Fate/second to none   作:吉田一味

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ウィットロック事変③

 

 2013年、アメリカ合衆国。

 

 カンザス州はそのど真ん中、真っ平でだだっ広いド田舎もド田舎。人より牛の方が多いというのは比喩でも誇張でもなく、州人口の倍ほどの()口を記録している。

 

 ドーソン家も例にもれず、広大な放牧地で畜産を生業としていた。

 

 まだ幼いミシェルももっぱら家業の手伝いをし、その傍らで学校に通う──くらいの日々を過ごしていた。

 

 毎週日曜の礼拝で、年上の神父さんに会うのが少ない趣味。それなりにイケメンで、どことなく都会的な雰囲気に憧れていたのだ。自分の知らないセカイを僅かなりとも教えてくれるような、背伸びするみたいな期待。

 

 別に、この町──ウィットロックを離れようと思ったコトはない。人口一万人も居ないこの町で産まれて、育って、結婚して、子供を産んで──お母さんのように、自分もそうやって生きていくのだろうとボンヤリ思っていた。厭も何もなく、そういうものだと自然に受け入れていた。

 

 ──だから。

 

「…………なんで…………」

 

 その町が。

 

 流れ着いた吸血鬼によって死都と化すなんて、想像だにしなかったのだ。

 

 体育館(ギムナジウム)は時季外れのハロウィンみたい。飾り付けはカボチャの代わりに逆さ吊りの大人たち、色は床も壁も天井も何もかも(アカ)オンリー。

 

 まるで腸の中みたいだ、とミシェルは眺めていた。嗅覚はとうに限界(キャパオーバー)、吐いて吐いて吐き尽くして、魂まで吐き出してしまったような気分だから動けない。そうでなくても、彼女()()は後ろ手に縛られているから逃れるすべはないのだが。

 

 ミシェル以外の町の子供たちは、全員が心神喪失状態。視覚、嗅覚、聴覚。運の()い子は追加で触覚と、味覚の五感コンプリート。大人たちを皆殺しにしながら集められた少年少女はスプラッタに打ちのめされて茫然自失──ミシェルが辛うじて意識の糸の端を握りしめていたのは、幸運だったのか、それとも不幸だったのか。この時の彼女には、不幸としか思えなかったが──

 

 地上の地獄(ウィットロック)の王サマ、町を血に染め上げた吸血鬼は、客席に住民たちの骸を並べる作業中。

 

「フ~ンフフフ~、イッツパーリィナ……ん?」

 

 調子外れで本人が愉しいだけの鼻歌を歌いながら、絶命してぐらぐらと不安定な死体をうまいこと観客らしくなるよう悪戦苦闘する化物の耳に、どういうわけか少女の声が届いてしまった。

 

「アハっ、まだ質問する元気ある仔が居たんだ! いいねいいねぇ、元気だねえ!」

 

 ()()()は性別も判然としない人物だ。男性にしては小柄で華奢で線が細いが、女性であるなら高身長でガタイがいい。どちらにせよ尋常でない美形なのだが、それも口元をべったりと汚す赤で台無しになっている。

 

 最悪な意味で凄みのある怪物は死体遊戯を放っぽって、見覚えのある住民の遺体がぐちゃりと倒れるのを一顧だにせず、浮かれた足取りで近付いてくる。

 

「いいでショウ、教えてあげまショウ! なぜなぜは仔共の特権、どんどん質問してどんどん学ぶといいのです。キミたちの年頃なら血が染み込むように吸収できるだろうから! 期待してるん・だ・ゼ、このワタシは!」

 

 異常者らしい異常なハイテンションで、きりきり舞いしていた狂人はそこで、ぴたりと動きを止めて考え込む。

 

「それで、何故……何故かあ。う~~ん。ううぅぅん……」

 

 うんうん唸って、溜息をついて。やれやれと肩をすくめて、子供のようにくしゃくしゃの苦笑。

 

「いや、困ったね。キミたちを吸い殺していない理由は、実のところ今しがた言っちまってたコトだったりしてね。キミたち、まだ真っ新な可能性の塊たる幼子なら、もしかしたらワタシの下僕()になれるかも知れないんだから! ()()()()()()()()()()()()()()()けど、キミたちなら、もしかしたら──」

 

 うっとりと語尾をボカす怪物の顔容は、クリスマスのプレゼントを期待するように紅潮している──これだけの惨劇、死者数千人を数える虐殺を果たしておきながら、なんて純真。

 

 ……後に明らかになったことではあるが。

 

 この死徒は当時まだV()階梯、夜魔と教会が称するレベルの吸血鬼だった。親基(おやもと)の死徒が抹殺されて、独立した個体。

 

 問題は──V階梯の吸血鬼に、人間の血を吸って吸血鬼にする能力は()()()()()()()、ということ。

 

 そしてそれを、親基から逃れたこいつは知らなかった、ということ。

 

 つまり少年少女がこの時まで一命を取り留めていた理由は喜劇のような勘違いで、

 

 救いの手が間に合ったのは、運命と表現すべきなのだろうと、ミシェルは思った。

 




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