「あれは──
咄嗟に“魔術”と言ってしまって、ミシェル・ドーソンは自らの口を抑える。聖堂教会では魔術を認めておらず、魔力のことも祈りの力と表現する──という習慣を破ってしまったがゆえの反射……というのは、行動の半分。
もう半分は、ルーラー・オルタが何を創造しているか、一目で理解できてしまったこと。物理的に塞ぎでもしないと、漏れ出てしまいそうになる悲鳴を止めるため。
「そんな、まさか、
仮令、その在り方が上塗りされ、歪められていようとも。
此処に、いと貴き槍を──
「──聖槍、贋造」
真っすぐ前に伸ばした右手、その先に光輝そのものの槍が顕現する。荘厳、威容、壮麗、あらゆる形容すら退け滅す、普く人々の祈りの結実──!
ミシェルは、
あの槍の中には、
私たちの祈り。私たちの信仰。
ルーラー・オルタは人理版図によるバックアップを、象徴たる聖槍に集約している──!
「さあ────」
偽なる聖槍は完成し、その
「果たして貴様は戻って来られるのかな」
「おのれ、ルーラー──!」
開かれていた右手が、タフムーラスを指さす。
「──『
導きを受けて、光線の如く槍は一直線に飛翔する──!
「──、──」
初めに槍は、馬の姿を象った大悪魔アンリ・マユの後脚腿あたりを穿った。
痛ましい傷が開く。おそらく血液のような体液がまき散らされ、激しい痛みが使い魔に襲い掛かったことだろう──だが、だから何だというのか。
並の生命体──神秘宿さぬ普通の馬であっても致命傷どころか重傷という表現で精いっぱいの、それだけの傷。ましてや神秘に生きる存在であれば……あの程度の傷ならば、代行者の中には処置もせずに任務を続行する者もざらにいる。ライダーのとっておき、最大戦力たる大悪魔がどうこうされるような一撃ではなかった。
それが、その程度の傷が、アンリ・マユの命をあっさりと奪うなど、夢でも見ているのかと疑いたくもなる。
──
その死を確かめるべく、ローマの百人長はその槍を突き、遺体を刺したという。コンスタンティヌス一世によって投影され人々の祈りを吹き込まれた
──回避も許そう。
──蘇るならば結構だ。
──だが、受けたならば死なねばならない。
ロンギヌスの担い手は歴史・神話上に数多くあれど、この偽の聖槍に限っては、傷=死という無法を具現せしめた。
くたりと沈む影の巨体、崩壊していく使い魔の骸の向こう側。ミシェルは、自らが召喚したサーヴァントもまた同様にくずおれるさまを幻視した。
投射された聖槍が光と消える粒子と、猛スピードで物体が移動した余波による塵、埃。それらの目隠しが晴れたそこに、彼女が恐れた光景はなく──