「あ、ありがとうございます…」
「怪我はありませんか?こちらへ、治安局の救助地点へお連れします」
今しがた助けた市民を治安局がいる地点まで連れていく。エーテリアスに囲まれた状況から一変して助けられた年配の女性は安堵の息を吐き、心臓を落ち着かせるように胸に手を当てながら歩き始めた。
現在、俺は
このホロウ災害に対して
ホロウに関する知見と戦闘能力から単独活動が可能な俺はチームで移動しないためフットワークが他よりも遥かに軽い。ツノが示す感覚に従って住民の反応を追って救助するのを繰り返し、なんと今ので30人を突破した。
何もめでたくなどないが、俺の疲労を除けば救助活動は順調に進んでいると言って良いだろう。どのくらい救助できるか分からんが、出来る限り取りこぼさないようにしたい。基本的な倫理観としても、精神衛生としても。
「ところで調査員のお兄さん、頼みがあるんだけど…」
「なんです?」
「お兄さんが助けに来る前に緑色の服を着た女の子が走っていくのを見たのよ。遠目から見ただけだし、声をかける前に走り去っちゃったけど、今もホロウを彷徨ってるはずよ。どうか助けてあげてちょうだい」
「緑色の服を着た女の子ですね…了解しました」
言われた情報を頭に刻み込む。出会えるかは未知数だが、探してみるとしよう。
「ところで最近の若い人ってすごいのねぇ~。おばちゃんが若かった頃でもあんなに速く動けなかったわ」
「今はご自分の心配をしてください」
◇◇◇
そこからもう何人か助け出した後、引き続き調査及び救助のためにホロウ内を走っている途中のことだった。
「そろそろ槍を持つ手がしんどくなってきたぞ…ん?あれは――」
エーテルの反応を追いながら走っていると、硬いものが激しくぶつかる音とせわしなく動く何かの影が視界の奥にちらついた。見てみると二人、上級エーテリアスのデュラハンに絡まれているようだ。片方は赤いジャケットを着用した機械人、もう片方は――緑色の服を着た女の子だ!
救助した一人が言っていた人を発見したが、どうやら正規の人間ではないみたいだ。武器を持っていることから察するにホロウレイダー。上級エーテリアスを相手に一歩も引かず動きにも淀みが見られないことから手練れだ。ただ戦闘が長引いているのかそれとも前に何かしていたのか歯切れが悪く、攻めあぐねているようだ。
おばあさんにああ言った手前だが、調査協会の端くれとして悩んでしまう。助けるのは良いが、相手は戦闘慣れしている。人間性が全く分からない以上、希望的観測に縋りたくはない。三つ巴になってしまうのが関の山だが…うぅむ。
そうこうしてるうちに、弾切れに気を取られた機械人に攻撃を繰り出したデュラハン。それを少女が咄嗟に庇いナタのような武器で受け止める。だが、体勢が悪く弾き飛ばされてしまう。今度は少女を狙ったデュラハンの凶刃が姿勢を崩したままの少女に向かう――つべこべ考えてる場合じゃねぇな!
――ガァン!!
「―ッ!?あなたは」
「加勢する。今はそれでいいだろう?」
弾丸のようにダイナミックエントリーをかまし、デュラハンのブレードを正面から受け止める。流石は協会謹製の槍だ、なんともない。デュラハンと俺の力を双方から受けても折れる様子一つ見せず、ブレードが当たっているところにも傷一つない。
少女は驚いたように目を開いてから俺の上着の奥にある調査員の服を見てすぐに警戒の色を目に浮かばせた。俺を睨み始めた少女に対して単刀直入に助太刀することを伝えると、今度は動揺したようできょとんとした顔を作る。
一歩踏み込んでブレードを押し返す。蹈鞴を踏んで後退したデュラハンはブレードを構えなおすと、此方の様子を見るようにその場で佇んだ。
「助かったぜユニコーンの兄ちゃん!あとちょっとでアンビーが三枚下ろしになっちまうところだった!」
「私は魚ではないわビリー。見たところ調査員のようだけど、どうして助けてくれたの?」
「救助した中の一人から見かけたから助けてくれって言われたんだよ。お前らホロウレイダーだろ?助けるかは正直迷ったが、目の前で人が死ぬところを黙って見れるほど人でなしじゃないんでな。あと俺はユニコーンじゃねぇ、イッカクだ」
赤いジャケットの機械人――ビリーの調子の良いジョークを受け流したところ、おもむろにデュラハンが俺たちに突っ込んできた。大盾に変化した左手を前に構え、エーテリアスの高い身体能力を活かしたタックルを跳んで避ける。
「こりゃ話は後だな、後方支援は任せろ!」
「助けてくれたのは感謝する。でも、あれを倒した後は保証できない」
「それで良い。俺が前に出る!」
立ち上がったデュラハンの狙いは絶好の機会を邪魔した俺。高く振り上げたブレードの斬撃を余裕をもって躱し、次いで放たれた横薙ぎの一撃も半歩後ろに下がって避ける。エーテル粒子に満ちたエーテリアスの動きはツノのお陰で手に取るようにわかる。
横合いから飛んできた少女――ビリーの台詞からアンビーがナタで胴体を斬りつけるが、浅い。大盾を振り回しアンビーを振り払ったデュラハンはブレードを縦横無尽に振ってアンビーを捉えようとする。しかし、その悉くを半身で避け、跳び、ナタで逸らしたアンビーは容易く死線を潜り抜けて見せた。
バックステップをするアンビーに追いすがるように突貫するデュラハンのブレードを入れ代わるように前に出た俺が受け止め、槍の角度を調整して弾く。
少しばかり崩れた体幹を隠すように大盾を振りかぶり殴ろうとするが――デュラハンは、ここにいるあと一人を意識から外してしまった。
瞬間――デュラハンのエーテル結晶に覆われた肩と脚部をビリーの銃撃が襲う。激しい火花を散らしながら衝突した弾丸は内包した運動エネルギーを存分に伝え、制御の効かなくなった大盾がデュラハンの身体を引っ張り大きく体勢を崩した。
「へへーん!どうよ!残弾が心もとなくたってこれくらいやれるんだぜ!」
「ナイスだ。――その腕もらうぞ」
得意気に銃にバックスピンをかけるビリーを尻目に下半身に力を込める。イッカクのシリオンとして備わっている横向きの尾ヒレで強く地面を叩くのと同時に踏み込めば、身体は矢もかくやという勢いでデュラハンに向かっていく。
顔を上げたデュラハンが迎撃しようとするがもう遅い。すれ違うように振るわれた槍が空気を切り裂きながらデュラハンのブレードを持つ腕を容易く両断せしめた。
「――トドメよ」
中空を舞うブレードが地面に落ちるよりも先に背後を取ったアンビーが雷を纏ったナタで飛び上がるように下から斬り裂く。股関節から頭部のコアに至るまでに電流のちらつく刀痕を刻まれたデュラハンは膝をつき、傷ついたコアに暴れるように極彩色のノイズが走る。
「ぃよしっ!成・敗・完・了ッ!スターライトナイトに敵はない!」
「警戒維持。目の前の敵を倒したからと言って他にいないとは限らないわ」
「右に同じだ。そもそも俺たちは一時的に共闘した仲。警戒を解かないことを推奨する――」
――ッ!目の前のエーテリアスから異常反応を感知した!
デュラハンがいる場所を見る。
そこにはエーテル粒子となって消えるはずのデュラハンの身体から高エーテル反応が出ると共に傷が修復されていく。今にも力を取り戻してしまいそうなデュラハンを前に、俺以外の二人は咄嗟のことで動けそうにない。
離れてしまってここから駆け出したって届きそうもない。ならば、こっちにも奥の手がある。
「――モノセロス・ハープーン起動!」
そう呼びかけると、手甲と槍にエーテルエネルギーが充填されその機能を発揮する。
モノセロス・ハープーンと銘打たれたこれはエーテルエネルギーによって強い磁性を持たせるという技術から着想を得た機能だ。俺が身につけている手甲と槍がセットになることで初めて効果を発揮する代物で、磁力によって手甲と槍の間に指向性を持った斥力や引力を発生させることで槍を超高速で撃ち出すことや、遠距離から回収することを可能にする凄い機能なのだ。どうやって指向性を持たせてるとかそういうことは分からんが、これも新エリー都脅威の技術というやつだろう。
それはさておき、今は目の前のエーテリアスを何とかしよう。
槍を持った右手を大きく後ろに、脚を前へ踏み出し加速する。足から腰、腹筋と背筋、上半身の筋肉を総動員させて全力で撃ち出す。
槍から手が離れる直前、手甲から発された斥力が槍をさらに押し出し――信じられないほどの速度で瞬間的に治りかけているデュラハンの元まで到達した槍はそのままデュラハンを貫き巻き込みながら後ろの建造物に着弾する。
轟音とともに大きなクレーターを作った建造物の奥、槍が突き刺さったデュラハンの反応が消えたのを確認した俺は肩の力を抜き息を吐く。
「おいおい、急に何を――」
「あのエーテリアスに、何か起こった?」
「あぁ。どういうわけか急に高エーテル反応が出てな。何かしでかす前に奥の手を使った。俺のツノは特別でな、そこらへんの変化はよく分かる」
ツノを軽く叩いて示すと、二人は取り敢えず納得したような雰囲気を見せた。
ビリーは二丁の拳銃の状態を確認しだし、アンビーもナタに刃こぼれが無いか確認し始める。二人ともどことなく此方に気を配ってる様子はあるが、仮にも共闘した仲だ。今からよーいドンで敵対するというのも気が引ける。それはあっちも同じようで、どことなく気まずい空気だけが辺りに満ちていった。
……取り敢えず武器を回収しよう。そう思い立ち、建造物に刺さったままになってる槍に手を向け、装置を起動する。
アンビーが反応を示すがそれよりも速く槍がコンクリートの壁から抜け、勢いよく飛んでくる。それをタイミングよくキャッチして背負い込んだところで、ギョッとした様子の二人が目についた。
「なんだそりゃ!?槍が戻ってくるってどんなカラクリだ!?」
「そういえば前に映画で見たことがある。その映画では雷神の男が手元に戻ってくるハンマーを所持していたわ」
「企業秘密だが、まぁ似たようなものだとだけ言っておく」
その映画のことは知らないが。
目の前で絶賛ワチャワチャしてるビリーと映画に思いを馳せるアンビーを見るとどうも毒気が抜かれてしまう。ホロウレイダーだからと警戒するのが馬鹿らしくなってくるというか、恐らく二人悪いタイプのホロウレイダーではないだろう。犯罪者であるホロウレイダーに良し悪しをつけるのも変な話だがな。
正直、俺は治安官というわけではないし、あくまで臨時的にホロウレイダーを捕まえることがあるだけで本業は調査だ。それに、二人を捕まえるとなれば相応に苦労するだろうし、もう別にいいだろう。
もう面倒になってきた俺はそう結論づける。全身金属の機械人らしからぬ柔軟な動きを見せるビリーから視線を外しアンビーに目を向ける。
戦闘中にもふと思ったことだが、どうも同居人に似ている気がする。世界には三人はそっくりさんがいるというが、うちの同居人はクローン出身。流石にないだろう。いや、クローンならばオリジナルのそっくりさんがいることになって、クローンも含めればそっくりさんは三人以上存在することに――
思考が逸脱しかけたところで、俺たちに近寄る小さな影が一つ。
『あの~ちょっと良いかな?』
そこに居たのは1m程度の小柄な機械。短い手足に兎のようなミミ。01と書かれたオレンジのスカーフを巻いたボンプだった。
『やぁ、三人ともお疲れ様!』
「ん?その姿は――」
「スカーフの喋るボンプ」
「ってことは!」
――パエトーン
三人の声を受け、目の前のボンプは腰に手を当て微笑んだ。
戦闘描写は中々難しいですね。精進したいです。
主人公の奥の手は簡単に言えば万能エネルギーのエーテルで磁力を発生させて凄い反発と引力を発生させます。それとシリオン由来の身体能力を使って全力で投げつける脳筋技になります。