──視界は赫に染まった。
顔を上げても、紅、朱、赤。それ以上の詳細は、涙にくれたこの瞳ではよく見えないけれど……涙のせいだけでなく、何か別の要因で
あの人──リーンスフィールの内側から出てきた“赤い女性”。彼女が何か魔術を使ったのだろうけれど、分析できるだけの知識もないのに注意を向けてなどいられるものか。
私はランサーに向き直る。
「ランサー、大丈夫だからね……! 令呪も効いてるし、こんな傷っ、すぐ塞がるから……!」
彼女の胸、ちょうど心臓のあたりには空洞が口を開いている。彼女が自分で──令呪に命じられて、魔銀の槍で──開けさせられた致命傷はしかし、その後私が使った令呪の力もあってか不思議に煌めいている。
キラキラと光の粒子が、傷口から溢れ出す。それは胸のトンネルのあたりに
……どこかで、似たような光景を──
「…………あ」
フラッシュバックするのは、廃サナトリウムでの一件、その発端。
私たちが追っていた幻獣、六本脚の羚羊は先んじてアサシンに捕獲され、誘き寄せるための囮として廃屋に捕らわれていた。それを発見したランサーが、私の合流時には既に始末していて──
今のランサーからこぼれているのはあれと同じ、霊基とやらの崩壊反応──!
「ぁ……ぁぁあ、あぁぁあ……!!」
光は決して彼女の身体に戻ることはなく、ただただ戦乙女の輪郭を
現にランサーの顔色は悪いを通り越して、透き通っているのではないかと錯覚させるほど。荒い息だって一向に収まらないし、ずっと私を守ってくれていた強くて美しいひとが、私なんかの支えがなければ倒れ込んでしまうまでに弱っている。
もう一画、令呪を使えば良くなるのだろうか。判らない。判らない。何も、どうすればいいのか。
「臙条……ランサー、は──」
駆け寄ってきた聖が絶句する。
そんなに、酷いの。かける言葉も見つからないほど、どうにもならないの。
きっとすがるような目だったに違いない。マスターであるというだけの、無力な小娘の最後の希望は、もう
けれど、別に、彼にだって。
「…………ッ」
どうにもならないことくらいあるという、自明の理があるだけ。
椎名聖も立ち尽くす。彼が手を強く握りしめる音が、私の耳にも届いて、それが私の心を締め上げる。
結局、私たちは無力で、私は愚かで、ただ見送ることしかできないまま。
なにか気の利いたことも言えないうちに、ランサーは光の中に消えていってしまった。
「あぁぁ……あぁぁぁあああぁああ──!!」
手の甲に刻まれていた赤い紋様、円を十字が切り裂くような私の令呪が薄れ、消える。最初からそこには何もなかったようなつるっとした肌、だけ。それがより強い実感となって、私の胸を打ちのめす。
ああ、臙条叶の聖杯戦争は終わったのだ。
たった一度の愚かしさ、未熟さゆえに。
「うあぁあああ゙あ゙ッ、あぁぁぁあああ……ッ!」