Fate/second to none   作:吉田一味

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裁定のとき⑤

「貴様のサーヴァント、キャスターを秘匿する気か」

 

「あんたが信用できない限りは、な。教会とどういうやりとりをしたかさえ、俺たちは知らないんだぜ」

 

「貴様にそれを明かす義理もない。あくまで彼らの顔を立てたまでで、(ローマ)は誰に認められずともルーラーであるのだから」

 

 圧倒的な自信。誰かに依って立つのではなく、名も知らぬ誰か、社会構造の側がおのれを支えに立っているのだと確信しているからこその、揺るぎない自我。

 

 椎名聖も、聖堂教会も、聖杯すら無関係に───己は己であると。

 

 傲岸不遜に聖を高みから見下ろして、

 

(ローマ)の意思は、聖杯の意志である」

 

 告げる英霊は、何よりも誰よりも畏ろしく見えた。

 

 聖も返す言葉が無い。コンスタンティヌス一世という存在(えいれい)の厚みに、どれだけ押してもびくともしないと感じたらしかった。

 

 

 

「──そして、(ローマ)に逆らう貴様は、第五次聖杯戦争における危険因子である」

 

 

 

 ──鈍い私でも。

 

 ──空気が変わったのが、肌に刺さる。

 

 わずかに腰を落とした聖は当事者──その重圧たるや私ではないはず。適温なはずのスイートルーム、その床に汗の雫が落ちる。

 

「……だから?」

 

(ローマ)は貴様を断罪する」

 

 それは、一度の不服従に下される極刑。

 

 ルーラーが手を、地と平行に伸ばして翳す。

 

 その先に現れるは、重厚な大剣。ゆっくりと抜かれるその刃が室内灯を反射して光る。疑いようもない殺意と共に。

 

 こんなのもはや決裂以外の何物でもない。聖の険しい表情は、それを悟っていることを言葉よりも顕著に物語っている。まだ駆け引きの範疇だろうに有無を言わせずルーラーが武力に訴えてくるなんて誰も思わない。私だってそうだ。

 

 聖がキャスターを連れて行かないと言ったとき、私は咎めなかった。だって、キャスターの真名は知られたらまずい。異なる歴史──異聞(というらしい)世界の英霊なんて、知らない人が聞けば、十人が十人「そんなやつはおかしい」「そいつは危険だ」って言うだろう。

 

 私がそう思わないのはキャスターの為人を知っているから。確かに宝具の暴走なんかはあったけれど……彼は聖杯戦争を台無しにしようとか、そんなことは思っていないに違いないのだ。

 

 私はキャスターのことを他の人よりはよく知っている。だから彼が悪い人ではないと思うけれど、知らない人の前に連れて行けばややこしいことになるのも理解できる。

 

 もちろんルーラーは質すだろうし、そうなったら援護射撃くらいはしてやるつもりだった、だって私たちは同盟だし。けれど比喩表現のつもりだったのに、このままじゃ本当に戦うことに──

 

「大人しく、首を差し出す──そう思うか?」

 

「貴様の意志など関係ない。(ローマ)の前ではな」

 

 交渉も譲歩もしない。ルーラーはそう告げている。

 

 聖も懐から剣を抜く。隠せるようにショートソードを好む彼と、厳かな長剣をゆったりと構えるルーラーとでは、まるで子供と大人のようだ。

 

「──ッッ」

 

 私も慌てて懐に手を伸ばす。ショルダーホルスターに差して上着で隠していた拳銃に指先が触れるのと、ルーラーが私を見たのは同時だった。

 

 目線のあった瞳孔から絶対零度の針が入って、脳髄まで貫通するような恐怖。視線ひとつで()()()()()()て、私はそれ以上何も出来ないまま無様に固まる。

 

「貴様もこの男の肩を持つのか、ランサーのマスター?」

 

「っ、それは──」

 

 ……ここで頷けば、「そうだ」って言えば、ルーラーは容赦なく私も斬るだろう。聖ならまだしも、私はそんなものどうにか出来るハズがないから、真っ二つ。

 

 そうしたらランサーにも迷惑がかかっちゃうな。私もさすがに、そんな無意味で無価値な死に方はゴメンだ。

 

 ──けど、そんな打算で仲間を見捨てるのも、違う気がして。

 

「か、肩って言うか──ここで聖を殺しても、キャスターはすぐ消えないでしょ。それなのに……」

 

「問題ない。再契約するより前に排除するまで」

 

「でもっ──」

 

「臙条。大丈夫だから」

 

 聖が、こんな状況なのにニッと笑いかけてくる。何を見たのか、それは死を覚悟した人間の諦めの表情ではなく、何かの可能性を掴んだ人間の──

 

「では、さらばだ。キャスターのマスターよ」

 

 裁きの剣が、天を指す。

 

 あれが振り下ろされれば、椎名聖は絶命する。

 

『ランサー! 来るぞッ』

 

「────えっ?」

 

 けれど、そうはならなかった。




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