「案ずるな。貴様らも逃しはしない。逝く先は違えど、ここで終わることに変わりはないのだから」
「終わらねえよ、終わってたまるか……! テメェなんかに、勝手に終わらせられてたまるかよ!」
剣を構える聖。今にも飛びかかる寸前の彼に、ルーラーは正対することもない。裁定者からすれば、椎名聖など
それを油断、慢心の類いと見るかは人それぞれだろう。ルーラーの評価は侮りではなく、聖の身のこなしを量って『
──だが、それでも。椎名聖のその眼だけは、只ならぬものを感じさせた。
死を
これは、死に近いモノにのみ許された眼だ。
ルーラーは、コンスタンティヌス一世は、生前にそういう眼をするモノと対峙したことがあるのを思い出す。
それは、世に災いを成すモノだった。
「────貴様。貴様は──」
椎名聖は答えない。ルーラーが勝手に考え込むぶんには好都合だから。背に庇う二人、臙条叶の令呪が臨死のランサーにどう機能するか、それとも無為に終わるか──それを見極めるまでは、時間はいくらあっても足りるということはない。
……けれど、そうではないモノもこの場には居た。
「させん。貴様には、何も。ランサーも、万一ということが──」
それは聖に警戒心を抱いたルーラーであり、そして──
「『動く、な゙、ル゙ーラー』ッ」
それは、完全に不意を打っての令呪行使。
体を張った奇襲は完全に成功し、ルーラーの動きはぴたりと停止する。
聖からすればこの上ない好機のようでいて、迂闊に手出しを出来ないからやはり固まるしかない。ここぞとばかりにルーラーを害しにかかって、リーンスフィールがどう動くか読めないのだから当然だ。
「げッ、ごぼっ、あ゙、あー……。うん、そうそう。それでいいよ。キミが馬鹿じゃなくて良かったよ」
気道に漏れ出た血液を吐き出しながら、やけにフランクに、先刻までとはハッキリと異なる口調で、彼女は聖の判断を褒めてやった。
聖に、返事をする余裕はない。
確実に致命傷だったはずだ。ルーラー現界の依代を破壊して消滅させるという目算自体は外れたものの、アサシンの仕事は実に見事な一撃だった。あれは誰でも、それこそ聖でもルーラーでも喰らえば死ぬ美技。
なのに、リーンスフィールは立ち上がった。胸元から
「────……は?」
──零れた血液が、逆回しに傷口に戻っていく。
そこにだけ物理法則が適用されていないような異常事態。赤に染まった絨毯も、ぐっしょり濡れた衣服も、顔にくっついた髪の毛も、何事もなかったかのように刺される前の状態に立ち返っていく。
ややあって、立ち尽くす男二人の前にあるのは、刺される前と寸分違わぬ健康体のリーンスフィール・フォン・アインツベルンの姿。
「ああ、やれやれ。もうしばらくはじっとしているつもりだったのになぁ。まさか守ってくれないとは、酷いじゃあないかコンスタンティヌスさま」
馴れ馴れしくふざけた口調で煽る女性が、無機質なリーンスフィールと同一人物とはとても思えない。
「おかげでこんなところで出番だなんて、まさかまさかさ。これ以上は本当に、
「
どうか違っていてくれ、と縋るような椎名聖の言葉を、リーンスフィールの姿をしたソレは微笑、無言で肯定する。
「
──ずるり。
「実はそろそろ、この子の中も窮屈になってきたところだったし、ね。
ソレは、そいつは、リーンスフィール・フォン・アインツベルンから這い出て軽やかに、嵐の通り抜けた後のフユキ・ハイアットホテル32階に降り立った。右手のみが血液のように赤く溶けて、ホムンクルスの口の中に繋がっている。
華美な服装は
では、それを纏うのは、どんな女性か。
赤い髪に、赫い瞳。そして、アインツベルンの非人間的・人工的な白い肌とはまた別系統の、
何より着目すべきは、ニヤリと嗤う口元、垣間見える牙。
「──死徒……!」