「ホントにあいつは…………度肝を抜くのが死ぬほど
思い返せば、初めて言葉を交わした時からそうだった。聖杯戦争のマスターであると聖が名乗っただけで、校内で躊躇なく発砲する。そんな出会いの時点で思い知っておくべきだった。
予想など、出来るはずもない。
起床と対面がぐだぐだに終わって、彼らはリビングに集合した。非常事態の作戦会議だ。
出席者は家主、臙条叶を欠いた槍術同盟の三人。即ち、椎名聖、ランサー、キャスター。
会議が始まって、開口一番「救出に行くぞ」と聖は宣言した。誰をかは、この場の全員言わずとも理解している。
ただ、決然と発したはずの言葉は、この場の誰をも納得させなかっただけ。
「何故?」
問うのはキャスター。
「何故だと?」
問い返す聖。
「ええ。私たちは、理由を聞きたいのです」
頷くランサー。
聖もそれで、そうか、と頷いた。
「要るか。説明が──そりゃそうだよな。ずっと一人で決断してたもんだから、失念してた」
今までは誰かに説明する必要がなかったから、決意表明をするだけでよかった。誰かを巻き込む心配も、一緒についてきてもらうための説明も、彼には無縁のものだった。
椎名聖としてではない。もっと包括的な前からの話。
改めて椎名聖として──第五次聖杯戦争の参加者、キャスターのマスターでありランサー陣営の同盟者として口を開く。
「ライダー……タフムーラスは、強力なサーヴァントだ。主戦力であろう大悪魔アンリ・マユを喪失しても未だ強大。キャスターの掴んでるっていう居場所は敵の拠点と考えれば──リスクは、高い。
ではリターンは? 臙条叶の救出。けれどそれも、必要かは些か疑問がある。あいつが自分でライダーのもとへと向かった可能性があるって話だったな。そんな不確定な状況で突っ込んでみて、実はあいつがライダーと結託しているかも知れない。罠の可能性は十分と言える。その場合は、まああいつも敵と判断して排除することになるだろうが。
対して奪還に向かわないなら、話は簡単だ。臙条とランサーの契約を破棄して、俺が二騎のマスターをやる。魔力供給に難はあっても、意思統一の手間が省けて戦力的にはトントン、やや悪いくらいだろうな」
彼は息を止めて、肚にぐっと力を込めて、
「──そして俺は、同盟相手を見捨てた悔いを抱えて生きていく事になる」
「────」
「俺は御免だぞ、そんなの。
俺は今更死ぬのは怖くない。なにせ死んで死んで死に飽いてる。人間なんにでも慣れるもんで、死ねば死にも慣れる。そんなことより俺が怖いのは、悔いを残すのが、怖いんだ。一生どころか輪廻の果てまで、あの時こうしときゃ良かったって思い患いながら生きていくなんて、最悪さ。これは死んだって終わんねえ、固定された記憶の記録の中で永遠に自傷だ。俺も、俺に繋いだ過去のヘルギたちも、俺から続く未来のヘルギたちも、全員で全員を責める自家中毒。
だから行くんだ。別に臙条のためじゃない、聖杯戦争に勝つためでもない。俺は俺に、
今ここで臙条を見捨てて放り出して、それで聖杯戦争勝っても誇れねえよ。意味判んねえンだもんよ。何考えてんだよあいつ! 何考えれば自分
──だから、俺は臙条を連れ戻しに行く」
長尺の台詞を一息で吐き出して、やや荒い呼吸音だけが残される。
それはほとんど独白だった。
結局のところランサーやキャスターが居ようと居まいとに関わらず、彼が心情を吐露しただけ。説得や説明ではない、内臓がまろびでるような生の言葉。
けれど、それだけに熱宿す言葉では、あった。