北欧神話は『古エッダ』に曰く。
“ヘルギ”の名を持つ転生者には、それとは別にもう一つの共通点がある。
彼の傍らには、もうひとりの転生者が在ったこと。名は代を経て変われども、魂は巡り幾度もヘルギと出逢って、その人生に連れ添った。
一人目はスヴァーヴァ。
二人目はシグルーン。
三人目はカーラ。
──いずれも、
結末は悲劇に終わっているが、
彼女は、彼への愛に殉じた。戦の絶えない生き方を選ぶヘルギと常に共にあり続け、どちらか一方の命が尽きるまで添い遂げ、半身を欠けば彼らの『サガ』はそこで終わり。それくらい徹底して貫き徹される一筋の想い。
聖杯に懸ける願いも必然『ヘルギとの再会』。
そんなワルキューレがランサーとして召喚された現地にて、ヘルギの転生者と邂逅すればどうなるか。──その答えが、これ。
──輝きが氾濫する。
異常な数、天に輝く星よりも多いルーンが一帯を埋め尽くしていく。ランサーの霊基がぼろぼろと崩壊していくのに比例して、光は増殖するのだ。
「お──おぉぉおおお、オオオオオッッ」
ルーラーは自然、驚嘆と苦悶の咆哮をあげていた。椎名聖の一刺は痛かった──痛かったが、生前に経験した戦傷の痛みとさして変わりはしない。
これは、ルーラーの知らないカタチの“死”。浜辺の砂城が波に溶けていくような無痛の崩壊。
大神オーディンの会得した“原初のルーン”、その本領。全開。
複数のルーン文字を組み合わせて
散らばって存在していた『
数には数で対抗すればよいという、単純明快であると同時に最も難しく、そして最も力づくな手法である。
『そんなことが出来るのなら最初からそうすれば良かったのにのに』という指摘は尤もで、だからそこにはやらなかった理由も必ずある。
「ッぐ──、く、う……!」
ランサーの身体中あちこちに、陶器が砕ける時のような罅が走ってゆく。
原初のルーンの全力稼働。その、反動だ。
サーヴァントの宝具にも匹敵する大魔術は、ワルキューレの霊基を代償として燃やし尽くし、焼き尽くす。使えば消滅、一度限りの秘中の秘。
……それでも恐らく、ルーラーが健在であったならば通用はしなかっただろう。
ルーンが一方的な破壊ではなく相殺していることに着目して、ランサーが霊基崩壊に耐えているから動けないことを見抜いて、大した負傷もせずに対応できていたはずだ。
「ぬうううっ、おのれッ」
波に浚われて片腕を喪失するに至り、ルーラーは剣を手放すことを決めた。投擲の姿勢に入った彼を見ても、ランサーは術の維持に集中する。それはルーンに絶対の自信を持っているからではなく、
「俺の女に何してンだ、テメェ──!!!」
縛から解き放たれた
ルーラーの胸のど真ん中に刺さりっぱなしの剣を抜く時間さえ惜しいと、彼は別の懐剣を振るっていた。刃が首に食い込むそのまさに1ミリ秒前に、ヘルギの血色の蛇が剣と繋がって魔剣にせしめる。
コンスタンティヌス一世の首が、宙を舞った。
「──────は」
天地逆の首から上が、不愉快さを隠さずに、それでも、
「ははははッ、何たる──何たる、茶番劇! 莫迦を見たものだ、こんな──」
笑う大帝の、表情が消えてゆく。
光の塵となって消えてゆく彼の最期は、大暴れで大騒ぎのそれまでとは打って変わって、
「…………これが、聖杯戦争、か」
なんて、そんな静かな感慨。
──斯くしてルーラー──コンスタンティヌス一世は消滅した。