スキャンダル   作:ほしな まつり

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『明日奈ーっ、助けてーっ』と連絡してきたユウキですが……


スキャンダル・第三弾

『ここ、どこかわかんないよー』

 

口調と内容で事件性はないと判断した明日奈が、ほっ、と肩の力をぬくと、その肩を軽くつつく霧斗の人差し指。

ジェスチャーでスピーカーへの切り替えを提案された明日奈は霧斗との中間に端末を静かに置いた。

 

「落ち着いて、ユウキ。一人なの?」

『違う。待ってね、隣に…………』

『私もいます、明日奈』

 

てっきりマネージャーの声が出てくると思っていた二人は顔を見合わせ、次に明日奈は「アリス!!??」と叫び、霧斗は片手で顔を覆った。

更に居てはいけない少女の追加である。

こちらは外見からして目立ちまくる金髪碧眼、黙って立っていれば舶来のビスク・ドールのような美少女だが流暢な日本語はなぜか常に丁寧語でその精神は義理堅く礼節を持って正道を求めるまるで武士の……いや、彼女の容姿に従うなら西洋の騎士のような、これまた現代日本では人目を引く存在だ。

なぜこの二人が一緒に……と首を傾げる霧斗とは反対に明日奈の方は答えに辿り着いたのだろう、現状確認を開始する。

 

「今日は二人でヘアケアの美容サイトにUPするスチール撮影だったわよね?、それは終わったの?」

 

オレのマネージャーなのになんで他のタレントのスケジュールまで把握してるんだよ、と言いたげな目で見つめてくる霧斗を細くて薄い手の平で制していると今度は戻ってユウキの『うんっ』と元気いっぱいの声が返ってきた。

 

「それで二人のマネージャーは?、一緒じゃないの?」

『次の移動先、アリスも同じテレビ局なんだ。だから撮影が終わったら二人でタクシーを使うから先に行ってていいよ、って言って、今はボク達二人だけ』

 

それでもどちらかのマネージャーは残るべきだろう、と明日奈は眉間に皺を寄せたが何かに気付いて心を落ち着かせ、ゆっくりと問いかける。

 

「ユウキ、どうしてそんな事を言ったの?」

 

困り事ではすぐに頼ってくるほどユウキが明日奈を姉のように慕っているのと同時に、明日奈だって普段のユウキなら理由なくマネージャーから離れて行動をするような子ではないと理解していた。

 

『……プレゼントを買いたかったんだ』

「プレゼント?」

『もうすぐ姉ちゃんの誕生日だから……』

『ユウキは姉の為に買い物がしたかったのです。とても立派な妹です。ですから私も微力ながら助力をと思い…』

『こらっ、アリスっ、勝手に喋らないでよっ』

 

端末の向こうで仲良く言い争っている二人を想像し、こちらも合点のいった霧斗と明日奈が互いの顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

ユウキには姉がいるのだ……と言っても双子の姉なので姉の誕生日はユウキの誕生日でもあるのだが……ユウキは幼い頃身体が弱く長い間病院に入院していた。今は普通の生活を送っているが、姉である藍子は心配性でユウキの仕事場にも頻繁に付き沿っている。そんな姉の目を掻い潜ってこっそりプレゼントを買いに行くのは至難の業だ。加えて仕事中はマネージャーがいる。事情を話したところで顔の売れてきたユウキを藍子から引き離して買い物には行かせてくれないだろう。代わりの者が買ってくるかオンラインショッピングを勧めるのがマネージャーとしては一番安全な提案だ。

そして一緒にいるアリスもまた遠い母国に妹がいる。

ユウキの姉を想う懸命な姿が自分の妹と重なったのかもしれない。

結果、入院生活が長く都内の移動が覚束ないユウキに海外育ちのアリスが同行して見事二人で迷子になったというわけだ。

 

「事情はわかったわ。それで肝心のプレゼントは買えたの?」

『それはバッチリ』

 

買い物は上手くいったのだろう、満足げな返事に明日奈の顔も安堵と喜びが混ざり合う。

 

『買い物した場所からテレビ局に向かおうと思って電車に乗ったけど乗り継ぎを間違えたのに気付いてアリスと慌てて降りちゃったんだ』

 

声のトーンがしょんぼり弱々しくなったので明日奈は深く慈愛に満ちた声で「大丈夫だよ、ユウキ」と励ました。

 

「駅の名前、わかる?」

『それが読めないんだよ』

 

その情けない声を聞いて今度は霧斗が、なるほど、と言いたげに頷く。

ユウキは小学校に通うべき六年間を病院で過ごしていたから基礎学力にムラがあるし隣にいるだろうアリスも話すのは問題ないが日本語の読み書きにおいては猛勉強中だ。

それなら今通話に使っている携帯端末で撮影検索するなり地図アプリを使って現在地を確認するなり、やりようはいくつかあるだろうが、自分達だけで公共の交通機関を使うことすら経験の浅い二人だ、目的地に辿り着かないとわかるやいなや慌てふためいて電車を飛び降りたところまでは想像出来る。しかしそこから明日奈に連絡をしてくるところが理解出来ない、と霧斗の口がへの字に折れた。

なぜ自分達のマネージャーに連絡しないんだ。

話の通りなら次の現場で彼女達の到着を待っているマネージャーこそ助けを求めるべき存在のはずだ。

たまたま楽屋でのんびりしていたから良かったが、明日奈だって忙しいんだぞ、と思ったところで霧斗は机につっぷした。

そうだった。楽屋で明日奈が食事を摂る間、やっと二人っきりで過ごせると思っていたのにこの状況だ……それもこれもみんな老若男女に好かれる己のパートナーが魅力的なのが原因なんだ、と顔をよじって黒い前髪の隙間からチラッと片目で明日奈を見れば、その視線にすぐに気付いた彼女が『どうしたの?』の表情で通話をしつつこちらに首を傾げてくる。

『なんでもない』の意志表示でヒラヒラ片手を振れば、一瞬きょとん?、としたもののすぐにユウキとの会話に意識を戻していた。

 

「それはね『おかちまち』って読むの」

 

確かに一発では読めない駅名だな、と明日奈の横顔を斜め下から眺めつつ思う。

明日奈は「そこからタクシーに乗れば?」と提案しているが『ボク、最後まで頑張ってみたい』と宣言するユウキの声を聞くと、ふわり、と笑い「だったらね……」とすらすらと路線案内を始め「それじゃあ気をつけてね。何かあったらすぐ連絡して」と通話を終えたところで、霧斗を呼びに来たスタッフが楽屋のドアをノックする音が響いた。




お読みいただき有り難うございました。
まだあと何話か続きますが「ユウキの大冒険withアリス」は
ここまでです。
少しお日にちをいただいてから、また連日投稿したいと思います。
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