆さんと一緒に過ごしている気分にもなれますし』

 

 これはキャスターの声。

 

 彼の言う通り、彼は今日もお留守番。

 

 ルーラーと会いたがるキャスターの好奇心と、私の『ルーラーもサーヴァントたちに会いたいから呼び出してるんだと思うんだけど』という説得を以てしても、聖の意思は曲げられなかったのだ。

 

 ひとり臙条邸(ウチ)にカンヅメのキャスターの、それでも楽しそうな声を聴いてしまうと言葉に詰まる。

 

 逃げるように、もう一人へ振ることにした。

 

『ランサーは?』

 

『私も……これは有用だと思います』

 

『ランサーが……そう言う、なら』

 

 彼女の言葉は、少し不思議な感じがした。いつもの冷静さとは違うような、わずかに浮ついた感じ。

 

 私は、私が一番、彼女の声を聴いてきたから判る。

 

 ──ランサー、少し、楽しそう?

 

『なら、いいよ』

 

 私のランサー。私を守ってくれる、私のサーヴァント。

 

 貴女が楽しいのなら、貴方が望むのなら、それで。

 

 聖が、こめかみをもみ込んでいた。

 




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