Fate/second to none   作:吉田一味

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死もふたりを別離ちえず②

 

 北欧神話は『古エッダ』に曰く。

 

 “ヘルギ”の名を持つ転生者には、それとは別にもう一つの共通点がある。

 

 彼の傍らには、もうひとりの転生者が在ったこと。名は代を経て変われども、魂は巡り幾度もヘルギと出逢って、その人生に連れ添った。

 

 一人目はスヴァーヴァ。

 

 二人目はシグルーン。

 

 三人目はカーラ。

 

 ──いずれも、戦乙女(ワルキューレ)である。

 

 結末は悲劇に終わっているが、(ヘルギ)彼女(ワルキューレ)の純愛は傑作と名高い。

 

 彼女は、彼への愛に殉じた。戦の絶えない生き方を選ぶヘルギと常に共にあり続け、どちらか一方の命が尽きるまで添い遂げ、半身を欠けば彼らの『サガ』はそこで終わり。それくらい徹底して貫き徹される一筋の想い。

 

 聖杯に懸ける願いも必然『ヘルギとの再会』。

 

 そんなワルキューレがランサーとして召喚された現地にて、ヘルギの転生者と邂逅すればどうなるか。──その答えが、これ。

 

 

 

 ──輝きが氾濫する。

 

 異常な数、天に輝く星よりも多いルーンが一帯を埋め尽くしていく。ランサーの霊基がぼろぼろと崩壊していくのに比例して、光は増殖するのだ。

 

「お──おぉぉおおお、オオオオオッッ」

 

 ルーラーは自然、驚嘆と苦悶の咆哮をあげていた。椎名聖の一刺は痛かった──痛かったが、生前に経験した戦傷の痛みとさして変わりはしない。()()とは違う。

 

 これは、ルーラーの知らないカタチの“死”。浜辺の砂城が波に溶けていくような無痛の崩壊。

 

 大神オーディンの会得した“原初のルーン”、その本領。全開。

 

 複数のルーン文字を組み合わせて()()()()()()()()()()崩壊のルーン。魔力がある限り無限に増えて広がり続け、ルーラーとルーラーによって作り出されたものに反応してこれを消滅させる魔術的ウイルス。

 

 散らばって存在していた『我この徴にて勝てり(ラバルム)』の輝きを、ルーンウイルスが上書きして相殺してゆく。

 

 数には数で対抗すればよいという、単純明快であると同時に最も難しく、そして最も力づくな手法である。

 

 『そんなことが出来るのなら最初からそうすれば良かったのにのに』という指摘は尤もで、だからそこにはやらなかった理由も必ずある。

 

「ッぐ──、く、う……!」

 

 ランサーの身体中あちこちに、陶器が砕ける時のような罅が走ってゆく。

 

 原初のルーンの全力稼働。その、反動だ。

 

 サーヴァントの宝具にも匹敵する大魔術は、ワルキューレの霊基を代償として燃やし尽くし、焼き尽くす。使えば消滅、一度限りの秘中の秘。

 

 ……それでも恐らく、ルーラーが健在であったならば通用はしなかっただろう。

 

 ルーンが一方的な破壊ではなく相殺していることに着目して、ランサーが霊基崩壊に耐えているから動けないことを見抜いて、大した負傷もせずに対応できていたはずだ。

 

「ぬうううっ、おのれッ」

 

 波に浚われて片腕を喪失するに至り、ルーラーは剣を手放すことを決めた。投擲の姿勢に入った彼を見ても、ランサーは術の維持に集中する。それはルーンに絶対の自信を持っているからではなく、

 

「俺の女に何してンだ、テメェ──!!!」

 

 縛から解き放たれた椎名聖(かれ)なら、必ず動くと信じていただけ。

 

 ルーラーの胸のど真ん中に刺さりっぱなしの剣を抜く時間さえ惜しいと、彼は別の懐剣を振るっていた。刃が首に食い込むそのまさに1ミリ秒前に、ヘルギの血色の蛇が剣と繋がって魔剣にせしめる。

 

 コンスタンティヌス一世の首が、宙を舞った。

 

「──────は」

 

 天地逆の首から上が、不愉快さを隠さずに、それでも、

 

「ははははッ、何たる──何たる、茶番劇! 莫迦を見たものだ、こんな──」

 

 笑う大帝の、表情が消えてゆく。

 

 光の塵となって消えてゆく彼の最期は、大暴れで大騒ぎのそれまでとは打って変わって、

 

「…………これが、聖杯戦争、か」

 

 なんて、そんな静かな感慨。

 

 ──斯くしてルーラー──コンスタンティヌス一世は消滅した。

 




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