「キャスター、キャスタァァァア……! 何故ここに居る、何故、消滅していない……!? 何故──!!」
アメリカ合衆国海軍の特殊一個中隊をつまらなそうに潰し回った時とは大違い。
今までの余裕に満ちた雰囲気をかなぐり捨てて、フェリシア=エヴリン・モンデンフェルトは身構える。その失われた左腕が再生したのは、“聖者の手”を拾いに行けばまた魔術を撃ち込まれると理解していたのだろう。
桁外れの腕前はなるほどキャスターと呼ばれるのもうなずける腕前。一発一発が、
──冗談みたいな破壊力は技量によるものだけではない。彼の持つ木製の杖こそは超常の宝具。あれがキャスターの魔力を増幅し、上級死徒すら只人同然に破壊するまでに高めているのだ。
何かの冗談や
彼女の高速回転する思考は、一つの蓋然性が高い結論をはじき出した。
「さては、姿を見せていなかったキャスターは貴様か──!」
即ち、
キャスターはそんな仮説を鼻で嗤う。
「莫迦なことを。私が第五次のキャスターなら、なぜ貴女のことを知っているというのですか。──私は正真正銘、
「あり得ない! 大聖杯の補助無しにサーヴァントを現界させ続けるなど、不可能だ! あれから何年経っていると思っている!」
「受肉したんです。色々ありまして」
「あり得ないッ! 大聖杯は私が飲み干した、貴様が触れて受肉する機会など無かった!」
「だから『色々』と言ったでしょう。ああ、ああ、もういい。話す価値もありません」
フェリシアとの会話中、ほとんど動かなかった表情筋が、思い出したように動き出す。
ゆっくりと、ゆっくりと、自らの感情を思い出したかのように。
“端正な顔”などという形容は、とても使えないほどに歪に。
「これも言いましたね。貴女はここで終わる。終わらせる。果たせずじまいだったマスターの命令だ──」
彼は杖を掲げる。
「──『
「させるか──!!」
フェリシアが飛びかかるよりも早く、膨大な魔力が立ち昇った。
風が吹く。最初はそより、見る見るうちに勢いを増すと、仕舞いには瞼を開けていられないほど。
キャスターはその風の中に身をくらました。
すでに暴風は大空洞を埋め尽くし、ごうごうと音を立てていた。だが、この程度が何だというのか。フェリシアの身体能力は人間を遥かに凌駕している。多少の風が吹いていたところで──
ぎしっ。
駈け出そうとしたところで異変に気付く。彼女の足は踏みしめた地面から離れなくなっていた。固まっている。未だ吹き続ける風の中、視線を落としたフェリシアは凍り付いた。
──否、
「なッ──」
「読んでいれば、何が起きるか少しくらい分ったでしょうに」
と呟くキャスターの声は、風音の中でも不思議と届く。彼がどんな表情を浮かべているかも、どうしてだろうか、伝わってくる。
「ああ、読めないんでしたっけ」
……嗤われている。
足のみならず、風に巻き込まれた鋭利な石で切れた皮膚も、瞼の上と下も、体中が氷に覆われていく最中。その確信が、彼女の肉体を突き動かす。
氷漬けになって固められるより前に、自傷を厭わずその場から飛びのいた。代償として体中が裂けて血まみれになり、両足は半ばからもげて地面に残ってしまった。安いものだ。
背後、硬質のモノ同士がぶつかる音。
不揃いの右と左で一歩、二歩。その時には欠損は時を巻き戻したようにもう元に戻っていて、振り向いたそこ──元居た場所にはキャスターが居た。両手で振り下ろした杖は、フェリシアがそこに留まっていれば胴体あたりを貫いていたことだろう。木の杭で心臓を突かれた程度では死なないが、その実行者がキャスターとなれば話は別だ。
フェリシアは臍を噛む。
ルーラーをルーラー・オルタたらしめている要因は三つ。令呪による屈服と『
まさかこんな隠し玉が未だ残っているなんて! そうと知っていれば、魔力も、リソースだって、もっと──
彼女がルーラー相手に出し切ったように、彼は此処こそを天王山と定めていた。
「──『
──蒼礫が吹き荒れる嵐の中に。
──すべてを平らげる悪魔たちが、ゔわんと翅音を響かせた。