2013年、アメリカ合衆国。
カンザス州はそのど真ん中、真っ平でだだっ広いド田舎もド田舎。人より牛の方が多いというのは比喩でも誇張でもなく、州人口の倍ほどの
ドーソン家も例にもれず、広大な放牧地で畜産を生業としていた。
まだ幼いミシェルももっぱら家業の手伝いをし、その傍らで学校に通う──くらいの日々を過ごしていた。
毎週日曜の礼拝で、年上の神父さんに会うのが少ない趣味。それなりにイケメンで、どことなく都会的な雰囲気に憧れていたのだ。自分の知らないセカイを僅かなりとも教えてくれるような、背伸びするみたいな期待。
別に、この町──ウィットロックを離れようと思ったコトはない。人口一万人も居ないこの町で産まれて、育って、結婚して、子供を産んで──お母さんのように、自分もそうやって生きていくのだろうとボンヤリ思っていた。厭も何もなく、そういうものだと自然に受け入れていた。
──だから。
「…………なんで…………」
その町が。
流れ着いた吸血鬼によって死都と化すなんて、想像だにしなかったのだ。
まるで腸の中みたいだ、とミシェルは眺めていた。嗅覚はとうに
ミシェル以外の町の子供たちは、全員が心神喪失状態。視覚、嗅覚、聴覚。運の
「フ~ンフフフ~、イッツパーリィナ……ん?」
調子外れで本人が愉しいだけの鼻歌を歌いながら、絶命してぐらぐらと不安定な死体をうまいこと観客らしくなるよう悪戦苦闘する化物の耳に、どういうわけか少女の声が届いてしまった。
「アハっ、まだ質問する元気ある仔が居たんだ! いいねいいねぇ、元気だねえ!」
最悪な意味で凄みのある怪物は死体遊戯を放っぽって、見覚えのある住民の遺体がぐちゃりと倒れるのを一顧だにせず、浮かれた足取りで近付いてくる。
「いいでショウ、教えてあげまショウ! なぜなぜは仔共の特権、どんどん質問してどんどん学ぶといいのです。キミたちの年頃なら血が染み込むように吸収できるだろうから! 期待してるん・だ・ゼ、このワタシは!」
異常者らしい異常なハイテンションで、きりきり舞いしていた狂人はそこで、ぴたりと動きを止めて考え込む。
「それで、何故……何故かあ。う~~ん。ううぅぅん……」
うんうん唸って、溜息をついて。やれやれと肩をすくめて、子供のようにくしゃくしゃの苦笑。
「いや、困ったね。キミたちを吸い殺していない理由は、実のところ今しがた言っちまってたコトだったりしてね。キミたち、まだ真っ新な可能性の塊たる幼子なら、もしかしたらワタシの
うっとりと語尾をボカす怪物の顔容は、クリスマスのプレゼントを期待するように紅潮している──これだけの惨劇、死者数千人を数える虐殺を果たしておきながら、なんて純真。
……後に明らかになったことではあるが。
この死徒は当時まだ
問題は──V階梯の吸血鬼に、人間の血を吸って吸血鬼にする能力は
そしてそれを、親基から逃れたこいつは知らなかった、ということ。
つまり少年少女がこの時まで一命を取り留めていた理由は喜劇のような勘違いで、
救いの手が間に合ったのは、運命と表現すべきなのだろうと、ミシェルは思った。