Fate/second to none   作:吉田一味

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月と鉄冠⑥

 

「──何故、貴様が」

 

 そこに在るは美しい鞘。滑らかな表面に織り成す絢模様が、それだけで超一級の一品であると直感させる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ほどの、神話的な宝具。

 

 長剣を納めたままのそれを盾のように翳して聖槍を防ぎ切ったのは──栗毛の青年剣士。

 

「『全て██████理想郷(アヴァロン)』」

 

「余を助けた、セイバー──!」

 

 小柄な彼は無表情のまま、背後──問い叫ぶライダーに淡々と告げる。

 

 彼は振り返りもせず、

 

「貴様と貴様の軍勢抜きでは、ルーラーを止められない」

 

 以前の交戦で友情に目覚めていたとか、実は近親者な縁で、とか。そんな温かみのある理由ではなく、在るのはただ戦場の冷たい鋼鉄(はがね)の論理。

 

 ルーラー・オルタの手数(ラバルム)と戦線を構築するなら、一騎当千の英雄だけでなく、格落ちであっても兵隊が要る。幽精(ジンニーヤー)を操るアサシンが姿を現さない以上適役はライダーのみ。

 

 ゆえにすっと腑に落ちるのか、王は舌打ちするとその理由を受け入れた。

 

「……下級どもを縛り直す。その間、アレを止めておけ」

 

「言われずとも──」

 

 セイバーは鞘からそっと長剣を抜いていく。漏れ出づるは太陽に匹敵するほどの耀き。その刀身は黄金色。一目瞭然に、あのセイバーの得物は聖剣に分類される超一級品──!

 

 なるほど、とミシェル・ドーソンは合点する。

 

 以前、ライダーの使い魔とセイバーが小競り合いになった際、彼は剣を抜かず鞘すら見せず、外套にくるまれた鞘入りの剣という()()()()()()()()武器を振り回していた。ライダーは激高し宥めるのに多大な労力を要したが──これだけ有名な武器であれば当然の処置だ。

 

 何せこの一分にも満たない時間で、セイバーの真名は呼ばれるまでもなく明らかだ。

 

「アーサー王──アーサー・ペンドラゴン……! ブリテンの騎士王……!」

 

 ブリテンに存在するとされる理想郷の名を冠した鞘。

 

 そして、抜き放たれた黄金の長剣、星の息吹が武器のカタチを得たとしか思えない聖剣。

 

 どちらかだけであればまだしも、両方を兼ね備えるサーヴァントなど、他に居まい。

 

「──『約束されし(エクス)』ッッ……」

 

 青年剣士はぐっと剣を自らの後ろに引いた。剣道(ケンドー)で言うところの“脇構え”に近いが、やけに重々しい。地に深く根を下ろすような腰の据えっぷり、あれでは機敏な踏み込みは不可能だ。

 

 ──まさか、聖剣もこの間合いを凌駕するというのか。投影魔術によって造り出された使()()()()の聖槍ならまだしも、一品ものの聖剣を投げつける愚者も居なかろう。すると剣身が伸びるか、斬撃が飛翔するか。果たしてどう出る──誰もが固唾をのむ。

 

「『██の剣(カリバー)』ッッ!!!!」

 

 咆哮と共に、セイバーは剣を振ら──なかった。

 

「は?」

 

 彼の引いたままの剣からは黄金の光の奔流が噴出する。ライダーの脇のあたりの地面にぶち当たるそのエネルギーを推進力としてセイバーは文字通りカッ飛び、一瞬でルーラー・オルタに肉薄した。

 

 宝具出力によるジェット移動。急激な加速は光帯の如き軌跡の残像を描き出し、縦横無尽にルーラーを翻弄する。

 

 十分すぎる加速をつけたセイバーが全身で回転しながら斬りかかる。『我この徴にて勝てり(ラバルム)』を複数叩き割って迫る刃に、さしものルーラー・オルタも回避行動をとった。それは彼が始めて見せたサイドステップ。

 

「これなら防げない、そうだなルーラー!!」

 

 大回転斬りの勢い余って地面に深々と聖剣をめり込ませた状態のセイバーに、ルーラー・オルタは剣を振り上げた。

 

「……、……調子に──」

 

 ──その背後。誰よりも何よりも迅く、“侍”が白刃煌めかせて馳す。

 

 狙うは裁定者、その首ただ一つ。

 

「シッッ!!」

 

 突きが真っすぐに奔り──

 

「無駄だ。(ローマ)が意識を割いていないと思ったか」

 

 『我この徴にて勝てり(ラバルム)』は、それも完璧に止めてみせた。

 

 “侍”のサーヴァント──バーサーカーの参戦を予期していたわけではないが、そうでなくてもアサシンがいる。常に奇襲を警戒していたルーラー・オルタにまんまと飛び込んだ形なのだから、防がれるのは道理。

 

 バーサーカーも覚悟していたか、渋い表情で笑う。

 

「やっぱ、三段突き……とは行かないか」

 

「冷静だな。バーサー、カー!!」

 

 日本刀を止めていた『我この徴にて勝てり(ラバルム)』を消して振り払うルーラー・オルタの剣を、バーサーカーは機敏な身のこなしで回避して間合いをとる。ルーラー・オルタから離れれば日本刀が主武装のバーサーカーには攻撃機会を大幅に失う。だが、それでもあの間合いに留まるリスキーさの方が重要と判断したか。

 

 彼もここで欲を出すことは避けたらしい。そこまでしなくても、目的は果たしたのだから。

 

「借りとは思うなよ、貴様ら!」

 

 セイバー、そしてバーサーカーの攪乱は時間稼ぎとして有効に機能した。悪魔の軍勢を再支配し、更に強化を施したライダーが襲い掛かる。

 

 姿の見えないアサシンは不在故にルーラー・オルタの意識リソースを常に奪い続け、キャスターは姿を現さずとも戦場に干渉する。

 

 アーチャーとランサーも航空支援に回り、ここに戦線は再定義された。

 

 ルーラー・オルタ対聖杯戦争(全サーヴァント)

 

 マスターたちも、またいつルーラー・オルタが令呪を発動しても対応できるよう、常に気を張っている。

 

 ミシェル・ドーソンもまた、その一人。

 

「こちらは何とかします。だから──」

 

 ……だが緊張状態のその最中、彼女の意識はその一時だけ戦場から遊離した。

 

「そちらは、()()()()()……のですよね?」

 

 彼方、見やる先は──

 




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