『惨禍から一夜明けて、徐々に被害の全容が明らかとなりつつあります。
昨夜、フユキ新都を中心として発生した大規模火災は、広範囲に壊滅的な被害をもたらしました。準州政府が設置した特別災害対策本部によりますと、本日正午現在、確認された死者は百二十二人、負傷者数は二千六百人以上にのぼっています。
消防隊により火災は消し止められましたが、倒壊した建造物内部の捜索は依然として難航しており、被害は更に拡大する見通しです。
準州政府によりますと、現時点で五百人以上の行方不明者が発生しているとのことです──』
『準州政府はテロ組織による犯行とし、フユキ市全域に非常事態宣言を発令しました。州兵500名が現場に派遣され──』
『見てくださいこの大きなロブスター、美味しそうですねぇ──』
『市民からは『連日の落雷が原因ではないか』という指摘も出ています。確かにここ数日、フユキ市街では雨の降らない雷が多数発生しており、その関連性も疑われています。詳しい内容について、気象予報士のサミュエル・ホンダ・ゴッドリー氏の見解を──』
『「いやだからさ、テロじゃないんだって! 確かに見たんだよ、あれは絶対にレーザービームだ! それがビルを貫通してそのあと爆発したんだ、間違いない! あれは軍の秘密兵器に違いない!」』
「ハァ──」
報道が好き勝手がなりたてるのを、ウィルはどこか他人事のように聞き流していた。
……というか、聞ける状態になかった。
「────疲れた……」
椅子に深々と腰掛けて、もたれかかって、左手で両の眉間を揉み解して。
ルーラーとの交戦から二十時間弱。
フユキ第五次聖杯戦争における合衆国陣営、その全権を
それくらい、てんやわんやだった。
ルーラーとランサー・キャスター陣営の接触に端を発した激突は、あらゆるサーヴァントを巻き込んだ一大交戦と化した。新都広域を巻き込んでのサーヴァントバトルは誰が脱落してもおかしくない熾烈極まるもので、ルーラーはともかく他のサーヴァントたちに周囲を慮る余裕はなかっただろう。結果としてルーラー一騎のみが脱落したというのは、かなり意外な結末ではあったが。
消滅の際まで思うまま彼が大暴れした結果が、御覧の有様の報道合戦。
人的被害も物的被害も甚大だが、ウィルが頭を悩ませ、あれやこれやと忙しく動く破目になっているのはそれ以外──サーヴァントたちが目撃されたことに対する情報統制である。
──ルーラーの『
──セイバーの『
──アーチャーの雷撃全般。
──そして複数騎の高速飛行。
──とどめの、フユキ大橋を粉砕した巨大召喚物。
聖堂教会と協力して可能な限り周辺の人間を避難させても、これらはやはり目立つ。目立てば目を惹かれ、ある程度の物的証拠も残る。それを何とかするためのメディア統制部隊に、マスターであるウィルも駆り出されたのだ。
「まあ、これがもう少し
もしも、誰でも小型媒体で撮影が出来る世の中になったら。
もしも、誰でも発信できる
情報の拡散速度は現代の比ではなくなるだろう。誰もが
幸いにしてそんな時代はまだもう少し先だ。
カメラは撮影が趣味の人間でもなければぱっと手が届くところにはないし、情報通信ネットワークは各国の規制が強く拡散性は低いまま。そもそも携帯電話が資格制で、出先で気軽に連絡を取れるのがごく限られた人間のみという時点で、グローバルなんて夢のまた夢。
間に合ってしまった第五次聖杯戦争、精一杯やるべきことをしなくては。ウィルは何度目かの決意を固めて、チェアから「よっこいしょ」と身を起こす。
感慨に耽っても休息の時間が遠ざかるだけだ。
欺瞞作戦の他にも、行方知れずのリーンスフィール・フォン・アインツベルンの捜索やら、魔術協会の派遣したマスターへのコンタクトの取り直しやら、ランサー&キャスター陣営の監視体制の変更・強化やら、ああ忘れていた、柳洞寺の一件もあったな──なんて、山積する作業に思考はふわふわと乱れる。こんな判断力で決断を下すのは危険だから何か処方してもらった方がいいかもしれないが、そうすると更に作業と書類が増えてしまう。
ひとまず手を付けられるところから。サーヴァントたちの被害を過激派テロリストの犯行であるふうに細工する作業に戻ろう──そう気合を入れなおした瞬間。
「ウィ、ウィルさん! た、大変ですッッ」
「な、どうした血相を変えて」
部下が駆け込んできた。普段はここまでわざわざ来る人間は少ない。だからこそ短い休憩のために逃げ込んでいたのに、それをわざわざ息せき切らして報告したいことなど、ただ事ではあるまい。ウィルはついさっきまで過労死しそうだった人間とは思えないしゃんとした受け答えをする。
果たして予想──嫌な予感は得てして当たるもので、
「バーサーカー陣営──
「な──!?」
風雲急を告げるその言葉は、ウィルがまだしばらくはまとまった休息が取れなくなるのを確定させる、この上ない