Fate/second to none   作:吉田一味

34 / 48
赫世異産②

 

「案ずるな。貴様らも逃しはしない。逝く先は違えど、ここで終わることに変わりはないのだから」

 

「終わらねえよ、終わってたまるか……! テメェなんかに、勝手に終わらせられてたまるかよ!」

 

 剣を構える聖。今にも飛びかかる寸前の彼に、ルーラーは正対することもない。裁定者からすれば、椎名聖など()()()()()()()()()の一本に過ぎないのだから。先刻名乗った名も、覚えているかどうか。

 

 それを油断、慢心の類いと見るかは人それぞれだろう。ルーラーの評価は侮りではなく、聖の身のこなしを量って『我この徴にて勝てり(ラバルム)』の一枚をも()き得ないと分析を下したまで。悲しいかな、今の聖には妥当な点数だ。

 

 ──だが、それでも。椎名聖のその眼だけは、只ならぬものを感じさせた。

 

 死を()らず立つ幼い蛮勇ではない。

 

 これは、死に近いモノにのみ許された眼だ。

 

 ルーラーは、コンスタンティヌス一世は、生前にそういう眼をするモノと対峙したことがあるのを思い出す。

 

 それは、世に災いを成すモノだった。

 

「────貴様。貴様は──」

 

 椎名聖は答えない。ルーラーが勝手に考え込むぶんには好都合だから。背に庇う二人、臙条叶の令呪が臨死のランサーにどう機能するか、それとも無為に終わるか──それを見極めるまでは、時間はいくらあっても足りるということはない。

 

 ……けれど、そうではないモノもこの場には居た。

 

「させん。貴様には、何も。ランサーも、万一ということが──」

 

 それは聖に警戒心を抱いたルーラーであり、そして──

 

 

 

「『動く、な゙、ル゙ーラー』ッ」

 

 それは、完全に不意を打っての令呪行使。

 

 ()()()()()()()()()()はずのリーンスフィール・フォン・アインツベルンが、血の痰の絡んだだみ声で叫ぶのを、予想しろという方が難しいだろう。

 

 体を張った奇襲は完全に成功し、ルーラーの動きはぴたりと停止する。

 

 聖からすればこの上ない好機のようでいて、迂闊に手出しを出来ないからやはり固まるしかない。ここぞとばかりにルーラーを害しにかかって、リーンスフィールがどう動くか読めないのだから当然だ。

 

「げッ、ごぼっ、あ゙、あー……。うん、そうそう。それでいいよ。キミが馬鹿じゃなくて良かったよ」

 

 気道に漏れ出た血液を吐き出しながら、やけにフランクに、先刻までとはハッキリと異なる口調で、彼女は聖の判断を褒めてやった。

 

 聖に、返事をする余裕はない。

 

 確実に致命傷だったはずだ。ルーラー現界の依代を破壊して消滅させるという目算自体は外れたものの、アサシンの仕事は実に見事な一撃だった。あれは誰でも、それこそ聖でもルーラーでも喰らえば死ぬ美技。

 

 なのに、リーンスフィールは立ち上がった。胸元から()()()()と鮮血をまき散らしながら──

 

「────……は?」

 

 ──零れた血液が、逆回しに傷口に戻っていく。

 

 そこにだけ物理法則が適用されていないような異常事態。赤に染まった絨毯も、ぐっしょり濡れた衣服も、顔にくっついた髪の毛も、何事もなかったかのように刺される前の状態に立ち返っていく。

 

 ややあって、立ち尽くす男二人の前にあるのは、刺される前と寸分違わぬ健康体のリーンスフィール・フォン・アインツベルンの姿。

 

「ああ、やれやれ。もうしばらくはじっとしているつもりだったのになぁ。まさか守ってくれないとは、酷いじゃあないかコンスタンティヌスさま」

 

 馴れ馴れしくふざけた口調で煽る女性が、無機質なリーンスフィールと同一人物とはとても思えない。

 

「おかげでこんなところで出番だなんて、まさかまさかさ。これ以上は本当に、()()()()が保たないから──」

 

()()()()……ッ!」

 

 どうか違っていてくれ、と縋るような椎名聖の言葉を、リーンスフィールの姿をしたソレは微笑、無言で肯定する。

 

()()()が死んじゃったら、パスも切っちゃうだろうし、令呪も消えちゃう。()()()だって壊れるし……それに」

 

 ──ずるり。

 

「実はそろそろ、この子の中も窮屈になってきたところだったし、ね。重覆(インヴェイジョン)はおしまい」

 

 ソレは、そいつは、リーンスフィール・フォン・アインツベルンから這い出て軽やかに、嵐の通り抜けた後のフユキ・ハイアットホテル32階に降り立った。右手のみが血液のように赤く溶けて、ホムンクルスの口の中に繋がっている。

 

 華美な服装は()()の美貌を見事に引き立てている。どこか男性装のようなデザインも、立ち居振る舞いと実に見事にマッチしていて、ファッションへのこだわりが反映されているのが伺えた。

 

 では、それを纏うのは、どんな女性か。

 

 赤い髪に、赫い瞳。そして、アインツベルンの非人間的・人工的な白い肌とはまた別系統の、()()()()()血の気の失せた透き通る肌。

 

 何より着目すべきは、ニヤリと嗤う口元、垣間見える牙。

 

「──死徒……!」

 




この続きは以下で最速公開中です。
https://fate-second-to-none.com/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。