本家(原作サマ)よりちょっと年上の二十代設定の二人です。
都内某所のスタジオ内では数多くのスタッフが慌ただしく行き交っている……今日はこれから来年地上波放映の連続ドラマ撮影だ。既に中盤を越えて物語は終盤に向けての伏線を含んだ展開を迎えている。
美術スタッフと軽く立ち話をしていた監督がなんとなくいつもより表情が柔和な事に気付いたのは流石撮影部の観察眼と言ったところだろうか……まだまだ助手の助手をしているような若い男性が近くに居たこれまた同じ技術部の録音助手のそのまた助手をしている若者に「なぁ」と声を掛けた。
「監督、機嫌いいな」
「そう?、今のところ撮影も順調だからかもね」
若手スタッフが軽い雑談を交わせるくらいには現場の空気もいい感じに仕上がっている。
そこに通りかかった宣伝部のSNS担当をしている若い女性が「それもあるけど」と訳知り顔でふふっ、と口元を緩ませた。
「さっきね、差し入れ貰ってたから、それでじゃない?」
「え?、誰から?、何を?」
「渡してたのは霧斗(キリト)くん」
たまたま後ろを通り過ぎようとしていた助監督の助手の助手のサードの下のフォースくらいの、要は一番下っ端のスタッフが耳で拾って顔色を変える。
「えぇっ?!、霧斗くん、もう楽屋入りしてんの?、やっべ、まだ弁当配り終えてないっ」
「あー、なんかねコレの前の仕事の……雑誌のインタビューだったかな、が予定より早く終わったみたいよ」
フォースの若者が「ひぃぃっ」と悲鳴を撒き散らしながらダッシュで遠ざかっていった。
「霧斗くんって楽屋弁当食べないだろ?」
「マネージャー弁当しか食べないはずだよね?」
走り去っていった背中は既に見えないが、その方向に顔を向けたままの男性スタッフ二人の疑問に宣伝部の女性が応じる。
「そのお弁当、前に一度見た事あるけどすっごく手が込んでて美味しそうだったわ。番宣の一環で公式SNSにUPしてもいい?、って頼んだんだけど、それはダメだって」
「結城さんって『美人すぎるマネージャー』で世間には認知されちゃってるけど、業界内じゃ『有能すぎるマネージャー』で有名だもんな」
「監督に渡してた物も実は結城さんが調達したんだろうし」
「はい、ビンゴ。霧斗くんまでちょっと自慢げに『明日奈が手に入れたんです』とか言ってた」
スタッフ達は揃って「ああぁ」と溜め息みたいな声を口から吐き出した。
普通はマネージャーが用意した贈答品でもタレントはその事実をわざわざ暴露したりしない。監督に自分のマネージャーの有能さをひけらかしても意味ないだろ、と言いたい所だが霧斗のマネージャー、結城明日奈の好感度は業界内でも既に天井知らずだから今更と言えば今更で、そこを素直に言っちゃうところが乗じて霧斗の好感度を上げている。
「そういう所が霧斗くんらしいよなぁ」
「あれで付き合ってないとかウソでしょ、って話なんだけど」
「芸能界広しと言えどあの二人くらいよね、ファンからも応援されてるタレントとマネージャーのカップルって」
「この前移動中に車で聴いてたラジオ番組に霧斗くんがゲスト出演してたけどリスナーからの質問が殆ど結城さん絡みで笑えたなぁ」
「どうせ『なんで告らないの』とか『本当は恋人なんでしょ』とかでしょ?」
「しまいには『明日奈さん、サブにいるの?』『ブースに呼んで告っちゃえっ』ってなって霧斗くんが『それもう公開処刑だろ』ってぼやいてた」
容易に想像出来る光景に三人が苦笑いをもらす。
「お陰で恋愛作品とか出来なくなっちゃってるけど、霧斗くんあんまり気にしてなさそうだし」
「まぁ、彼の売りは『普通じゃない普通』だもんな」
二十代の若手俳優と言えば必ず名前が挙がる『霧斗』、本名『桐ヶ谷和人』の持ち味は『普通』だ。観る者を唸らせるような迫力のある演技力でも華やかさのある派手な存在感でもない普通の演技。ただ群衆を俯瞰で撮ってもそこに紛れている霧斗になぜか殆どの目が集まってしまう。特別な普通の演技ができる俳優、霧斗。
そして彼のマネージャー『結城明日奈』もある意味特別な存在である。
霧斗が所属している芸能事務所「レクト」の社長令嬢でもあり霧斗とは十代にVRゲームの世界で出会いそこから付き合いが続いている。
その後リアルでも親交を深めていたが大学生の時に事務所が桐ヶ谷和人をスカウト。明日奈がマネージャーになる事を芸能界入りの条件にした為、卒業を待って和人は『霧斗』として俳優に、明日奈は彼のマネージャーに就任。
駆け出しの頃、タレントに代わってマネージャーがクイズに答えるという短い深夜帯番組の生放送で明日奈が超難問を軽々と正解し続け優勝をもぎ取ったが、番組最後の写真撮影で司会を務めていた中堅のイケメン俳優が肩を組もうとした段階で霧斗が彼女を背後から抱きしめ、それを阻止。直後ネットが大騒ぎとなり、二人は既にそういう関係なのかとワイドショーを大いに賑わせたが明日奈が完全否定。
ただその後ろでしょんぼりしている霧斗まで映り込んでしまった為「耳と尻尾がペタンコになってるワンコが見えた」と再び大盛り上がりになり霧斗推しの女性ファンの大半までもが「諦めずに頑張れっ」と応援方向に舵を切ってしまったのだ。
それら一連の騒動で頭が良いのはもちろんアイドル級の顔やらモデル並みの全身やらがすっかり広まってしまい、今では霧斗の『美人すぎるマネージャー』として、その辺の新人タレントより高い知名度を誇っている。
だからヘタに恋愛モノに出演すると「この撮影を明日奈さんが見ていたのかと思うと複雑」「霧斗、浮気はいかんぞ」などドラマ内容以外のコメントで溢れてしまうので制作サイドから起用NGタレントになってしまい、今現在撮影中のドラマもそういった色恋は一切ない。ただ十代、二十代の俳優が演じる恋愛ドラマはキラキラしい演技を求められる場合が多いので霧斗自身も普段なら決して言わない歯の浮くような台詞は自分の演技ではしっくり来ない自覚があるのか現状を嘆いている様子はなく、又、相手役もいちいち明日奈と比較されるのはゴメンだと敬遠する女性芸能人が殆どで……中には「明日奈には負けませんっ」と元来の負けず嫌いを前面に押し出しているアリスという希有な女性タレントもいるが、周囲からの「マネージャーと張り合ってどうする」と微苦笑の視線に気付いてないのは本人だけだ。ただこのアリスも霧斗と同じ事務所の為、ライバル視しているはずの明日奈と普通に友情めいた関係を築いているのだからこれも彼女の人柄ゆえなのだろう。
そして顔よし、頭よし、性格よしの三拍子が揃っているだけでも十分なのに料理の腕前もかなりのもので、いつも当然のように霧斗は仕事場でマネージャーの手作り弁当をパクついているのだが、逆に明日奈は更なる味への探究心からか現場で用意した弁当を欲するのである。
そういう理由で霧斗の楽屋ではさっきのフォースの若手スタッフが腰を直角に曲げて頭を下げていた。
お読みいただき有り難うございました。
がっ……設定説明だけで二人が出てこないまま第一弾は
終わってしまいました(謝)
明日はでてきますっ