Fate/second to none   作:吉田一味

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死もふたりを別離ちえず①

「やっ、た!!」

 

 状況が目まぐるしすぎて、何が起きたか半分も判らなかった。

 

 (ひじり)がバラバラになって死ぬ幻視に卒倒したらしい私は、目覚めたら拳銃を床に空撃ちしていた。グリップには見たことのないマークが血で描かれていて、それはどうやら私がしたことらしい──夢遊病とか、悪魔憑きとか、そういうヤツ? 自失して発砲とかシャレにならないんだけれど、ともかく。

 

 私の身に何が起こったかはさて置き、『オペレーション・マトリョーシカ』はまさに佳境だった。

 

 『幻獣(エル・リブロ・デ・ロス)辞典(・セレス・イマヒナリオス)』の巨大魚を盾にルーラーに詰めた聖は、遂に自分の秘密を暴露した。どうやら彼は“ヘルギ”という人の生まれ変わりらしい。詳しくは知らないけれど、その力を流し込まれて錆だらけの剣は見る見る輝きを取り戻す。

 

 ルーラーの斬撃も、どういう方法かよく判らないけれど多分魔術で回避した彼は、その剣を心臓の辺りへと真っすぐ突き入れた。

 

 あれはどこからどう見ても致命傷。私のランサー、ワルキューレの復活のような奇跡でもなければ助からない。そしてルーラーのマスター、あの死徒の女は令呪を三画とも使ったって聞くし、もうどうにも──────

 

「…………あ、れ? 光は、まだ?」

 

 ランサーが自害させられかけた時は、致命傷を負った直後からキラキラしていた。サーヴァントの身体──霊基が崩壊して魔力が光のかたちで散逸していくアレが、ルーラーには未だ観測できない。

 

 復活できたランサーが特殊だっただけで、あのいかにも消滅しますよってキラキラは、普通は無いものなのだろうか? 消えるサーヴァントは本当はぱって一瞬で消えるの?

 

 もちろん。

──そんなことは、無かった。

 

 

 

***

 

 

 

 強く、ルーラーが椎名聖(しいなひじり)の腕を掴んだ。

 

「な──」

 

「見事、だ。椎名聖……」

 

 それはとても霊核を破壊され、消滅間際なサーヴァントが出せる腕力(ちから)ではない。つまり前提のどちらかが間違っている。

 

 即ち、霊核を破壊したと思ったのは錯覚だったか。

 

 もしくは霊核を破壊されても消滅しないか。

 

 どちらであっても状況は最悪──を遥か通り越して、詰み(チェックメイト)

 

 『一念三千』は魔力的にも精神的にも連発できないうえに、“捕まった状態”から脱するというシチュエーションとの相性は最悪だ。あれは現在(ここ)から選べる無数の分岐を切り替えるもの。()()()()()()()()()()()()()()()()()においては無力。

 

 他に切れそうな、有効そうな(カード)もない。ルーラーの『対魔力』を貫ける唯一の手段と考えたから、彼は“ヘルギ”の真名を切ったのだ。

 

 万策尽きた。打つ手は、ない。

 

 せめて出来ることは、あとは口を動かすくらい。どうにもならないなら、せめて理屈で納得したい──そういう感情が働いた。

 

「何でだ──霊核(しんぞう)ブチ抜いたろ、何で消えねえ……ッ!」

 

「消えるとも。だが負けん。勝つまでは消えん──!」

 

 盾が存在を主張するように、いっとう強く輝いている。霊核を貫く前、『オペレーション・マトリョーシカ』決行時はあそこまでではなかった。その変化。

 

「ラバルム──そいつの、せいか……ッ!」

 

 コンスタンティヌス一世の受けた啓示は”この徴にて勝利せよ”というもの。であれば、キー・ローある限り、彼に敗北はあり得ない──

 

 宝具『我この徴にて勝てり(ラバルム)』は発動中、コンスタンティヌス一世の疑似的な霊核として機能する。本体の霊核が破壊されれば新たな展開は出来ないものの、命数としては破格──というのは、彼が盾兵(シールダー)として召喚された場合の話。裁定者(ルーラー)としての現界時にはそんな特性は付与されない。

 

 では、何故?

 

 ──単純なこと。『大帝特権』はこういうトキのためにあるのだ、なんてルーラーはわざわざ説明しないだけ。

 

 崩壊しかけの霊基で足りない出力は『神明裁決』の残余令呪で補う。いざという時のために残しておいたものだが、アーチャーの『独立(デクラレーション・オブ)宣言(・インディペンデンス)』によって無効化されるようになってしまい腐っていた。リソースとしては申し分ない。

 

 どうせ、手を打たなければもろともに消えて失せてしまうもの。だったら余命を稼ぐために使って何が悪い。

 

 そうやって創った僅かばかりの時間は、己を打倒しおおせた勇士の命を手向けに貰っていくために使うのだ──!

 

「ふざけんな──こんな、こんなところで……こんな終わり方をするために、生きてきた訳じゃ──」

 

「何を恐れる。貴様は幾度も、幾十度も、死を経てきたのだろう。今生くらいは、死にゆく大帝への供をせよ──!」

 

 剣先は天頂を指す。

 

 あれが地と出会えば、それで終わり。臙条叶(えんじょうかなえ)の幻視は多少の差異はあれど完遂されることとなる。

 

 今度こそはそのものズバリ本物の悲鳴が上がって、発砲音は『我この徴にて勝てり(ラバルム)』の一枚に遮られる。脆くなっているのか何発も着弾すれば罅が入るけれど、その程度。

 

 一枚破るのにこれでは、あちこちに輝く盾すべて砕き尽くすのにどれだけ掛かるか知れたものではない。臙条叶(えんじょうかなえ)にどうこうできる領分を遥かに超えていると、彼女も理解しているだろうに。

 

 ──間に合わないな、と聖の脳の冷静な()()()が結論付けた。

 

 他のサーヴァントはやる気がない。

 

 ルーラーの現界維持は一時凌ぎで、残る全員でかかればすぐに始末できる。そんな死に体が、面倒なキャスターのマスターを始末してくれるのならば願ったり。致命傷を負ってなりふり構わなくなった英霊に手を出して火傷するなど馬鹿馬鹿しい。

 

 殺す理由はあれど助ける理由などない。

 

 ただ一騎を除いて。

 

「私、の────」

 

 剣より早く、銃弾より早く。

 

 魔銀の槍すらかなぐり捨てて、ランサーが戦場に舞い降りた。

 

()()()()勇士(ヘルギ)に、手を出すな──!!!!」

 




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