Fate/second to none   作:吉田一味

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此彼結べ、血色の蛇⑦

 

「ありがと……。それで、どうすればいいの?」

 

「実のところ、お前に出来ることは何もない。寝ていてくれ」

 

「ちょッ──じゃあ何だったの、今の真面目なやり取り! それじゃ結局あの光景に──」

 

「喚くな、早合点するな。これはお(・)前(・)で(・)は(・)出来ないことだ」

 

 ベルはそう言いながら手をこちらへ伸ばしてくる。抗えない“魔力”にやられたように、私の身体は動かない。

 

 柔らかな細指が目を覆う感触と、その隙間から垣間見えたもの。

 

「私がやる」

 

 血よりも赤い真紅の瞳。そこに黒(・)々(・)と(・)十(・)字(・)に(・)裂(・)け(・)た(・)、魔なる眼(まなこ)──

 

 

 

***

 

 

 

 臙条叶は身を起こす。

 

 彼女は自分を覆っていたシート──『気配隠しの外套(タルンカッペ)』の模造品を剥ぎとると、懐から一丁の拳銃を取り出した。

 

 それを不慣れな手つきで排弾。必要となるのは戦乙女(ランサー)のルーン弾ではなく、もっと別のモノ。

 

 理路整然とした魔術体系ではなく、もっと歪で強引な難癖の如き“力”だ。

 

 空砲を用意した彼女は、自らの人差し指を犬歯で噛み切って、浮かぶ血をインクに印を刻んでゆく。目的の印章(シジル)を描くには銃把は狭すぎて、絵筆は繊細さを欠く。

 

 少女は頻繁に顔をしかめ、ちょっとした魔術による修正も組み合わせて、いかにも不器用そうな手つきで──ついにやり遂げた。

 

 間一髪、といったところか。

 

 振動、身体が浮き上がりそうになる。屋外から響く轟音は、キャスターの幻獣──『ヨナ書』の大いなる魚の墜落音。次いで、澄んで硬質な鋭い(キンッとつらぬく)音──これは『十字さす運命の槍(ロンギヌス)』の発射音。

 

 『オペレーション:マトリョーシカ』が始まっている。

 

 臙条叶の(・)肉(・)体(・)を(・)操(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)者(・)は、それを見て行き場のない感情を押し殺す。これが、この作戦が首尾よく完了したとして、臙(・)条(・)叶(・)は(・)ひ(・)ど(・)く(・)傷(・)つ(・)く(・)。それを判っていながら、しかしこうする他ない、これくらいしかできない己の無力さ、無価値さへの怒り──

 

 そんなものを抱えたままでは、目まぐるしく動く刻の中で置いて行かれる。

 

 巨大魚が消滅する中を、椎名聖がルーラーへ向けて突撃。敵もすぐに気づいて、ああ、こ(・)の(・)眼(・)で(・)視(・)た(・)通り。

 

 魔人は臙条叶の絶対にしないような顔で舌打ちをすると、

 

「蛮人め。一手足りんというのが判らないか」

 

 両手で拳銃を把(と)って、狙いはつける必要もない。

 

 臙条叶は銃口を床へ向けて慎重に、引金を引く。

 

 

 

***

 

 

 

 激痛にも似た違和と共に。

 

 楔(・)が(・)彼(・)の(・)王(・)国(・)に(・)撃(・)ち(・)込(・)ま(・)れ(・)た(・)。

 

「何──だ、ッ……!?」

 

 ルーラーの宝具『威光顕す鉄王冠(コーローナ・フェッレア)』は二段階の解放を持つ。

 

 第一段階、真名解放と共に地に満ちる王冠。

 

 範囲内をルーラーの領(・)土(・)に布(し)き変える。『ここはローマである』と定め、『ローマに彼以外の皇帝無し』『皇帝こそがローマを統べるべきである』と理屈付けることで、他の王位僭称者の力を削ぐ。

 

 のみならず、彼の固有スキル『皇帝特権』の補助の機能も有する。

 

 次に、第二段階。一定時間の発動の後に、彼の頭上に輝く王冠。

 

 君臨し続けた彼こそ、天より認められたとして授けられる光輝は、世界の中心たるローマを統べるに相応しいだけの強化を齎す。

 

 アーチャーの『独立(デクラレーション・オブ)宣言(・インディペンデンス)』によって君臨に異を唱えられ、支配の正当性が揺らいだことで天冠は消失しているが、

 

 今(・)ル(・)ー(・)ラ(・)ー(・)が(・)感(・)じ(・)取(・)っ(・)た(・)宝(・)具(・)の(・)不(・)調(・)は(・)そ(・)れ(・)と(・)は(・)違(・)う(・)。

 

 『独立(デクラレーション・オブ)宣言(・インディペンデンス)』は第二段階への作用だ。第一段階に異を唱えることはなかった。

 

 この楔は違う。この楔は、根幹に食い込んできた。

 

 『ここがローマである』部分には触れずに、『ルーラー・コンスタンティヌス一世が皇帝である』ことも覆さずに。

 

 『皇帝コンスタンティヌス一世は本当にローマを支配するに値する者なのか?』などというい(・)ち(・)ゃ(・)も(・)ん(・)を付けてきた──!

 

 万全ならば問題にもならない茶々入れだ、振り払うまでもない雑音。だが、マスターからの魔力供給の途絶、宝具連発と立て続けに仕掛けられると、不愉快極まる。

 

 対応にも一手、割かねばならない──

 

 だがそれよりも何よりも喫緊はあの男。

 

 この状況のすべてをデザインしたのであろうキャスターのマスター、剣を執って驀進するあの魔術師、椎名聖とか名乗っていた鬱陶しい輩──

 

「これも貴様の──!? 貴様、貴様は──何だ!!」

 




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