「あれ、あれあったら行けるんじゃない!? 押してるよ!」
走って、走って、ルーラーの加害範囲から抜けて。私たちは無事なビルのうち、手ごろなものを一つ選んで屋上に登り、そこから戦いの推移を見守っていた。
私からしたら、戦況は優位に見える。
アーチャーの『
ライダーの率いる悪魔の軍勢が『
そしてルーラー本体を、ランサー・セイバー・バーサーカーの三騎が叩く。
遠目にもルーラーの顔には焦りの色が見えるし、この調子なら、と思うけれど──
「『押す』だけでいいならな……。アーチャーは宝具を継続して発動してる。あれじゃマスターからの魔力供給が何時まで保つか──アーチャーが脱落すれば、この優勢だって一気にひっくり返る」
他のサーヴァントも同じこと、と彼の言葉は続く。
「そんな、こと──」
反論に詰まったのは、否定しきれなかったから。
言われてみれば確かに──ライダーの物量も、セイバーの剣の輝きも、戦場から少しずつ減っているようにも──
『では、そうならないように更なる追撃を。私に一つ、案があります』
「キャスター」
頼れる私たちの老魔術師が、全体念話で献策を告げる。
「……あるのか、何か」
『優勢から更に押し込む戦力が欲しいのでしたら、簡単なことです。喚んでしまいましょう』
「気軽に言うぜ。何を喚ぶつもりだ」
──この質問は、まあ適切だったんだと思う。
聖はキャスターが『
問題は、そこに記された存在に対する認識の齟齬──つまり、平たく言えば、聖とキャスターとで幻獣のくくりが違ったこと。魔術世界を良く知るがゆえに幻獣の枠を狭めてしまっていた聖には出てこない発想──
『
『!?』
「何だとォッ!?!?」
……彼は、掛け値なしに、肚から絶叫した。
「そ、そんなこと可能なの!?」
私だって仰天している。キャスターがこのシチュエーションで冗談を飛ばすとは思えないけれど、だからってサーヴァントがサーヴァントを召喚するとか、そんな事が有り得ていいのか?
というかワルキューレってわ、私のサーヴァントなんですけど……。
『世界的に見て有名な彼女たちですから──ヴァルキューレという表記ですが、もともと『
「──つまり、何が入用だ?」
聖はすぐに切り替えて、簡潔モードで話し始める。ついていけないから、待って欲しい。いやまあ、口にして実際に待たれても何も出来ないから、気持ちだけなんだけれど。
『まずはランサー。本物の戦乙女である貴女を触媒として召喚することで強度を担保します。とはいえ戦闘で手一杯でしょうから、私と貴女のラインを強化する許可だけいただければ助かります。あとはこちらでやっておきますので』
『構いません、やっておいて下さい』
ランサーは流石に切羽詰まった念話声。見ている限りまさに突き込みの真っ最中だから、返事できる方が不思議なくらいだ。キャスターが求めたのが“許可”なのも慮ってのことだろう。
確認が済んだキャスターはてきぱきと次に移る。
『マスターには、……これは
何か二人きりで念話しだした気配がする。この緊急時に、それでも伏せたい内容って何だろう。それと薄々勘づいてたけれど、やっぱりキャスターは聖の秘密を知ってるっぽいな。……まあ主従ならそういうことも話すんだろうけれど、何だかね。
内容は判らないけれど、どうやら合意に至ったっぽいのは聖の雰囲気から見て取れた。
『そして、お嬢さん。──
「えッ──わ、私!?」
出来ることなんかない、と思っていたからビックリして素っ頓狂な声を上げてしまった。だって、私なんて役立たず以外の何物でもないし。さっきだって、咄嗟に動けずに……。
っとと、いけない。話の途中だった、けど何言いだすんだろ──
『貴女の魔力を使わせてください』
「……え? ま、魔力?」
何をお願いされるのかとおもったら思わぬ方向からの頼み事。
『ワルキューレ召喚には、おそらくかなりの量の魔力が必要になります。新たにサーヴァント一騎ぶん、召喚して維持する程度の消費を貴女に負担していただきたく』
「ちょ……っと待てキャスター。いくら何でも無茶だろ。臙条はすでにランサーへの魔力供給中なんだぞ。それを──」
『では質問ですがお嬢さん。貴女は魔力を失って苦しかったり疲れたりしましたか?』
急に矛先こっち向いた。いやずっと私の魔力の話なんだけどさ。
「えっ? えー、いや、あんまり……。どっちかって言うと、登ったり下りたり走ったりした方が、疲れ、た……ような、なん……て…………」
私の言葉が尻切れトンボになっていったのは、途中から聖がすごい目で私をガン見しだしたから。目を皿のようにして上から下までジックリ観察されたら、気になって仕方ない。
まじまじと十秒くらい観察した挙句、彼が呟く。
「──何だコレ。気持ち悪っ……」
「き、『気持ち悪い』!?」
失礼極まる発言だ。撤回すべきだ。断固として抗議する。
「何だ、この魔力量。
聖はブツブツと呟き始めて、その内容は私には理解できない専門用語の嵐。汗が、彼の額に一筋。いくら走り回っても、いくら街が燃えていても、二月なのに。
『興味がわくのは理解できますが、分析は後にしてください、マスター。今は事実と行動のみで十分でしょう』
「────そう、だな。この量なら、追加の大型幻獣ぐらい余裕で賄えるはずだ。…………いや」
そこで再び聖は黙った。さっきは困惑と思考の沼に嵌って沈んでいく感じだったけれど、これは違う。きっと何か行動のために必要な思考だ。
でもあんまり真剣にじっと見られると普通に恥ずかしいって言うか、やり場が無くて困るからさっさと──
「──やっぱりな。キャスターの現界維持分も補えるだろ、その量」
「えっ?」
聖は肩をすくめながら、親指で背後を指し示しつつ、
「意外と
なんて言う。間違いなくキャスターのことを揶揄していて、念話越しの彼も何か言いかけたけれど、
「ちょ、待って、それって──私がキャスターのマスターもやるってこと!?」
魔力負担くらいならやれっていうならやるけれど、そこまでは責任負いきれない。むしろ主失格の私の代わりにランサーのマスターをやってほしいくらいだっての。
「一部、な。パスを腑分けて、供給と要石で分担するイメージさ。肩代わりしてくれるなら、俺もかなり動きやすい」
彼は両の掌を組まずに合わせた。
彼は合わせた手を上に伸ばしながら離していく。
「細工はそう難しいものじゃない。全体念話の時にそこらへんの解析は済んでる」
──あ。
さてはこいつ、前々から目論んでたな?
まあ、“なんか私がいっぱい持ってるらしい”とは言われても体感的によく判んないものが、誰かの役に立つって言うんならそれはドンドン持ってっちゃって欲しいくらいだけれど、でも、でも──────本当にあるの?
どう見てもウキウキしているとしか思えない聖に押し切られて、魔力供給パスの分割とやらが進んでいく。これで私の魔力が見掛け倒しで、いざワルキューレの
「なに、最悪でも死ぬだけだ。安いもんだろ?」
「何言ってるか分かんない」