Fate/second to none   作:吉田一味

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月と鉄冠⑦

 

「──ほっ、ととと」

 

 軽い言葉と、軽い着地。

 

 とても、新都のフユキ・ハイアットホテルから、深山町の外れまでひとっ跳びしてきたもののリアクションではない。

 

 跳躍の反動がとどめとなった倒壊したホテルなど、彼女からすれば足下の蟻と同じ。巻き込まれた人間の存在など気づきもしないだろう。

 

 なにせ、フェリシア=エヴリン・モンデンフェルトにとって十年の──あるいは千年の大願が果たされるまであと一歩なのだから。

 

「ん~~~……。追手もかかってなさそう? ルーラー・オルタ、ちぁゃんと誘蛾灯としての役割を果たしてくれているようだね!」

 

 自分への追跡を振り切ったと判断して、彼女の足も軽くなる。

 

「フンフフンフ~、フフフンフ~♪」

 

 鼻歌を歌い、スキップまでして、長い階段の一段目に足をかけた、その時。

 

「フ──んぎっ!」

 

 その頭部が、強い衝撃に思い切りのけ反った。

 

 「った~」と額をさすり、地面に転がる元凶をつまみ上げる。それは10㎝近いライフル弾。人間に向けて使用するべき規格をはるか逸脱した狙撃を受けて、上級死徒の感想は強めのデコピンと大差ないもの。

 

 見上げた階段の先、彼女の視力が捉えるのは鳥居。

 

 柱の影。草むらの中。

 

 そこここから覗く、鈍い色の金属の筒口。

 

 狙撃手たちが待ち構えているのを裸眼で死徒は捕捉した。

 

「ま、居るよね」

 

 ここ柳洞寺はフユキ最大の霊脈であり、フェリシアの目的たる()()()の鎮座する最重要地点。

 

 聖杯戦争を手中に収め、引き継いで開催する合衆国は当然ここに最精鋭を配置済み。他勢力による奪取を決して許さない完全防備を固めていた。「サーヴァントであろうとも制圧は不可能な戦力配備である」と、上層部も太鼓判を押したという。

 

 彼らにとっての計算外は、敵が英霊ではなく死徒だったこと。

 

 命を奪い、自らの糧とし、そして更に奪う死の連鎖。

 

 殺せど殺せど尽きない穢れた命脈の持主。

 

 千年を(けみ)した血の湖の底を拝むには、魔術師による加工済み装備を付けた一個中隊では、あまりにも役者不足だったと言わざるを得ない。

 

「やれやれ、今更こんなのと遊んでる暇ないっての」

 

 フェリシアは階段を駆け上がる。猛然と降り注ぐライフル弾の雨を避けようともせず、最短最速の道を選んだのだ。

 

 だってどうして避ける必要があろうか。誰もシャワーの水滴を避けたりはしないだろう。それと同じこと。

 

 ──同じことになってしまう。彼女にとっては。

 

 勢いのままに駆け抜けて、鳥居から境内へと飛び込む。

 

 宙を舞うフェリシアを蜂の巣にせんと四方八方から銃弾が浴びせかけられるが、彼女は羽虫にたかられたほどの痛痒も感じてはいない。その両脇に抱えたいくつもの生首、すれ違いざまに刈り取った狙撃手たちの首級。それに指先だけで呪いを付与して、四方八方に投擲する。仲間の首を受け止めることも避けることも逃げることも出来ないまま、血と臓物の爆弾が炸裂した。

 

 的確に指揮系統を破壊する、ライフル弾すら通用しない怪物。最期まで果敢に戦っただけでも、褒め称えるべきだろう。だからといってそれが、上級死徒の前で何になるかと言われれば──(エサ)でしかないのだが。

 

「手出しして来なければ、こんなことにならなかったのにね。私はキミたちに用なんてないんだから」

 

 ものの数分。それが、フェリシアが柳洞寺を制圧するのに要した時間である。

 

 死体すら残さず飲み干して、それでも死徒の琴線はフラットライン。白けた表情は能面の如し。

 

 思うまま蹂躙した柳洞寺に用が無いというのは本当らしく、彼女はさっさとその場を後にする。

 

 行先は柳洞寺の裏手側あたり。山の中腹、ささやかな清流の源。そこが突きあたりになるよう偽装された洞窟だ。知らなければとても入口だなんて思えない穴へと、彼女は躊躇うことなく踏み込んでいった。

 

 以前に訪れたことのある場所なのだから、今更何を恐れることがあろうか。警戒に値するものといえば聖杯戦争によって呼び出されたサーヴァントたちくらいのもので、そいつらも新都のルーラー・オルタに掛かりきりのはず。柳洞寺の一個中隊程度なら、いくら相手にしても死ぬ方が難しいくらいだ、とフェリシアは冷静に分析する。

 

 あとの懸念点は久しぶりの洞窟(みち)だから迷ってしまうことくらいだったけれど。

 

 これほど濃密な魔力。誘われるまま進めば、辿り着けないなんてことがあるものか。

 

 ──そうして。異常な知覚性能と走力をフルに活用。光り苔らしき光源にぼんやりと照らされた隘路を走ること、しばし。

 

 彼女は、山中の洞窟とは思えない、ひときわ広い空間に出た。

 

「……ふふ。うふふふふふ、ふふふふふ──!」




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