空気は一瞬にして尋問に塗り替わった。
確信。
彼は私の中に何かの存在を感じている。知っている。その瞳が雄弁に語っている──『貴様の中に在るものを白状せよ』と。私も知らない何かを、彼は知っているのだ。
「貴様の経歴は知っている。十年前の『フユキ大火』で臙条美青に引き取られる以前の貴様に、“魔”と縁を持つ機会はなかった。絶無だ。あるいは
「魔って、そんな……私はただの、巻き込まれただけのマスターで──」
「ひとつ。異常に多い魔力量。貴様のそれは尋常ではない、と理解していよう。死徒に匹敵、凌駕しかねないというのは、いささか奇妙に過ぎる」
「それ──は」
確かに、
私の魔力はとんでもなく多いのだ、と。そしてただ多いのではなく、それを気取られないこともまた異常であるのだ、と。あの時はそれどころではないからと棚上げして都合よく活かした特性が、裏返って異常性の証拠として突き付けられる。
ライダーの淡々としていて、それでいて鋭い詰問は続く。
「ふたつ。サーヴァントを狙撃できる銃器の技量。アーチャーにもルーラーにも怖気づかず、果敢に発砲するだけなら勇気があれば成し得るだろう。けれど、それを有効打とせしめる、その眼。気づいているのかは知らないが、常人はサーヴァントの戦闘速度を目視など出来ないのだからな。余のマスターもそう。強化の魔術だったか」
「……魔術、という表現はお止めください、ライダー」
「ああ、失礼。ややこしい制約があるのだったな」
主の制止の言葉を、彼は気にしたふうでもない。
会話のパワーバランス、その天秤はもはやライダーに傾いて戻せなくなっていた。
「みっつ。ルーラーの妨害をし遂せた、あの一射。世界に撃ち込む毒の如き異論」
「────は?」
なんの、はなし、だ。
ルーラーの霊核を、聖が貫いた後の話か? あのとき、往生際の悪い大英雄が彼を道連れにせんと剣を振り上げた時。私はそれを止めたくて、必死に射撃で邪魔をしようとした。銃弾をバラ撒いて、『
毒だとか世界だと……か─────
「────あ」
いいや違う、と気づいた。
思い当ってしまった、心当たり。いいや、正確に表現したいのであれば“心当たらず”というべきか。
──白昼夢。
──空白の時間。
──断線した意識。
──床材に向けて発砲されていた、私の銃。
私の知らない私が、あのとき、何かをしていた、のか。
「サーヴァントの霊基を貫き徹す椎名聖の魔剣化と、絶対値では同等の戦果でありながら、方向性は真逆の負の奇跡」
それは罪業を
私の胸の中、私すら知らぬ行いを白日のもとに晒す断罪の時。
「──かの大帝の宝具は余からしても畏敬に値する代物だった。数多の奇跡を組み上げて冠のカタチにした彼の王国。貴様の一射はそれに泥を塗りたくって穢した。飛沫の一滴であろうとも、汚れは汚れ。それが『
「…………わた、しが?」
あの時、そんなこと、を?
仮に──もしもそんなことが出来るとして、動機は理解できる。聖を勝たせたい、彼に負けて欲しくない、生き残って欲しいという感情ひとつで、きっと私はどこまでも走れる。それはあの時の一時的な感情ではなく、今だって変わらずこの胸にある火。
問題は手段。
もしも、あの瞬間に意識の断線が発生し、聖がルーラーに刃を届かせるに至った“何か”が起きたのでなければ、ライダーの言葉は酷い難癖でしかないはずだった。だって私にそんなことが出来るものか。出来ないハズだ。それなのに──────
──やって、いたの?
困惑はあっても恐怖のない、奇妙極まる感覚に包まれて動けずにいる私に、ライダーは最後をつきつけることを選んだ。