ツノが邪魔すぎる   作:田中左近又兵衛

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契約

『ありがとう~~!!助かったよ!』

 

「…ハァ」

 

『あっ、なんでこっち見てため息ついたの!』

 

なんでこうなった。

 

そう思わざるを得ないほど面倒な状況だ。

 

助けを求める声が聞こえたから現場に急行し、エーテリアス共を蹴散らした後のことだった。

 

目の前にはスカーフを巻いた喋るボンプが一匹。それがモチモチとした挙動で助けられたことへの感謝を示し、かと思えば此方のため息に反応して目をいからせ短い手を腰に当てて抗議してくる。

 

喋るボンプは働いてきて聞いたことがない。だとすればホロウに無断・無許可で侵入しホロウ内の鉱物や物資など多岐に渡る違法行為をするホロウレイダーだと断定しても問題ないだろう。さらにまともな戦闘力の無さそうなボンプで単独行動をしているということはホロウの案内人であるプロキシ。さらにさらにキャロットすら持ってないにもかかわらず焦った様子はなくこれが自然だと言わんばかりに目の前で元気に跳ねている。

 

自殺志願者(この場合は自殺志願機か?)とは到底思えない。

つまりキャロットに頼らずともホロウを把握できる技術を持っているということ。

 

明らかに普通のプロキシではなく、何かしら特別な何かを有した謎のボンプ。

 

どう見たって厄ネタそのもの。関わらない方が身のためだ。

 

…これは数え役満か?まだ巻き返せるか?

 

そう思考を続けるも、状況は一向に改善するはずもなく。なんならボンプから男の声までもが聞こえ始めて訳が分からなくなってきた。そんな俺の悩みを知ってか知らずかひと段落した様子のボンプは質問を投げかけてくる。

 

『ところで、あんたは同業者(ホロウレイダー)?ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど。心配しないで!報酬はちゃんと払うから!』

 

「いや、俺は調査員だ」

 

『調査員?って言うと…えっ、もしかしてHIA!?制服着てないけど!?』

 

「ほら、上着の下に着てるだろ?」

 

『ホントだ!?』

 

今度は目をバッテンにして頭を抱えながらのたうち回り始めた。ボンプからは焦り散らかした男女の声が入り乱れていて、中に人格用のコアが二つあるんじゃないかと疑ってしまう。「どうしようお兄ちゃん」とか「まずは素数を数えて落ち着くんだ。ほら、1、2、3、4」とか「お兄ちゃんの方が落ち着いてないじゃん!」とか。

 

「おいボンプ」

 

『取り敢えずここはなんとか切り抜けないと…って、ボンプじゃなくてこの子はイアス!ちゃんとした名前があるの!』

 

「それはすまん。……ん?『この子』?」

 

『…あっ』

 

『まずいな…仕方ない、僕が変わろう』

 

俺が拾った失言に気づいたボンプ、もといイアスが慌てて口元にあたる部分を抑えると、スピーカーから女の声が消え男の声だけになった。若い声で、カウンセラーのような、相手を落ち着かせる雰囲気を持つ声だ。

 

『(相手は調査員。そして薄々だが僕たちの正体に気づきかけている。気が進まないが、脅迫のポーズを取った方がいいか?)ここからは僕が話そう。僕たちはパエトーン。しがないプロキシさ』

 

「パエトーン……インターノットで有名なあの」

 

『あぁ。これだという証拠はないけどね。でも聡明な君ならアタリはついてたんじゃないかな?』

 

「キャロットを使わずにホロウで行動する。かといって無謀な行動に出ているという態度が声からも見られず慣れた感じだったからな。信じよう」

 

「随分あっさりと信じるんだね」

 

至極当然な疑問を口にするパエトーンの声を受けて額から伸びるツノを見る。俺のツノは様々なことを教えてくれる。これ自体が高性能なレーダーであると共に、相手の嘘や装った態度から真偽を確かめることも応用としてできる。相手は機械(ボンプ)だから肉体へのソレよりは正確性が落ちるが、それでもこれまでの経験から相手が嘘を言ってるか否かは判断できた。これで騙されたなら俺よりも相手が一枚上手だっただけだ。

 

「俺のこれは特別性だからな。で、何だ?」

 

『話が速くて助かるよ。では、交渉と行こうか。此方からの要求は僕たちの通報をしないことだ』

 

「ふむ。それを呑んだとして、俺にメリットはあるのか?」

 

『もちろんさ。僕たちパエトーンに貸しを作れる。幸い僕たちには備えがあってね。君が断っても備えはある』

 

パエトーンという言葉を聞いてからかそれとも最初からか、相手から風格といったものが醸し出されているのを感じる。これまでもこうして交渉をし、プロキシとしてのキャリアを積んでいったのだろう。そう思わせるほど自然体で、淀みなく流れるように言葉を紡いでいる。

 

しかし、あのパエトーンに貸しを作れるとなると、どうしようか。

 

直近で困っていることはないし、かといって一介のプロキシに零号ホロウの伝手があるとも限らない。

 

だが、しかし。

 

パエトーンならば。俺の目的の役に立ってくれるかもしれん。

 

「パエトーン」

 

『なんだい?』

 

「俺には目的がある。俺は旧都崩壊で行方不明になった家族を探している」

 

『旧都崩壊…』

 

パエトーンの声のトーンが下がった。パエトーンもまた旧都崩壊で何かあったのかもしれない。それならば、俺の目的にも手を貸してくれるだろう。

 

「家族の捜索に手を貸してくれ。それさえ呑んでくれたらお前たちのことは報告しない。今後の活動にも手を貸してやろう」

 

『なるほど…わかった。それでいこう。大船に乗ったつもりでいてくれ』

 

『そういうことなら喜んで手伝うよ!これからよろしく!えっと…』

 

「市角伸だ。好きに呼んでくれ」

 

これから共犯者になるわけだし、本名も出してしまって良いだろう。パエトーンならすぐにわかりそうだし。そう思って素直に話すと、イアスは液晶の顔に笑顔を浮かべ小さい手で握手を求めてきた。

 

それに応じると、パエトーンが操作していると思われるボンプは依頼のことを思い出したのだろう。ニコニコとした表情からポカンとした顔になり、最後には焦ったように短い腕を上下に振り始めた。

 

 

『あっ依頼のこと忘れてた!?ごめんシン、早速だけど手伝って!』

 

「突然だな。まぁ了解だ」




パエトーンの二人はこの時点ではまだアカウントを喪失していません。

あと思うのですが、カルマ値が善に傾きまくっているパエトーンといえども一人のプロキシ。交渉術は元より最終手段も最終手段とはいえ脅迫は使えると思うのです。

アキラもリンも人たらしレベルの凄まじい対人スキルを持っているわけですが、個人的にはアキラは落ち着いた雰囲気で悩みを聞き出すカウンセラー型、リンは元気いっぱいで警戒心を解き懐に入って心の内を打ち明けてしまいたくなるような寄り添い型のイメージが強いです。
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