「危な、ッ」
何が何だか判らないまま、本能の警鐘に従って彼の襟首を掴んで引きずり倒そうとする。けれど、
「おああッ!?」
聖が、私を抱えて転がりまわる。上下(というか左右?)する視界の端で、直前まで私たちの頭があった位置を猛スピードで横切る光盾が見えた。
目の当たりにすれば明らかな話で、敵の宝具はサーヴァントの攻撃を防げるほど硬くて、ある程度自由な位置に出現させられて、そしてどうやら動かせるらしいモノ。防御にしか使えないというのは狭い発想──ぶつければ普通に凶器だ。特に、私くらいのただの人間ならば。
それを、咄嗟の判断でローリング回避する、
「危ねェ……ッ! そりゃあマスター狙いするのが楽だろうけど、二騎相手取って、アサシンにも気を配りながら殺しに来るかよ……!」
「っは……今、何で言う前に、判ったの」
精一杯急いで起き上がった私の横で、聖はすでに態勢を整えている。ルーラーの追撃に備えているのだろうが、
それでも彼は、ルーラーから視線を切らないまま、
「あ? あんだけ血相変えて跳びかかってきといて何言ってんだ。気づいてないなら言っとくと、
……聖が何か、まだ説明している。聞かなくちゃ、と思うのに、それどころじゃなくて内容が頭に入ってこない。今の言葉が、
以心伝心、と言うんだっけ。言葉を交わさずとも考えが通じること。
それを実現したのは、きっと、信頼。
別に、私の全部を信じられてるとまでは思い上がりはしないけれど。たった一部、私の目だけでも“信じるに値する”と思われたことが、私はこんなに──泣き出してしまいそうなほどに、嬉しい。
──死ねない。そう思った。
私たちはみんな、確かにちょっと変かもだけれど、何も悪いことはしてないのに、一方的に殺されるなんて納得できない。
私を殺すというのならば、ちゃんと罪状を突き付けて、それを納得させてからにして欲しい。
こんなのは、嫌だ。
「──だからな、臙条はとにかくルーラーから目を放すな……聞いてるか?」
「うん。うん……! 勝とう、聖……! 勝って、生き残るんだ……!」
私の感極まった言葉に、聖はハトが豆鉄砲をくらったみたいな顔。
「……何に発奮してるか知らないけどな、最初っからこっちはそのつもりだよ! いいから、しっかり目ェひん剥いて──」
「──
「ッ、な──!?」
声の主は、ルーラー。
彼の背、その片側。天使の羽か、仏像の飾りか、輝きが開く。
無数の令呪が、彼の言葉を偽りではないと証明していた。
「マズい、まさか──」
聖が泡を食って左手、彼の令呪を翳す。アーチャーはホテルの外を仰ぎ飛び上がって、ランサーが私を振り返る。その表情は見たことも無いほど必死なもの。
ルーラーは『
そして私は、そういったアレコレを、ちょうどスローモーションのように、ただ茫然と見ているだけだった。
「
「──
ランサーが、その手に握る槍を、自らの胸に突き立てる瞬間も。
臙条叶という役立たずは、何も出来ずに。
──この時、聖堂教会の大型霊基盤によって、計十三画の令呪消費が観測され、一時計測機能がオーバーフローにより停止した。
──ルーラーによる、第五次聖杯戦争にて召喚されたサーヴァント七騎への自害命令と、
──ただ、そのような事実のみが、記録には残されている。