Fate/second to none   作:吉田一味

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裁定のとき④

 

 開いたドアの向こう、広がる光景はエントランスよりも更に上質な空間。

 

 一般的な、うっすらとイメージするホテルなんて鼻で笑うような、そこはけれどやけにこじんまりとしていて。

 

 そこには、ドアがひとつだけあった。

 

 メイドたちは自然な所作で、そのドアを私たちのために開く。

 

「っ……!」

 

 開かれた扉の先、広がるは絶景。

 

 調度品ひとつ、どころか内装の一要素に至るまで、徹底的に仕上げるという執念しかない。確かに素晴らしい、けど……ここで一週間過ごせって言われたら、肩が凝って仕方ないと思う。

 

 端的に言って場違い。それが、この場における私なのだった。

 

 アインツベルンの二人はこのペントハウスにぴたっと調和している。彼女たちはきっと、どこにあっても()()なのだろうと納得させる個の殺し具合。

 

 聖も私同様にこの場では浮いている。けれど、場の高貴さに負けているという印象にはならないのが、彼の不思議なところだろう。やっぱり“芯”か、芯なのか。

 

 メイドは控えたままで、この先には私たちだけで進めと無言のまま示していた。聖がずんずん進んでいくから、私も付いていくしかない。ううっ、床材がなんか聞いたことのない高級そうな音を立ててる……!

 

「───お待ちしておりました。キャスターのマスター、椎名聖様。ランサーのマスター、臙条叶様」

 

「リーンスフィール・フォン・アインツベルン。ルーラーの召喚者、だな」

 

 ──既視感。

 

 私は、彼女に会ったことはないはずだ。こうして向かい合っても、その顔に見覚えはない。

 

 メイドさんを従える主に相応しい、さらに一段上の人工的な美貌。“完璧なホムンクルス”というのは重複表現のようにも思えるけれど、そう言いたくなるような完全性の化身。血管一つ見えない白肌、紅玉の如き眼、照明にキラキラと煌めく銀髪。目鼻立ちも、ドレスから推察できるプロポーションも、“美”という均整のイデアをそのまま具現化したような、そんな麗人。

 

 こんな人、知らない。会ったことがあるなら、忘れるはずがない。なのに、なのに。

 

 どうして、こんな、驚いていないのだろうか、私は。

 

 混乱している私の横で聖は平然と、

 

「ルーラーは?」

 

「貴方がたもサーヴァントを霊体化させたままのようですが」

 

「ルーラーも居ないのに呼ぶかよ。第一、教会をどう言いくるめたか知らないが、俺はあんたらを信頼した訳じゃ──」

 

「ならば、(ローマ)が居ればサーヴァントを呼ぶのかよ」

 

「ッッ──!!」

 

 声だけで、世界が塗り替わる感覚。さっきまであんなに輝いて見えていた室内が、まるで書き割りだ。

 

 圧、というなら思い出すのは大聖堂前の遭遇。シスター・ミシェルの連れていたサーヴァントが、私の見た中で一番の格だった。

 

 前触れなく顕現した英霊──ルーラー・コンスタンティヌス一世は、それすら上回る“てっぺん”。

 

 彼が本気になって襲い掛かってくれば、きっとまともな戦いにはならない。ランサーでも多分、相手としては不足になってしまう。()()()()()を同じサーヴァントと一括りにすること自体、致命的な誤りだ。

 

「気配は一つ。ランサーか、キャスターか。どちらにせよ、片方は連れてこなかったか」

 

「……キャスターだよ。俺はサーヴァントを連れて来ていない」

 

「そうか。ならば、まずは──ランサーのマスター」

 

「はッ、はいっっ」

 

 存在感に押しやられて観客か何かのようになっていた私にとって、その声はピンスポット。

 

 そこで初めて、そう、初めて私は彼と正対することとなった。

 

 ──金色の原のような豊かな御髪(みぐし)。色だけなら晴れ渡る空を思わせる瞳は、しかし意志の強さが最も強く現れているから、直視しがたい力そのもの。私は最近のアレコレで多少の耐性がついたみたいだけれど、それでもずっと目を合わせていたら、それだけで失神する自信がある。

 

 視線を引っ剥がすように動かす。装束は高貴な戦用のそれ。金銀宝石のゴテゴテしたものではなく、使い込まれ身体に馴染んだ鋼鎧。それでも最高級の逸品なのだと随所に滲み出ている。

 

 王であっても、戦えるのだ。戦ってきたのだ。整えられた身なりに、かすかに血の匂いを嗅いだ錯覚。

 

 これが、ルーラー。

 

 人類の長い歴史の中でも数少ない、“大帝(マグヌス)”と呼ばれた人。

 

 呼吸の如く、命じることを当然のことと思っているであろう彼は私に向かって、

 

「ランサーを呼べ。(ローマ)が見定める」

 

 ──視界の端で、聖が顔いっぱいの渋面を浮かべた。

 

 ルーラークラスのサーヴァントには、見るだけでサーヴァントの真名を見抜ける『真名看破』のスキルを持つという。つまりここでランサーが霊体化を解けば、彼女がワルキューレであることは一発でルーラーにバレる、ということ。

 

 聖が嫌がる気持ちも分かる、本当にルーラーを信用していいのか、私もまだ疑心は残っている。けれど、

 

 ───文句のつけようのないハッピーエンド、実に素晴らしい!

 

 あれはきっと、キャスターの嘘偽らざる本心で、私もそれに共感したから。

 

「……ランサー。お願い」

 

「マスターの命令であれば」

 

 逡巡をはらむ私の言葉に、ランサーは躊躇うことなく姿を現す。

 

 ルーラーの眼が僅か細められる。その美貌を目の当たりにしたにしてはあまりに小さなリアクション。───見極めている。

 

 新聞の見出しを読むくらいの目線の動きと時間ののちに、ルーラーは、

 

「……なるほどな。ランサー。貴様の真名、確かに()させてもらった」

 

「誰かに明かしたりは───」

 

「しない。する必要がない。そなたらが、(ローマ)の裁定の妨げにならない限りは、な」

 

 それでもうランサーに用はないとばかりに、彼はこの場のもう一人のマスター───椎名聖へと向き直る。

 

「それで、貴様は?」

 




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