Fate/second to none   作:吉田一味

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月と鉄冠②

 

「離脱しろ! 撃墜される!」

 

 ウィリアム・マクマホンは殆ど絶叫に近い声で指示を出す。軍基地の最新機器を通じてその指示を受け取った戦闘ヘリ三機は、待ってましたと言わんばかりに現場からかなり多めに距離を取った。

 

 彼らが滞空するはフユキ・ハイアットホテル上空──ルーラーと、彼に呼び出されたランサー・キャスター陣営の趨勢をより子細に観測するべく、ウィルが派遣したのだが。

 

 まずルーラーは訪れた二陣営を断罪し、否定し、決裂した。

 

 それはいい。ある程度予想できたことだ。純粋な聖人のサーヴァントではなく、為政者でもあるコンスタンティヌス一世がルーラーとして召喚されたのだから、強権を発動することもあるだろうという分析は的確だった。アナリストたちにはボーナスを出してやらねばなるまい。

 

 追い込まれたランサーたちはアサシンの思惑に乗らざるを得なくなり、なし崩し的な共同戦線を張ることになったのも悪くない。

 

 アーチャーと合わせて四騎で総掛かりで攻めて、ルーラーにかすり傷さえ負わせられなかったのは、非常に困る。……困るが、サーヴァントの脅威度を適切に喧伝できたから良しということにする。

 

 その後の令呪大放出も含めて、聖杯戦争における戦力バランスのコントロールは必要だ。ランサーの脱落も喜ばしい。

 

 問題は、だから、そのあと。

 

「──くそっ、死徒、死徒だと!」

 

 リーンスフィール・フォン・アインツベルンが誘致した、人理の否定者たち。血吸いの魔。なにより、

 

「フェリシア=エヴリン・モンデンフェルト……()()()()()()()()()──!」

 

 アインツベルンめ、形振り構わないにしても限度と言うものがあるだろうに。前回の覇者を招き入れて、エクストラクラスを召喚して、そうまでして勝ちたいか、聖杯を取り戻したいのか。彼らをそもそも入国させないことで参戦を封じた第三次聖杯戦争を見習うべきだったと、ウィルは本気で後悔していた。

 

 フェリシアの『赫世異産(クオリアレッド)』──魔術と呼んでいいのかすら怪しいそれによって、現場のほぼ全員──なぜか放置されたリーンスフィール以外の全員──が消失。そのあたりまでが、ウィルがリアルタイムで把握できたおおよそ全てだった。

 

 ──聖堂教会の下部組織、第八秘蹟会が緊急出動。一帯の封鎖を開始。

 

 ──消失したはずのランサーが突如として出現。その際にサーヴァント召喚時に多く観測される“ゆらぎ”が発生していたと報告されている。

 

 ──アサシンが再出現、リーンスフィール・フォン・アインツベルンを連れて消える。

 

 それだけのことが、『赫世異産(クオリアレッド)』が終了してフェリシアらが帰還するまでの間に発生。

 

 帰還したらしたで、フユキ・ハイアットホテルの()()には罅が入っていて、ルーラーは変質(オルタ化)しており、一直線に突っ込んだランサーがそんなルーラー・オルタを槍先に括りつけてホテルワンフロアをぶち抜くという蛮行に至る。

 

 観測手たちを退避させたのは、ホテル上空がこれから戦場になるから。一帯は──たとえ上空であっても──全く安全でないと、椎名聖が同時刻に下した判断と奇しくも一致していた。

 

「……お膳立ては済ませたぞ──アーチャー……!」

 

 超高速で飛翔するランサーはそのまま急上昇、地表から引き離したルーラー・オルタを雲上に放り出した。

 

 このまま落下させ、地表に叩きつけるつもりか。否、そんな悠長なことを目論むものか。

 

 そこは、ウィルのサーヴァントのテリトリー。

 

 空舞う鳳の狩場に他ならない──!

 

「──『精霊讃頌・雷翼飛昇(コール・サンダーバード)』!!」

 

「────!!!」

 

 天に葉脈の如く白光が奔る。

 

 真名解放したアーチャーの雷撃は、環境・状況によってその威力を増減させる。最大出力はハリケーンのただ中でのみ発揮できるものだが、そこまでは用意できずとも、障害物のない上空であれば、その雷声は神話の雷霆(ケラウノス)もかくや。

 

 ハリケーンひとつぶんにも匹敵する膨大な電力が一点に集中すれば、如何なルーラー・オルタとて──

 

「──惜しかった、と言っておこう。近代の英霊がこれほどの雷威、見事」

 

 ──ウィルの確信は、もろくも打ち砕かれる。

 

「死と生で相反する令呪、その拮抗がなければ、(ローマ)()()()()()()()()()()()ろうものを──」

 

 空からキラキラと雪のように舞い散るさま。そこにウィルは信じられないものを見た。

 

 雷撃宝具によって破られた光盾の破片が消える、儚くも美しい光景。その中心、『我この徴にて勝てり(ラバルム)』を足場として仁王立ちのルーラー・オルタは、健在。

 

「馬鹿な、馬鹿な……ッ!」

 

 宝具が最高の条件ではなかったこと。

 

 敵サーヴァント・ルーラー・オルタも、防御宝具を真名解放していたこと。

 

 そしてルーラー・オルタの言う通り、令呪が未だアーチャーに悪影響を及ぼしていること。

 

 それら理由があるとウィルは理解はしていても、感情が追い付かない。彼が召喚したアーチャーは、彼にとってただの戦力ではない。召喚時にその真名を聞いたときから、英雄(ヒーロー)なのだから。

 

 彼を使い魔として従えるのではなく、彼と肩を並べて戦えるのであれば、その事実だけを胸に抱いて墓に眠ることになっても悔いはない。そう言い切れるほどに、彼は偉大な存在なのだから。

 

 ──誇り。それが、届かなかった。

 

「古ければ、偉いのか……ッ!? パクス・アメリカーナでは、パクス・ロマーナには、勝てないのか──!?」

 

 神秘は古ければ古いほど優越する。サーヴァント規格で召喚されている以上、いったんは均されているとしても、英霊たちの活動した年代による、それぞれの当時の神秘の濃さ、その差は確かにあるのだ。

 

 アーチャーとルーラー・オルタ──若い国と歴史に消えた国の象徴の激突。その明暗を、国を背負っていると自負していたウィリアム・マクマホンは重く受け止め過ぎてしまった。

 

 奥まった秘密の緊急対応室で彼がどう感じていようが世間は気にせず、気付きもせず、ただ回っていくという事実を忘失する程度には。

 

『──ッ、報告します! 死徒が、ホテルより……ひ、()()! 消失(ロスト)しましたッ』

 

「な──」

 

 ホテル観測手として配備したヘリ三機が我先にと、この混乱の引き金を引いた元凶──フェリシア=エヴリン・モンデンフェルトを見失ったと叫ぶ。厳密には“飛んだ”のではなく“跳んだ”のだが、混乱は文言のミスや認知のブレで加速していく。

 

「クソッ、何処へ……? アーチャー、は今は交戦中だ……! すぐに市内全域を──」

 

 動かせる人員に矢継ぎ早な指示を出しながら、ウィルは『きっと間に合わない』『見つけられるのは奴がアクションを起こした後だろう』という諦観が胸中で膨らんでいくのを無視できずにいた。

 

 今や、彼らの手に主導権はない。

 

 では、誰の手に──?

 




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