“本日休業します。”の手書きの張り紙が寒風に揺れていた。
「……まあ、そう、か」
非常事態宣言下で無理して営業しても、客が来なければ商売あがったりだ。事実町を歩いていても全然人通りが無くて不安になるくらいだった。このスーパーマーケットはさほど大きくないし、言われてみれば納得、ではあるのだけれど。
行きつけ、最寄りでこれだと脱力する。
「第二候補……遠いんだよなあ。というか、そっちもやってなかったらどうしよ……」
とぼとぼと歩く。意気込んだくせになんて間抜けなんだろうと肩を落としていると、少し前方に一台の車が停車した。
……自動車──と一括りにしていいのだろうか。疑問を抱く程度にはとんでもない自動車だった。
とにかく、長い。マイクロバスあたりと並べて比較したくなる全長が、一般車と変わらない車高で走っていると感覚がおかしくなる。何人乗りなんだろう。道交法とか無視したら五十人くらいイケるんじゃないだろうか。
それが今ホットな新都方面ではなく、私の家のそばを走っているのもかなり意味不明。この辺りのへたな角は曲がれないと思う。ああいう鼻高々なカンジの車って、往生してたり擦ってたりすると、落差でむしろ惨めだと思うんだけれど。
まあ、あんなクルマに乗ったことないし、今後も乗る予定はないから、乗ってるひとの気持ちなんて判んないけど──なんて思っていたのだけれど。
「────」
がちゃりと音を立てて開いたドアから降車してきたモノを見て、俗っぽい思考は全部吹っ飛んだ。
──複数の使い魔ども。
アサシンの“
「何処へ行く、ランサーのマスター。送ってしんぜよう」
「──ライ、ダー……っ!」
ルーラーが呼んでいた真名は『タフムーラス』。
詳しくはないけれど『
乗用車にしては大きめのはずのドアから窮屈そうに現れたのは、現代のスーツに身を包んではいるが間違いなく
──威容の影馬を駆ってルーラーに攻めかかる、獰猛極まりない顔。
──『
──去り際、私を見据えていた、多くの感情の綯交ぜになった結果の無表情。
それと同じ顔が、すぐそばの距離、車の先端と後端くらいの距離にある。ルーラー戦での挙動を見る限り、彼がその気になったなら秒も要さず私を始末できる、はずだ。
いちいち声をかけてくる必要性なんて皆無。……と私は考えるけれど、どうやらそうではないらしい。
聖杯戦争のマスターが、敵陣営のサーヴァントと単独で遭遇したのならば、普通は排除する一択のはず。そうしない明確な理由を携えて彼は立っている。
……問題は。圧倒的な力量差ゆえに、主導権は全面的に
「……何の用、なの」
あっという間に包囲されて、小動物みたいに震えている
ライダーも力の差を承知しているから、その態度は悠然としたものだ。
「言ったろう。呑気に歩き回っている貴様が見えた。故に親切心から声をかけた。そら、どこへでも送ってやるぞ?」
彼はリムジンのドア、開きっぱなしの入り口を示してぽんぽんとルーフを叩いてみせる。
微笑んでみせても、その皮膚一枚下に流れる血液は、冷血そのもの。
「乗るといい。それとも、余の厚意を無下にするか──?」