英霊たちの激突から離れた場所で。リーンスフィール・フォン・アインツベルンの
「ッ────」
下手人は、今度こそアサシン。髑髏面の人影が退けば、ホムンクルスにも人間と同じアカイロの血が流れているのだとよくわかる。それくらい鮮やかな背後よりの一突き。
深紅が胸元に花開く。
──致命傷だ。一目見て判る。あんなもの、いくら魔術師だって助かるワケがない。
出血量から見ても、
「なるほど、陽動か。他のサーヴァントを巻き込んで動かし、己の気配を紛れさせてマスターと思しき人間を排除する。
アサシンの目論見を淡々と語るルーラーの言葉に、納得感と違和感と嫌悪感とが、同時に押し寄せてくる。
強力なサーヴァントを脱落させる定石といえばマスター殺し。それはアサシンの十八番でもあり、だからこそ奇妙でもある。
ルーラーだってアサシンの存在は認知していたはずだ。ではなぜ、『
考えられるのは、消滅することを厭わないか、あるいは──
「それで?
──あるいは、そもそも現界のために必要な存在ではないから、どうでもいいパターン。
「
「う、そだろ──」
「貴様らの浅知恵は、無為だったな。だが無駄ではなかった」
朗々と響き渡る声。誰も、その声を遮って動くことすらできない。
──これは死刑宣告だと、この場に居る全員が……いいや、きっとこの場に居ない者たちも、理解していた。
「よく理解した。
ぐるりとあたりを見渡す。目いっぱいに手を広げて、彼はこう言った。
「──貴様ら、皆殺しだ。これを
判決は下された。宣告は為された。
大帝の名のもとに、これより始まるのは──処刑だ。
「────、は」
頑張ってきたと思う。右も左も判らないなりに、必死になって、被害がなるべく出ないように。その結果が、これ?
私たちの聖杯戦争は間違っているから全員殺しておしまいにしますって、いくら何でも非道すぎるだろう。聖人とやらの出す答えが、こんなものか。
膝の力が抜けるのを感じる。頑張っていないと立っていられなくて、けれど、立っている理由ももう、ないじゃないか。
私以外は、どうしているんだろう──そう疑問に思って横に意識を向ける。もしかしたら、そうすることで縋ろうとしていたのかもしれないけれど、すぐに自分の感情なんか吹っ飛ぶこととなった。
ランサーの眉根は吊り上がり、聖は強く歯ぎしりをしていた。
「ふざけんなよ、天下のローマ皇帝陛下が当たり屋してきやがって……ッ!」
「え、ど、どういうこと」
「
「うそっ、何で!?」
それが事実ならば裁定などあってないようなもの。端から私たちの話など聞く気もなく、最初に来た私たちがちょうどよかったからきっかけにされただけということになる。
到底看過できなくてルーラーを睨む。彼は否定するでもなく平然と、
「聖杯は
朗々たるその宣言は、ルーラー以外のサーヴァントの口から出たものであったならば、別段咎められることもなかっただろう。だが、ルーラーは、ルーラーだけは、それを言わないはずだ。
聖人は願いを持たず召喚される。そうでなければ、聖杯戦争の裁定者など務まらない。そう聞いている。
では、彼は聖人ではないのか? 聖杯戦争の裁定者として不適格な、あるいはそもそも裁定者を僭称する偽りのルーラーなのか?
「聖杯は使わない、そう誓ったはずだ、ルーラー!」
「アーチャー……!」
広い室内を飛んで距離を保っていた雷騎も叫び──ん? え、ルーラーって誓いとか立ててるの?
「教会でサインした証文はどうした! 貴様は誓いを無に帰すというのか! 答えろ、ルーラー!」
『……どうやら、今朝の聖堂でそういった取引があったようですね。聖杯を使わない代わりに、教会は
キャスターの念話解説で事情は理解でいきたからありがたいけれど、尚のこと分からない。誇り高い英霊ともあろう者が、約束を違える真似なんかするだろうか。
非難にもルーラーはどこ吹く風。
「無論、使うつもりはない。願いもない。ただ
伸ばした手は、
私は、強く握りしめたその掌の中に、私たちの心臓を幻視した。
「それが聖杯と名付けられたものであるならば。聖遺物は悉く、
──コンスタンティヌス一世は自らの母、聖ヘレナを聖地へと派遣したという。
目的は、教会の建設と、聖遺物の捜索。