Fate/second to none   作:吉田一味

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夢の終わり②

 

 ──ヴェーネルン湖の戦い。

 

 当初、フロームンドは戦場に出陣することを避けたため、勇士ヘルギを有するハッディンギャル軍が優勢であった。空舞う(かのじょ)の呪歌と氷上(ちじょう)に吹きすさぶ剣技の組み合わせは、フロームンドの兄弟八人を瞬く間に殲滅させたほど。

 

 フロームンドが戦場に姿を現さなければ、そのまま決着していてもおかしくなかった。

 

 だが、

 

「……来たな。フロングヴィズを殺した男。──見ろ、この剣を! 貴様の兄弟どもの首を残らず刎ねた血濡れの刃を!!」

 

「今や互いが(かたき)となったな、ヘルギ。もはや双方無事にこの戦が終わることはなくなった。私か貴様、どちからの死無しに幕引きはあり得ない」

 

 血と死の応報は、行きつく果てを求めてこの戦場に結実した。

 

 彼らの交えるものははじめ言葉であった。聖剣頼りを揶揄し、盾の加護を揶揄し、何よりフロームンドの乙女を揶揄するヘルギの挑発は痛烈。ついに、オーラヴの勇士は無傷の加護を授ける魔法の盾をかなぐり捨てて、ヘルギへと斬りかかる。

 

 宿命の戦、その端緒が切って落とされたのだ。

 

 女の祈りにすがって戦うとは、と嘲るヘルギの言葉は彼自身に帰ってくるようでいて、その実まったくそんなことはなかった。

 

 戦乙女の呪歌も軍勢の援護も、何ひとつ彼らに届きはしない。

 

 それくらい、彼らの戦力は他と隔絶していたのである。

 

「オオオオォォォアアアッ!!!」「ッエアアアァァァアッッ!!!」

 

 勇士二人は、それぞれが一個の嵐の如し。逆回転のそれらはぶつかり合い、弾き合って削り合ってはまた激突。

 

 幾合、幾十合、幾百合を重ねて。双方傷だらけの血まみれ。

 

 もはや刃の及ばない箇所は、彼らの肉体にも、戦場にすら、これっぽっちもありはしない。双方、両軍の兵を巻き添えにすることに躊躇は絶無。雑兵をどれだけ損耗しようとも、対峙するこの男を討てば良い、討たねばならない、こいつさえ居なければ、こいつが居ては──そんな鬼気迫る執念は、ヘルギを援護する(かのじょ)にもひしひしと伝わっている。フロームンド(ヘルギ)が生き残れば我が軍は敗北確定、いいやそんな思考すら雑念。

 

 生きるため、勝つため、己が己であるため。

 

 ()()()を殺さねばならない。それだけが、彼らの思考を埋め尽くす。

 

「ヘルギィィイイイイィィィ──ッッッ!!!」

 

「フロームンドォォオオオ──ッッッ!!!!」

 

 戦意が純化してゆく。

 

 互いで削り出し研ぎ澄まされた、剣と剣だけがあった。

 

 ──それ以外が、抜け落ちて、零れ落ちてしまっていた。だから、その結末もきっと必定だったのだろう。

 

「あ……ッ」

 

 (かのじょ)は声を溢す。命が零れる。口から──そして、(かのじょ)の身体を真っ二つに立ち切った、鮮かな傷から。赤が空へと立ち昇ってゆく。…………いいや、違うか。墜ちているのが(かのじょ)

 

「──────」

 

 ヘルギの剣が、(かのじょ)を貫いたのだ。

 

 目前の敵に全神経を集中していたが故の事故。フロームンドが狙った、ということもないだろう。だってほら、彼もまた驚愕一色。してやったりという感情はこれっぽっちも見受けられないし、そもそもそんなことを狙えるほど、互いに余裕のある戦いではなかった。

 

 だからこれは、やっぱり事故なのである。

 

 最悪の、事故。

 

 たおやかな戦乙女と言えど、勇士渾身の一撃が直撃すれば一溜りもない。体を真っ二つに寸断されて成すすべなく墜落する(かのじょ)の中で、致命的な何かが破壊された感覚がやけに印象的。

 

 けれど、そんなことより何より、

 

「カーラッッッ!!!!!」

 

 ヘルギの、そんな顔、私は見たことなくて(わたしには見えなくて)それを必死で目に焼き付けて(目を凝らしてもかすむばかりで)──

 

 ()()が地に叩きつけられた時には、すでにその命脈は絶えていた。

 

 

 

***

 

 

 

「────ッはあっ、はあ、はあぁっ、は…………」

 

 そして、()は泣きながら目覚めた。

 

 伸ばした手は、誰とも繋がらないまま。

 

 戦乙女カーラ(かのじょ)の夢と、臙条叶(わたし)の現実が、切り離されて遠ざかってゆく。

 

 孤独な朝へと、帰ってくる。

 

 あれが私のサーヴァント、ランサーの最期の記憶──私は三代目のワルキューレ・カーラの末期の瞬間までと同調していたのだと理解するより先に、

 

「うッ、ぐ……く、ぅぅうう……っ。う、ぁ……」

 

 ──嗚咽を漏らしてしまっていた。

 

 午前五時二八分。

 

 冬の日出は、未だ遠い。

 




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