宝具『
彼女は密やかに、戦場の喧噪に紛れるように囁いた。
「アーチャー。ルーラーをフユキ大橋に誘導してください」
「大橋──? 構わないが、策はあるのか」
「ある……よう、です」
歯切れの悪いランサーの言葉に、深く突っ込んで聞き出す余裕はない。短い会話を交わす間にもランサーは打ち破り、アーチャーは機敏に躱す盾、盾、盾。
本性──
『
上がるのは轟音と怯声。
今また、一棟のビルが音を立てて崩れ落ちてゆく。
凄まじい土煙を貫いて、
「ッ──、──」
衝突。薄いガラスか何かのように悉く破られるも、それは確かに僅かに、徐々に、その推力を削り続ける。
聖剣と言えど無限無尽ではない。姿勢維持できているうちに、この光壁回廊から脱出しなければ──
「──おおおおおおオッ」
思考が動いた瞬間に、ドンピシャ。裂帛の気合と共にルーラーの長剣がセイバー両断の軌道を描く。
予知でもしたかのような狙いすました一剣。
『皇帝特権』か『神性』か、ともすれば無理矢理に両方を使用している可能性すらある。その剣速は閃光の領域、セイバーの反応は間に合わない、これは致命傷かそうでなくても深手による戦線離脱は免れない一撃──
──烏の鳴き声がした。
サーヴァントでさえも目にも止まらぬ
バーサーカーの一斬が、剣士の肩口をわずかに裂いた。好機をこじ開けて求めた成果を踏まえて見れば、こんなキズなど無いに等しい。
「やってくれたな、高──ぐうっ!」
一撃を加えられて途切れたるは真名だろうか。
ルーラーはヒット&アウェイ戦法のバーサーカーを逃がさないために情報を──それを漏らす己を餌にして彼を釣った。セイバーを援護した段階で後退したならば情報は漏洩しても窮地に取り込まれることはなかったろうに──
「────ッッち」
瞬間、『
────闘技場だ。
死ぬまで出られない、ということは無かろうが──内の二騎が悠長に一枚一枚破ろうものなら、ルーラーはその背後からバッサリ行くことを躊躇すまい。
迅速な救助が求められる。さもなくば、あの球からは
決断は一瞬だった。
「お姉さま、ここは私たちが」
「この霊基は、そう遠くないうちに性能と自意識を喪失します」
「その前に、お姉さまのお役に立ちたいのです──最期まで、ワルキューレとして」
「どうか、お許しを」
黒髪の幻獣ワルキューレと、金髪の幻獣ワルキューレは、口々に。
『
ランサーは、彼女たちの言葉に一度だけ瞑目して、
「…………判りました。ありがとう」
そう言って、二騎を見送った。
カリソメの戦乙女たちは、性能の限界を超えて飛翔する。
霊基の自壊も厭わず、傷も構わず、障害物を体当たりでブチ抜いて、閉じこもるルーラーをはじき出した。
舞い散る破片をはるか後方に置き去りに、そのまま加速を維持。最高速での突撃は復活直後のランサーのそれと酷似していて、それだけならばルーラーに二度は通じなかっただろう。ましてや霊基性能も純サーヴァントにはどうしても劣ってしまうのは、止む方ないのだから。
それを補うだけの、完璧な──一心同体でもまだ形容しきれない、寸分違わぬ連携戦闘の妙。
──きっと、あともう一騎居たのなら。
「サーヴァント擬きが!」
『
姿勢を崩してもつれる二騎の幻獣ワルキューレの霊核を、ルーラーは一閃で両断した。やはり言葉もなく消滅していく彼女たちの貌には、しかし不思議と、無表情ながらもやりきった達成感があった。
一人、アスファルトの路面で勢いを殺すルーラーは、己が真っ赤な橋のたもとに足を踏み入れていることに気付く。
「──────今だ、キャスター!」
彼の上方、アーチリブの頂点から、一つの人影が跳躍する。
ルーラーの直上。躍り出た椎名聖の視界の先に、彼とルーラーを遮るように──巨大な魚が出現した。
大いなるソレは大いなる口を開くと、
椎名聖を、丸呑みに──