「ありがと……。それで、どうすればいいの?」
「実のところ、お前に出来ることは何もない。寝ていてくれ」
「ちょッ──じゃあ何だったの、今の真面目なやり取り! それじゃ結局あの光景に──」
「喚くな、早合点するな。これは
ベルはそう言いながら手をこちらへ伸ばしてくる。抗えない“魔力”にやられたように、私の身体は動かない。
柔らかな細指が目を覆う感触と、その隙間から垣間見えたもの。
「私がやる」
血よりも赤い真紅の瞳。そこに
***
臙条叶は身を起こす。
彼女は自分を覆っていたシート──『
それを不慣れな手つきで排弾。必要となるのは
理路整然とした魔術体系ではなく、もっと歪で強引な難癖の如き“力”だ。
空砲を用意した彼女は、自らの人差し指を犬歯で噛み切って、浮かぶ血をインクに印を刻んでゆく。目的の
少女は頻繁に顔をしかめ、ちょっとした魔術による修正も組み合わせて、いかにも不器用そうな手つきで──ついにやり遂げた。
間一髪、といったところか。
振動、身体が浮き上がりそうになる。屋外から響く轟音は、キャスターの幻獣──『ヨナ書』の大いなる魚の墜落音。次いで、
『オペレーション:マトリョーシカ』が始まっている。
臙条叶
そんなものを抱えたままでは、目まぐるしく動く刻の中で置いて行かれる。
巨大魚が消滅する中を、椎名聖がルーラーへ向けて突撃。敵もすぐに気づいて、ああ、
魔人は臙条叶の絶対にしないような顔で舌打ちをすると、
「蛮人め。一手足りんというのが判らないか」
両手で拳銃を
臙条叶は銃口を床へ向けて慎重に、引金を引く。
***
激痛にも似た違和と共に。
「何──だ、ッ……!?」
ルーラーの宝具『
第一段階、真名解放と共に地に満ちる王冠。
範囲内をルーラーの
のみならず、彼の固有スキル『皇帝特権』の補助の機能も有する。
次に、第二段階。一定時間の発動の後に、彼の頭上に輝く王冠。
君臨し続けた彼こそ、天より認められたとして授けられる光輝は、世界の中心たるローマを統べるに相応しいだけの強化を齎す。
アーチャーの『
『
この楔は違う。この楔は、根幹に食い込んできた。
『ここがローマである』部分には触れずに、『ルーラー・コンスタンティヌス一世が皇帝である』ことも覆さずに。
『皇帝コンスタンティヌス一世は本当にローマを支配するに値する者なのか?』などという
万全ならば問題にもならない茶々入れだ、振り払うまでもない雑音。だが、マスターからの魔力供給の途絶、宝具連発と立て続けに仕掛けられると、不愉快極まる。
対応にも一手、割かねばならない──
だがそれよりも何よりも喫緊はあの男。
この状況のすべてをデザインしたのであろうキャスターのマスター、剣を執って驀進するあの魔術師、椎名聖とか名乗っていた鬱陶しい輩──
「これも貴様の──!? 貴様、貴様は──何だ!!」