聖杯戦争は主従にて臨むもの。
なればこそ、一番大事なのは相手をよく見ること。
何だってそうだろう。結局のところは人と人の間の中で起きることなのだから、その構成要素たる人こそが要であるのは、いつの時代とて変わらないものさ。
それに、ちゃんと見ていなけりゃ──いざって時に斬るのも、追っつかないだろう?
コン、コン。
木の扉を打つ音。
すぐに室内でひとの動く気配がして、さほど待たされることなくガチャリと扉が開かれる。
「マスター、おはようございます」
「……おはよう、ランサー。どう、様子は?」
室外に立ったまま問うと、彼女は身振りで室内へと招いてくれた。ここは私の家で、彼女は私のサーヴァントなのだけれど、それでも躊躇してしまう。
だって──
私はただの同盟相手で、ただのマスター。
踏み込めない。
「…………、……」
入室のためのスペースを空けたにも関わらず入口に
微妙な空気が漂う。
せめて、なにか。何か話そう、何か話さねば。そう考える。
話題なんて、一つしかない。
「
「……彼は、未だ目覚めません。肉体的な負傷はすべて癒しましたが……」
「そっか……」
さらりと『全部治した』と言ってのける腕前は流石だけれど、それでも昏睡したままの彼はやはり、その原因を内側に宿している。何か精神的な──もしくはもっと
私は、昨夜のキャスターの言葉を思い出していた。多分、ランサーも。
──彼は七十二時間、目覚めません。
ルーラーを倒して、他のサーヴァントたちを退けて、やっと人心地つけそうな矢先の危難その三。
聖の昏倒直後、慌てるばかりの私たちにキャスターはそう告げた。
混乱したまま、とにかく指示通りに帰宅した私たち──ちなみに方法としてはランサーが両脇に私たちそれぞれを抱えて飛行するというストレートな力業──に、キャスターは続けて説明した。
──ヘルギとして真名解放をした彼は、その反動で意識を失うとのことです。現代を生きる人間としての規格に、北欧の勇士のスペックを発揮させる代償……といったところでしょうか。
──口ぶりからして、以前にもこういう経験をしているらしい話し方でしたので、さほど気を揉まずとも良いかと。詳細は目覚めたあと、彼本人の口から聞いてください。
──作戦決行前に説明しなかったのは、ひとえに時間が無かったからかと。
──彼の事情は、ええ、知っておりました。サーヴァントですので。
──口外は厳禁、とマスターに言われましたから。無論私も、そんなことをするつもりはありませんでしたが。
──これは聖の抱える事情で、彼の説明すべき内容です。起源覚醒者と偽って隠していたのも、無理筋とは思いましたが彼の選択には違いありません。それを私が、横から詳らかにするなど言語道断ではないでしょうか。
……それが、彼が語った全部。
キャスターの知る限りの事情という割には、明らかになったのは遠からず目覚めるだろうから心配要らないという点くらいのものだった。
無論それだけでも重要で、知らせてくれたのはありがたい。私なんかは、待っていれば聖はそのうち目覚めると聞いて、へなへなと座り込んでしまったほど。
けれどランサーからすれば、キャスターは
彼女を衝き動かしたのは──許せない、という感情になるのだろうか。
キャスターが淡々と説明する言葉、それが長くなっていったのは途中から槍を突き付けてくる彼女を宥めるため。
彼女もその行いが八つ当たりみたいなものと理解していたのか、槍の穂先はらしくもなくブルブルと震えていて、それがまた危なっかしかった。いつも冷静な──大聖堂の前で私に「殺すかどうかは冷静に分析するのです」と教えてくれた──彼女と同一人物とは思えないほど、激情に揺らぐ戦乙女。
それくらい、
……結局。ランサーは矛を収め、その場は事なきを得た。ルーラーと激戦を繰り広げた直後の疲れもあって、解散した私はほとんどそのままベッドに倒れ込んで、気絶するみたいに眠りに落ちて、
そういえば、今朝の寝覚め。
飛び起きるのは何時ものことだったけれど、少し違った、ような……?