臙条叶が消えれば、椎名聖がランサーのマスターとなる。それが正しい関係性、本来あるべきカタチ。一々説明を挟まなければ動けない──いいや、説明されたってついていけないヤツなんか挟むより、そちらの方がよほど効率よく戦えるに決まってる。
聖が、彼がマスターだったなら、ルーラーの『神明裁決』でランサーが死んだりすることも、無かったに違いないのだから。
なのに、こんなのって無いだろう。あんまりだ。
死ねると思って付いてきたのに、私の過去を掘り起こして、あまつさえ聖杯戦争に勝つための戦力に───聖とランサーを倒すために私を利用しよう、なんて。お邪魔虫どころか害悪だ。今更必死になって身をよじるけれど、
「抵抗は無駄だ。貴様の過去、そこに潜む魔を曝け出すときは、今──」
拘束から解放されることは自由を意味しない。抵抗むなしく魔法円の中心に運ばれた私は、そこから発される力場に囚われて宙に展翅される。ライダーの魔力がうねり、荒れ狂う。
迸る電荷が頭部に接触するたび、視界が揺れるほどの衝撃が襲ってきた。
「ヅッッ──」
痛みではない。
どちらかと言えば、睡魔に近かった。
記憶の蓋をこじ開ける魔術が、徐々に、過去を掘り起こしてゆく。そうすると、忘れていたはずの時間は取り留めのない情報の素子となって氾濫し、私の意識を押し流そうとするのだ。必死に抵抗しても、目覚め続けられる人間はいない。
いつか、夢に堕ちるように。
いつか、永い眠りに就くように。
「ア、ぁッ──いや、だ──」
私のか細い声は、誰にも届きはしない。
私自身にだって聞こえないのだから、それも道理──
「──たす、け──」
ライダーが、次いでミシェルが弾かれたように振り返る。
霞む視界の端、壁が微塵に細切れる。
アクセル全開で、飛び込んでくるのはずっと焦がれた姿。──そして、今は誰よりも見たくなかった姿。
「てめぇウチの同盟相手に何してんだライダーッッッ!!!」
オートバイに跨って、椎名聖が宙に躍り出た。