──ヴェーネルン湖の戦い。
当初、フロームンドは戦場に出陣することを避けたため、勇士ヘルギを有するハッディンギャル軍が優勢であった。空舞う
フロームンドが戦場に姿を現さなければ、そのまま決着していてもおかしくなかった。
だが、
「……来たな。フロングヴィズを殺した男。──見ろ、この剣を! 貴様の兄弟どもの首を残らず刎ねた血濡れの刃を!!」
「今や互いが
血と死の応報は、行きつく果てを求めてこの戦場に結実した。
彼らの交えるものははじめ言葉であった。聖剣頼りを揶揄し、盾の加護を揶揄し、何よりフロームンドの乙女を揶揄するヘルギの挑発は痛烈。ついに、オーラヴの勇士は無傷の加護を授ける魔法の盾をかなぐり捨てて、ヘルギへと斬りかかる。
宿命の戦、その端緒が切って落とされたのだ。
女の祈りにすがって戦うとは、と嘲るヘルギの言葉は彼自身に帰ってくるようでいて、その実まったくそんなことはなかった。
戦乙女の呪歌も軍勢の援護も、何ひとつ彼らに届きはしない。
それくらい、彼らの戦力は他と隔絶していたのである。
「オオオオォォォアアアッ!!!」「ッエアアアァァァアッッ!!!」
勇士二人は、それぞれが一個の嵐の如し。逆回転のそれらはぶつかり合い、弾き合って削り合ってはまた激突。
幾合、幾十合、幾百合を重ねて。双方傷だらけの血まみれ。
もはや刃の及ばない箇所は、彼らの肉体にも、戦場にすら、これっぽっちもありはしない。双方、両軍の兵を巻き添えにすることに躊躇は絶無。雑兵をどれだけ損耗しようとも、対峙するこの男を討てば良い、討たねばならない、こいつさえ居なければ、こいつが居ては──そんな鬼気迫る執念は、ヘルギを援護する
生きるため、勝つため、己が己であるため。
「ヘルギィィイイイイィィィ──ッッッ!!!」
「フロームンドォォオオオ──ッッッ!!!!」
戦意が純化してゆく。
互いで削り出し研ぎ澄まされた、剣と剣だけがあった。
──それ以外が、抜け落ちて、零れ落ちてしまっていた。だから、その結末もきっと必定だったのだろう。
「あ……ッ」
「──────」
ヘルギの剣が、
目前の敵に全神経を集中していたが故の事故。フロームンドが狙った、ということもないだろう。だってほら、彼もまた驚愕一色。してやったりという感情はこれっぽっちも見受けられないし、そもそもそんなことを狙えるほど、互いに余裕のある戦いではなかった。
だからこれは、やっぱり事故なのである。
最悪の、事故。
たおやかな戦乙女と言えど、勇士渾身の一撃が直撃すれば一溜りもない。体を真っ二つに寸断されて成すすべなく墜落する
けれど、そんなことより何より、
「カーラッッッ!!!!!」
ヘルギの、そんな顔、
***
「────ッはあっ、はあ、はあぁっ、は…………」
そして、
伸ばした手は、誰とも繋がらないまま。
孤独な朝へと、帰ってくる。
あれが私のサーヴァント、ランサーの最期の記憶──私は三代目のワルキューレ・カーラの末期の瞬間までと同調していたのだと理解するより先に、
「うッ、ぐ……く、ぅぅうう……っ。う、ぁ……」
午前五時二八分。
冬の日出は、未だ遠い。