Fate/second to none   作:吉田一味

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(2026/04/18)話末に、次話への繋ぎとなる部分を追加しました。次話公開の時にここも追加しておくはずだったのを失念していた……。


異邦人、かく語りき

 リビング。いつも食事に使うテーブルを挟んで、三人。

 

 私こと、臙条叶(えんじょうかなえ)

 

 私の使い魔(サーヴァント)、ランサー。

 

 その向かいに、同盟を申し入れてきたキャスターのマスター、椎名聖(しいなひじり)

 

「──それで、キャスターは?」

 

 そう。舞台にはあと一人、肝心の主役を欠いたままだ。

 

「そろそろ来る」

 

 そう告げたきり、むっつりと押し黙る聖。

 

 キャスターの真名についてはキャスターが来てから、というのは彼の弁で道理だとは思うが、それだけではこうも黙る理由にはならない。もしかしてだけど、──緊張してる?

 

 引きずられるようにこっちも口が重くなり、三人もいるのに静寂が訪れる。

 

 それを破ったのは、聞きなれた来客のチャイム。

 

「────」

 

「来たか」

 

 聖は素早く立ち上がって、いち早く玄関へと向かう。ここは私の家で、私が通すのを待っていればいいのに、これで郵便の配達だったらどうするつもりなのか。慌てて追いかけると、既に彼は客人を迎え入れているところだった。

 

 一応咎めようとして──その姿に、言葉が詰まった。

 

「失礼。遅くなりました」

 

 ……やってきたのは、老人だったのだ。

 

 上品なスーツを纏い中折れ帽子をかぶっているその男性は、その物腰も上品だと立ち居振る舞いだけで判る。白人……だけど多分、本国の人じゃない。どこの訛りだろう?

 

 綺麗に白く染まった髪と眉の下、眼は歩いている間でも閉じられたまま。にも関わらず危なげなく、ゆっくりとではあるが玄関を上がってくる。片手には杖──あくまで歩行補助用のステッキで、映画(ハリウッド)の登場人物が奇跡を起こすために振るうゴテゴテしたそれではない──反対の手にはこれまた一般的な、大きなキャリーケース。それを聖に渡すと、老人はやれやれと肩をすくめた。

 

「この身になって荷運びをする日が来ようとは。人生とは驚きに満ちていますね」

 

「前線には出ないって言ったのはアンタだろう。だったらこれくらいは働いてもらうさ」

 

 口調からして、互いにある程度心を許し合っているのが見て取れる。それにまさか、いくら何でもこのタイミングで他人(ひと)ん家に全く無関係の赤の他人を招き入れる、ってこともないはず。

 

 だから彼が、()()、なんだろうけれど……。

 

 ──サーヴァントは全盛期の姿で召喚される。そうランサーから聞いていたから、不意打ちを喰らった気分。

 

 “魔術師(キャスター)”のクラスから思い浮かべていた一般的な姿かたち(パブリック・イメージ)からは乖離した、どっちかと言えば紳士(ジェントル)って感じの印象を与えるお爺さんだ。あるいはクラス名が“賢者”とかならまだそれっぽい、かな?

 

 遠巻きにしっぱなしってのも印象悪いし、ここ一応私の家で、私は家主だし。自分から理由を見つけて、どうにか話しかける勇気を出す。

 

「あな、たは」

 

「ああ、これは失敬、お嬢さん。私はキャスター、こちらの彼のサーヴァントです。お邪魔してもよろしいかな?」

 

「あ、は、い。どうぞ」

 

 にこやかに、そして穏やかに。

 

 やはり外見からは全く連想できないことをさらりと告げられると、困惑するしかない。

 

 やはりこの人が聖のサーヴァント。けれど、歩くにも杖の手助けを借りている人間が、ランサーと同じ土俵で、戦う──?

 

 無茶だ。白状すると、頑張れば私でも勝てそうって思えちゃう。

 

 だってこんな、おじいさん。

 

 私が見やる後ろ姿は、リビングの扉へと消えていく。

 

「────」

 

 ……思ったよりは、矍鑠(かくしゃく)としてる、な?

 

 

 

* * *

 

 

 

 キャスターを追いかける形で戻ると、いつも冷静なランサーもさすがに動揺していた。

 

「貴方が、キャスター……ですか」

 

 あ。やっぱりおかしいというか、珍しいことっぽい。良かった──常識外れが続くから、自分の認識の方を疑いつつあったのだ。

 

 対するキャスターは、ただ穏やかな距離感を保つまま。初めて会う仕事相手───くらいの距離感、だろうか。

 

「そういう貴方はランサー。なるほど、なるほど」

 

 一人合点しながら着席するキャスター。

 

 卓に着かれて「よろしく」と言われてしまえば、ひとり臨戦態勢で居るのも滑稽になってしまう。キャスターの間合いの勝利ともいえるかもしれない。あるいは意外と武闘派、戦いに偏った思考の持ち主であるランサーのことだから、『この人なら簡単に制圧できそうだし大丈夫』と戦力的に判断した可能性もある。

 

 私としても自宅のテーブルを槍で穴だらけにされるのは堪らないから、話し合いは歓迎だ。

 

 改めて四人着席して、二対二で向き直る卓上。口火を切ったのは同盟の提案者、椎名聖だった。

 

「同盟関係についてだけどな」

 

 彼の説明する詳細は以下の通り。

 

 ──サーヴァント最後の二騎になるまで、互いに協力し合う。マスターであれサーヴァントであれ、危害を加えてはならない。

 

 ──聖杯戦争に参加するサーヴァントが自分たちの二騎だけになったと誰かが判断し、全員がそれに同意した場合、同盟は終了となる。

 

 ──同盟の締結に際して、キャスターの真名をランサー陣営に開示する。

 

「……で、合ってる?」

 

「ああ。認識に相違ない」

 

 サーヴァントたちは口を挟まない。契約によほどの瑕疵、陥穽があれば制止するだろうけれど、黙っているということは問題ないと判断したらしい。自分の真名を明かす契約を結ばれているキャスターも、きちんと話は通っていたようで、ことさらに異を唱えることはなかった。

 

「それじゃあ、これからよろしく」

 

「ああ、よろしく頼むよ。──これで俺たちは同盟だ」

 

 私たちの握手で、それぞれの令呪が光り、熱を帯びる。聖が用意していたその魔術は、令呪を礎として発動・維持される、令呪ある限り破れない契約魔術。聖杯戦争中の一時的な契約ならこれで十分だろうとのことだし、私も後のことはどうでもいい。ランサーにも確認してもらって、変な仕掛けとかはないのもチェック済み。

 

 ──かくして。ランサーとキャスターの同盟は結ばれた。

 

「同盟ってのも味気ないし、何か名前つける?」

 

「ランサーとキャスターの同盟なので、槍と術で──槍術(そうじゅつ)同盟?」

 

「ランサーは一人なのに、何か全員槍で戦うニュアンスじゃないか、それ」

 

 ……もしも、の話ではあるけれど。

 

 もしも、椎名聖か、キャスターか。どちらか、あるいはどちらもが人道に背く外道であり、討たねばならないとなったなら。

 

 令呪さえ諦めれば、契約は破棄される。聖杯戦争の脱落を代償として、邪悪は止められる。

 

 ──いざとなった時には、そういう決断もしなければならない。それが彼らと同盟を結んだ者の責任というヤツだと思うから。

 

 私の勘的には、どちらもそんなに悪い人ではないんじゃないかな、とも思うんだけれど。

 

 とまれ、それを確かめるためにも、そして約束的にも。

 

「早速ですが、キャスター。貴方の真名を開示していただけますか」

 

 そう、それ。

 

 さすがランサー、私のサーヴァント、以心伝心。

 

「そうですね。マスター、構いませんね?」

 

「マスターが二人いるのにその呼び方も面倒を招くだけだ、名前でいい。……ああ、さっさと教えてやってくれ。実を言うと、こっちだって待ちくたびれてるんだ」

 

 ランサーとキャスターはクラス名で呼べばいいとして、臙条叶(わたし)椎名聖(かれ)を両方マスターで識別するのは面倒だ。非常時の一瞬が惜しい時に、「ランサーのマスター」「キャスターのマスター」なんて長ったらしい呼び方してられない。今の内から慣らしておく必要がある。どうせもう私の身元も他の陣営にバレているだろうし……っと、そんなコトより。

 

「待ちくたびれって、どういう──」

 

「では」

 

 キャスターの一言が、さしたる力強さもないのに、一気に引き戻す。

 

 いよいよ明かされる、キャスターの真名。彼がどこの出身で、どんな人生を送り、何を得意とする魔術師(キャスター)なのか、そのすべてを紐解く最大のヒントが、その口から──

 

「私の名前は、()()()()()()()()()()()()。アルゼンチンの作家です」

 

 ──?

 

「え、と……ごめんなさい、ちょっと私、聞いたことなくて……。アルゼンチンって、南米の? 作家さん、なんですか?」

 

 ……語られた、のに。全く分からなかった。

 

 魔術師のクラスって言ったじゃん。物書きが召喚されるなんて、そんなパターンあり? というか、どうするのこの空気。めちゃめちゃ気まずいんだけど。私が不勉強で存じ上げないのは誠に申し訳ないんだけど、聖もさあ、こうなることくらい予測できそうなもんじゃないの!?

 

 ぐわっと恨みを込めた視線で突き刺してやろうと睨むと、当のマスターたる椎名聖まで、

 

()()()()()()

 

 なんて、真顔でとんでもない事を言い出す始末。

 

「ふざけんなっ、あんたのサーヴァントでしょうが──」

 

 がたん!

 

 大きな音は、ウチの居間の古くて重い木製の椅子が勢いよく押された音。

 

「………………そんな、ことが」

 

「えっ、ら、ランサー?」

 

 彼女は今までにないほど感情を露わにして、椅子から立ち上がっていた。

 

 唇は戦慄き、指は震え、切れ長の眼がまん丸に見開かれている。よほどの驚きなのだろう。例えば、彼は作家と語ったけれど、実は暗号か何かの別の意味を示唆する言葉だったのかも知れない。

 

「どうしたの、何が──」

 

「……マスター。()()()()()()()()()()()()()()んです」

 

「…………はっ?」

 

 それって、どういう。

 

 だって、召喚されたサーヴァントは聖杯から知識を与えられる、んじゃないの? サーヴァント本人、ランサーがそう言ってて、何て便利なんだ聖杯、私にも次のテストの範囲の知識授けてくれって感心した記憶だってあるよ? まさか聖杯が与える知識に、聖杯戦争で呼び出されるほどの英霊についてが含まれないなんて、そんな本末転倒なコトあっていいの?

 

「……やっぱりか」

 

 聖は深刻な顔で勝手に納得してるし。ちょ、ホントに意味分かんなくなってきたんだけど!?

 

「どういうこと、説明してよ!」

 

「悪い、ランサー、それに臙条。ぶっちゃけ、真名は交渉材料としては不適切だったんだ」

 

 だって、誰も知らないだろうから、と続ける彼は、しかし“騙してやったぞ”という悪意に満ちたそれではない。むしろ、自分もまた追いつめられているような険しいもの。何せ己の召喚したソレが何者か、彼もまるで分らないから困っているんだろう。

 

 ──ああ、そういう。

 

 オーバーヒート寸前だった感情は、不思議と。

 

 スイッチを切り替えるように、一瞬で急降下。

 

「これを。確認したくて、同盟を──?」

 

 真名をベラベラと喋るサーヴァントなんているはずない。そんなことしたって聖杯戦争において何の利もないし、ブラフと思われて誰も信じない。だから同盟の代価という、信じざるを得ないシチュエーションを用意して、自分のサーヴァントの正体を掴むために、わざわざ……!?

 

 真名の情報さえ確認すれば、私たちに用はないのか。最後まで残しさえすれば契約には反しないし、他のサーヴァントを狩って回って、私たちは()()()()()()()()()()()ってわけ。

 

 利用されたのだと悟って冷めていく私と、冷静ではあるようだけれどいざという時は冷静なまま刺しに行くであろうランサーに向けて、彼は降参するみたいに両手を挙げてみせた。それは彼もまた、キャスターの真名についてほとほと困り果てていると言いたげなジェスチャー。

 

「そうじゃない、協力したいってのも真実さ。けど、まあ、そうだな……。他のサーヴァントすら知らないかもしれないって、それを確かめたかったのも、ある」

 

「……? 『知らないかも』って、なに。『確かめたかった』って、まるで原因が分かってるみたいな、口ぶりじゃない?」

 

「ああ。キャスターの真名は誰も知らない──その理由は、推察が付いてる」

 

「な……じゃあさっさとそれも言ってよ!」

 

 もったいぶりやがって、こいつ!

 

 そろそろ()が出そうな私に対して、

 

「落ち着けって。ちゃんと区切った方が頭に入るだろ。キャスターの真名だって、伝えるからには覚えてもらわにゃならん情報の一つだ。情報の濁流に押し流されて『何だっけ』じゃ困る」

 

 この男は、どこまでも冷静だった。

 

 いっそ腹立たしいくらいだけれど、ここでその冷静さにつっかかっても、話が無限に逸れていって、私の器の小ささが露呈していくだけだ。

 

 ……なんとか、怒りを飲み下す。

 

「……で、なに? その理由ってのは」

 

「そこから先は私が引き継ぎましょう。なにせ私の事情ですから」

 

「あ、はい……」

 

 好々爺といった感じのキャスター相手だと、感情を爆発させられないから、早くもこの人は少し窮屈……なんて、本人には言えないけれど。

 

「結論から。私は()()()()の英霊ではないようなのです」

 

「この世界……以外の英霊が、いるんですか」

 

「どうやら。確かに奇妙な話にはなりますが、しかしそう考えれば納得ではあるのです。この世界に根差した聖杯は、この世界の知識を授ける。であれば、この世界の英霊でない私の情報は、聖杯も授けられなくて当然でしょう」

 

 よその世界が本当に存在するとして、そこにこことは別の英霊が居るとして、その情報まで与えていけば際限がない。いくらサーヴァントと言えど覚えられることには限度があるだろうから制限されているかも知れないし、さりとてキャスターは異邦人と言えど聖杯戦争の参加者。だからどちらに転ぶか分からなかったのだろう。

 

 聖もそれを確かめたかった、ということか。

 

 もしもランサーが知らなければ、キャスターの状況をより確実に把握できる。聖杯がキャスターの真名について、他サーヴァントに授けていればそれでも構わない。そうなればキャスターの真名を手土産として同盟関係を構築するまで。どちらでも構わない、そう判断して私たちと同盟を組んだということ。

 

 捻じ曲がってはいるけれど、これも一種の信頼関係、なの、かな。

 

「この世界の聖杯が、どうして、その……異世界の英霊であるキャスターの召喚を?」

 

「それは、不明です。よほど奇妙な縁でもあったのか、あるいは──」

 

 そのあとに、言葉は続かなかった。聖が面倒くさそうに手を振る。

 

「そこらへんは、おいおいな。それより、ホラ。話の続きはまだあるあるだろキャスター」

 

「そうですね。これに関しては、私も気にかかる──というより、知りたい事ですから」

 

「……キャスターが、ですか?」

 

「ええ。貴方たちが私の知る世界を異世界と言うように、()()()()()()()()()()()()()()ですから。その差異、実に──興味深い」

 

「──あ」

 

 “サーヴァントの真名を聞いても正体が分からない”という大問題(インパクト)で、彼が異世界人だということが頭から吹っ飛んでいた。

 

 く、ホントに聖に文句つけられないじゃないかっ、この鳥頭……!

 

「けど確かに……アルゼンチンってことは、まったくの別世界ってワケじゃないんだよね?」

 

 まさか鳥人間の支配するアルゼンチン超能力帝国とかだったらそれはもう私の知ってるアルゼンチンじゃないけど。違うといいけど。

 

「ええ。マスター──聖が貴方がたに会いに行っている間に、この世界の歴史書を紐解きました。ある段階で、異なる歴史に分岐したようです」

 

「ある段階って?」

 

 

 

「明確に異なるのは、1945年。第二次世界大戦での大日本帝国の敗北による、“日本”という国体の滅亡からです」

 

 

 

「え……キャスターさんの方では、違うの?」

 

「ええ。私の知る歴史でも、大日本帝国は敗北しました。けれど滅亡はせず、アメリカ合衆国の一時的占領の後、主権は回復。日本国として、私の死亡する1986年時点まで存続していました」

 

「何それ……。じゃあ準州は?」

 

()()()()()()()()()()()()()()アメリカ合衆国サウス・ジャパン準州群サイカイド(西海道)準州という呼称は存在しません。日本国は日本列島──本州、四国、九州、それと北海道──からなる単一国家です」

 

 母国語は米語ではなく、日本語。

 

 貨幣は米ドルではなく、日本円。

 

 銃の所持なんてもっての外で、

 

 学校教育は(ショウ)(チュウ)(コウ)とかいう、なんだかオモシロい響きの三段階に、あと大学。

 

 キャスター──異世界の作家だという彼の語る“日本”は、どうも、私の知るニホンとは全く違って。

 

 まさしく異世界と表現するべき、比較にもならない彼方だった。

 

 

 

***

 

 

 

「はあぁぁー……。そんな世界もあるもの、なんだね」

 

 ひとしきり話して、それも終わって。私はキャスターの語った世界に圧倒されていた。圧倒され過ぎて、椅子にずべっと座っているのは不作法だけれど、今だけは許して欲しい。

 

 ただ───驚きはしたけれど、実のところ、驚き(そこ)止まり。

 

 違う世界の日本がどんな歴史をたどってても、言ってしまえば私には縁のない話なのだから。

 

 そりゃあまあ、例えばアメリカ本国の準州への扱いにちょっとそれはどうなの、こんな扱いを受けるくらいならいっそ独立しちゃえばいいのにって思う日とかも、無きにしも非ずだけど。そんなの多分、形を変え品を変え、どこにでもある日常だろうし。

 

 結局、生まれたところで生きるしかなんじゃないのかな、なんてちょっとオトナな感慨に耽っていると。

 

「あ、そうそう。キャスター(こいつ)の宝具が暴走しててな。使い魔のバケモンがそこらへん勝手に闊歩してるから、退治手伝って欲しいんだ」

 

「はア゙ぁあ!?!?!?」

 

 アンタそれ昨日の夜に私が襲われたアレじゃねえだろうな!? アレ、アンタらのせいか!?




異世界召喚タグをつけるべきか迷って、止めました。

続きはWebで!
https://fate-second-to-none.com/
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