Fate/second to none   作:吉田一味

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月と鉄冠③

 

 ──ミシェル・ドーソンはフユキ・ハイアットホテル近隣のビル屋上から、冷静に状況把握に努めていた。

 

 眼下では第八秘蹟会の下部構成員たちが避難誘導を進めている。ルーラーのフユキ・ハイアットホテル入りからこっち、周辺に配備されていた彼らはルーラーとサーヴァントたちの決裂時点で即座に行動を開始。

 

 ()()なるとまで予想できていたわけではないが、ルーラーが動けば周辺は確実に大混乱が起き、被害は波及する──そう確信していたが故の準備は、無駄になるに越したことはなかったのだが。

 

 魔術……もとい()()()()の無制限使用の甲斐もあって、誘導はつつがなく進んでいた。

 

 もっとも、人払いはルーラー・オルタのためというよりは、むしろ──

 

「──、──」

 

 上空で雷の華が咲く。あれなるはアーチャーの宝具だが、霊基盤を注視している教会スタッフからサーヴァント脱落の報はない。

 

 ランサーの突撃、そしてこのアーチャーの宝具による攻撃。どちらをも凌ぐルーラー・オルタを相手取るのに、二騎では足るまい。かくなる上は──

 

『令呪の影響はありましょうが──出陣()られますか、ライダー』

 

『無論だ。悪逆に堕ちた王、余の敵手に相応しかろうよ』

 

 サーヴァントには、サーヴァントを。

 

 王には、王を。

 

 尊大なるライダーは、遂にその御姿を戦場にお晒しになった。

 

 彼一人で、ではない。それでは王と呼べるものか。

 

 彼は一頭の馬を駆る。それは影なる馬。()()()()()()()()を凝縮したかのような、悪そのものの容貌と巨躯を誇る、およそ馬と呼ぶべからざる──だが同時に、馬と呼ぶしかない程度にはそのカタチに押し込められている──ライダーの乗騎。

 

 影馬は当たり前のようにその蹄に空を踏み固め、中空のルーラー・オルタの元へと猛進する。

 

 アーチャー、そしてランサーを迎え撃っていたルーラー・オルタは新手にも同様に対応する──まずは『我この徴にて勝てり(ラバルム)』による進路の妨害。初見から百枚単位の光盾が展開され、

 

 それらすべて、踏破。

 

 踏み割り、蹴り砕き、頭突き抜いて()()()()()

 

 圧倒的な走破性能。速度に於いて既知の二騎(弓と槍)を凌駕するまいが、()()()()()という一点で、いま、ライダーは誰よりも速く。

 

 (いなな)く影騎馬の一撃が、ルーラー・オルタを叩き墜とす。

 

 隕石のように地へと真っ逆さまのルーラー・オルタは、しかしこれといった傷はない。攻撃を受けた彼はあえて勢いを殺さず、地上へと向かうこととしたのだ。

 

 やはり上空、空中戦ではいくら宙に立てるといっても、空を自由に舞える二騎相手では優位には立てないと理解した。降ろしてくれるというのならいいだろう、ビルと群衆のひしめく地上戦でその戦力を削ぐまで──

 

「「「オオオオオオオ──!!!」」」

 

「む──!?」

 

 ──判断して向かった地上に、これほどの敵戦力が(ひし)めいていようとは、さしものルーラー・オルタも予想外だったに違いない。

 

 繁華街の大通り。コンクリート舗装の道路が全く見えなくなるほどの大勢(たいせい)が、そこに集結して待ち構え、餓えた咆哮を上げるさまは何処の地獄の光景か。

 

 それはライダーの騎馬と組成を同じくする、無数の魔なるものども。軍勢と呼ぶべき総数のそれらは主の下賜したエモノに群がり、その身を貪らんと牙を、爪を、その他ありとあらゆる殺傷能力を剥き出しに襲い掛かる。

 

 これなるはライダーの使役する魔たち。王の縛鎖を恐れ、命に従う哀れなるものども。

 

 ──悪魔の軍勢と、光盾の防壁が。衝突して拮抗する。

 

 黒蟻の群れか、どす黒いマグマの噴炎か。的確な指揮はそれらすべてを捌き切る、が。

 

「余を忘れたか無礼者め──!」

 

「ッ、────」

 

 上空から追撃の踏みつけ(ストンピング)を受けるに至って、ついに、ルーラー・オルタの無表情が崩れた。

 

 これまでさんざん振りかざしてきた数の優位が、今度は彼に牙を剥く。自分で考える頭を持つ軍魔は手の中に堕ちてきた獲物を貪らんと覆いつくし、ルーラー・オルタの歪んだ顔はすぐに見えなくなった。

 

 これであの大英雄が終わるはずはない。ライダーは手綱を繰り、地上に追いついた二騎(ランサー、アーチャー)と更なる追撃を──

 

「認めよう、英霊ども。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして()()()()()()

 

 彼は呼んだ。それはランサーの、アーチャーの、ライダーの真名。

 

 三騎の猛攻に晒されながらも、裁定騎は彼らが何者かを『真名看破』し、そして──冷静に()()()()()()()()

 

 無意味に真名を暴露したのではない。彼らはここで殺すから、せめてもの(はなむけ)としての敬意の表明。

 

 タフムーラスの配下たる悪魔たちの攻勢は悉く『我この徴にて勝てり(ラバルム)』に防がれ、ルーラー・オルタの身体へと届きはしない。彼は悠然と口を開く。

 

(あまねく)く人は権威に従え。主の御意思でのみ、権威はうち立てられる」

 

 決然たる言の葉と共に、彼に横溢していた魔力が特異な形を執る。

 

 それは、輪。

 

 サーヴァント召喚の折に見られる魔法円上の奔流にも似た、地より天へと踊る王冠の如き──

 

「『威光顕す鉄王冠(コーローナ・フェッレア)』」

 

「──ッ!」

 

 ──真名解放と同時、()は疾風の速さで拡大・拡散。

 

 あっという間の全方位。悪魔の軍勢も、ライダーとその乗騎も、ランサーも、アーチャーも。拡がる“王冠”の波に晒された。

 




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