Fate/second to none   作:吉田一味

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カーマイン⑤

 

 自由の国アメリカの決然たる産声。

 

 植民地よ屈従せよと告げる母国グレートブリテン王国に対し、断固とした否を返した彼らは、既にレキシントン・コンコードの戦いで独立戦争の火蓋を切っていた。独立宣言は決して文面上に理想を記したものではなく、力で以て勝ち取るべき自由への渇望。その具現こそが、アーチャーの掲げる一枚の紙っぺら。そこに記された貴き決意。

 

 効果は、人間への支配・命令・強制の無効化。

 

 君臨し優越することを認めないその宣言は高らかな声に乗って拡がり、ルーラー・オルタの光冠を揺らがせる。いかな大帝とて、この宝具のもとで十全に支配できようはずもない。

 

 なにせここは()()()()()()()()()()()()()()

 

 アメリカ合衆国によって植民地化された元・大日本帝国である此処に、ローマの領土であった事実(れきし)はない。『威光顕す鉄王冠(コーローナ・フェッレア)』が押し負けるのは必然であった。

 

 効果はルーラー・オルタの冠の解除だけに止まらない。

 

「これは──」

 

「アーチャー、まさか……!」

 

 サーヴァントたちから次々と困惑の声が上がる。自らの手を握って閉じるセイバー、その場で幾度か跳ぶバーサーカー。皆、自分に科せられていた重石が外れたような素振りを見せた。

 

 例外はランサー。彼女はそういった挙動を見せるサーヴァントたちを訝しげに眺めるばかり。

 

 その眼が、驚愕に見開かれる。

 

「──まさか、令呪を」

 

「あれも支配の一形態だ。……正当な契約ではあるが、この宝具は斟酌しないからな」

 

 ルーラー・オルタがルーラーであった時分に発動した『自害せよ』の令呪と、それに対抗するよう各マスターが発動した令呪。サーヴァントの霊基の中で相反する命令が常にぶつかり合い、霊基そのものを苛んでいた。

 

 それが多大な負荷を与えていたのは、既に解き放たれていたランサーがルーラー・オルタと比較的対等に殺りあえていたことの裏付けでもある。

 

 戸惑いは作用機序ではなく、行動原理。

 

「この宝具を、公にする意味を──貴方は────」

 

「理解しているとも」

 

 令呪を無効にできる宝具は伏せ札でこそ最大の効力を発揮できる。敵サーヴァントの強化をスカせるのだから使い出はいくらでもあるだろう。ここで大っぴらにしてしまえば、警戒されない訳が無い。

 

 それは敵に限った話ではない──むしろ、自分のマスター(みかた)にこそ最も強く警戒される要素。

 

「──────」

 

 承知の上(それでも)、なのか。

 

 ルーラー・オルタの巻き起こした惨禍。準州ではあれど合衆国。サーヴァント複数騎でかかっても止められない暴虐を直視して、そうせずにはいられなかったのか。

 

 聖杯を求める者の利害関係や損得勘定を抜きに、ただ、一騎の英霊として。

 

「……ならば」

 

「ならば、まずは貴様からだな、アーチャー……!」

 

 長剣が閃く。間一髪、ランサーとアーチャーは回避するが──掲げられていた文書はとっさに霊体化()され、大帝の頭上には再び光帯が輝く。

 

 英霊の神秘の結実たる宝具、超常の奇跡であっても、『独立(デクラレーション・オブ)宣言(・インディペンデンス)』はあくまでも羊皮紙だ。それは誰でも知っていて、その気になればワシントンD.C.で実物を拝むことだってできる。それが宝具化したとして、どうして英霊の攻撃に耐えるほど頑丈になろうか。

 

 知名度ゆえの弱点、と言えるかもしれない。広く知られ過ぎていて幻想(ゆめ)が入り込む余地が皆無なのだ。

 

 支配無効化の核たる文書を破壊されれば宝具は破られる。それを避けて霊体化させれ(しまえ)ば宝具の真名解放は維持できない。ルーラー・オルタの攻撃は実に的確だ。

 

 並のサーヴァントと人間の差、とまではいかないが、そういう想像をするくらいには隔絶したスペックを取り戻したルーラー・オルタ。やはりアーチャーの『独立(デクラレーション・オブ)宣言(・インディペンデンス)』の発動を維持しなければ継戦は困難だ。だが、そのためにはアーチャーには宣言書掲示に専念させることが絶対条件──

 

 その程度の目端が利かない英霊たちではない。

 

「余を忘れたか、愚帝──!」

 

 悪魔の軍勢が殺到し、『我この徴にて勝てり(ラバルム)』に防がれる。なおも食らいつくルーラー・オルタは、バーサーカーとセイバーが迎撃。その隙をついて離脱したアーチャーが、再び文書を翳す──王冠はかすれ、揺らいで消えた。

 

 悪魔の軍勢は、『独立(デクラレーション・オブ)宣言(・インディペンデンス)』によって影響を受けては、いない──

 

()()があらゆる枷を外す宝具なら、こうはならなかった! 人間の権利か──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 ここまでよほど鬱憤が溜まっていたのか、大口を開けて呵々大笑するライダー。それを迎え撃つルーラー・オルタの表情はやや険しい程度。

 

 まだ、彼には“煩わしい”と()()()余裕が残っている。

 

 アーチャーには、そんな余裕はないというのに。

 




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