「莫迦な、霊核まで砕けていたはず──」
消滅したはずのいランサーによる、完全な意識の外からの攻撃。困惑を隠せないルーラーに、
「やァァアああああッッ」
返答は槍による突貫。宝具『
つまり、
ギリギリのところで槍とルーラーの間に盾──『
「っ──」
内装全部をミキサーにかけたみたいな轟音。私はもう、吹き飛ばされないようにしがみつくことしかできない。
音が遠ざかり、吹き戻しがあって、そのあと遅れて見渡せば──トンネル掘削用のドリルが通過したかと見紛う破壊痕がぽっかりと口を開けている。
風通しのいい風景が広がってようやく、この“赫”の中がひどく淀んだ空気をしていたのだと実感する。それはフェリシアの術のせいでもあり、ルーラーが纏う圧とも表現すべき死の気配もそうだった。
ランサーの帰還で、そういった嫌なモノが吹き飛ばされて、久しぶりに真っ当な呼吸をできた気分。
『
外壁の破片はこぼれるそばから塵と消え、正しい空が戻って来る。
いつの間にか、外はもう夜。
眼下に広がる街のざわめき──いいや、これは悲鳴と怒号?
「……ランサーが本気で戦ってる、から? だからこんな騒ぎに──」
「……いや、違うな。これは──その前から……」
そこで一瞬の昼と見紛う
雷鳴が響いたからアーチャーだろう。令呪による一斉自害令のドサクサで戦場を離脱して、フェリシアの『
ということは、他にも──
『戻りましたね。状況の説明は不要です。一部はランサーから聞いていますし、あとはこちらで勝手に
『キャスターか! ホテル周辺、何が起きてる!?』
『聖堂教会・第八秘蹟会が出動。避難誘導を兼ねて人払い中とのことです』
『秘蹟会直々か! そりゃまた随分と──しかし、そこまでやるからには……』
てきぱきとしたやりとりの最中、聖がいきなり、泡を食ってロープを拾い始める。そのまま半壊したベランダに駆け出ると、何を始めるのかと思いきや、隣のビルとの距離を測り始めたっぽい。
「それ、降下用でしょ。隣なんか関係ないんじゃ──」
「そんな暇ない! 来い、掴まれ! 絶対に放す、な──」
ズシン。
重低音は階上から。衝撃で埃が舞い、壁に亀裂が、次々に、増えて──
「まずいまずいまずい……!」
──私たちを炙り出すためのルーラーの『
「うそ、でしょ……っ!」
ビシッ、バキバキ、聞きたくない音がそこいら中からしている。天井からはパラパラと漆喰のかけらが剥がれ落ちてきて、いやこれもう塊……!
ここまでくれば私だって判る。これはもう──
『倒壊します。急いで!』
恥ずかしいとか言っていられる状況でもないので、小さな子供みたいに全身で聖にしがみつく。こっちがかけた力の倍以上の力がかかったかと思うと、ふわっと風を感じて。
フユキ・ハイアットホテルは、半ばから砕けて、ついに倒壊し始めた。
──間一髪。私たちの脱出は、ギリギリのところで間に合った。
背後から、鉄筋と鉄骨とコンクリートの断末魔が響き渡る。
あと少しでも遅ければ、あの中で臙条叶と椎名聖というかたちを失って、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられた挽肉に成り果てていただろうから、それを回避できたことは喜ぶべきなんだろうけれど。じゃあ話はそれで終わりかと言われれば、もちろんそんなコトはなくて。
ベランダから跳び出せばどうなるか。
「ちょっ、と──これ……落ちて、るッ」
「
隣へ向けて跳んだって、とても届くとは思えない。すぐに一直線、地面に叩きつけられるから末路が
「おぉぉおおおらァッ!」
聖がラペリング用に用意していたロープを投げる、西部劇のカウボーイのような軌跡。先端が隣に届いた──そう思った瞬間、自由落下し始めのゆるやかな浮遊感から、引っ張られて急加速──
……要するに、振り子である。まっすぐ落下するはずだった私たちはロープに引っ張られて弧を描き、勢いよくオフィスビルの壁面目掛けて叩きつけられることに、なる、よね、やっぱり!!
「ちょちょちょ、待って待ってってコレああああぁぁぁああー!!」
「────ッッッ」
勢いを一切殺さず、振り回されるに任せて突っ込んだ先は一面の窓ガラス。
身をすくませる炸裂音を置き去りに、スライディングの姿勢で着地を決めた聖の体捌き。
これだけのスタントアクションを敢行して、無傷で切り抜けられたのだ。花マルの結果と言っていい。
まあ、命綱もなしにホテルの二十数階からダイブさせられた私からしたら、文句の一つも付けたくなるけれど、
「あわ、わぁぁあ……ッ。膝、ひざが」
「フウッ……今のはヤバかった、ルーラー振りに死ぬかと思った」
当人はそんなことぬかしながら平然と、それこそ“発車ベルの鳴った電車に駆け込み乗車で間に合った”くらいの軽さの切迫感で立ち上がる。挙句の果てには、
「腰ぬかしてる場合か、立て。ここはまだ駄目だ」
「ダメ、駄目って何が」
彼は手を貸てくれながら、冗談だと思いたい内容を、至極真面目に言ってくるんだから困りもの。
「安全圏には程遠い。サーヴァントたちが本気で暴れれば、この一帯、全部戦場になるぞ」
──ちょうどその言葉に合わせて。地響きがするものだから、有無を言わせぬ説得力があった。