月見ヤチヨの少しわがままな現代録   作:BPM168はじめじめし過ぎ

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運命のレギュレーション

 中学校からの帰り道、ふと母の声が耳にまとわりつく感覚を覚え足が止まる。

 

(なんで私は足を止めたの?)

 

 早く帰って予習と復習を進めないといけない、やるべき事は山ほどある、一秒も無駄にしてはならない。

 そう分かってるのに、足が一歩も前に進んでくれなかった。

 

(──あ、駄目だこれ)

 

 脚から力が抜け、身を守るようにしゃがんで膝を抱え込む。

 震えが止まらず、涙が勝手に目から溢れだしていく。

 

 動いてよ私の足、帰れば兄だっている。

 母もいるのだから……そう思っても、縫い付けられたように足が動かない。

 助けを求めることもしない、声にできない。

 酒寄彩葉は、超ムリ限界ギリだった。

 

 暗くなった夜空に煌めく一筋の光にすら気がつかぬほどに。

 

『見つけた』

 

 それでも彩葉が紡いだ未来が、彼女を手放しはしなかった。

 ──────────────────────

「一度運命について考えてみよう」

 

 かつて彩葉と暮らしていたアパートの部屋を再現した部屋でちゃぶ台の上にいるFUSHIと向き合う。

 

「私がこの8000年で感じたことは、運命はもうすでに決まってる。

 私がヤチヨになるみたいに」

 

 月見ヤチヨはツクヨミの歌姫となりいずれ月より来たるかぐや姫を月へ見送る。

 かぐや姫は彩葉の歌を聞き飛び出すも、8000年前の地球にやってきてしまいます。

 

 変わらぬ運命の輪、自らがヤチヨだと気がついたあの日からそれは私にとって呪いのように感じていた。

 

 何をしても変わらない、死んでしまう人は助けられないし、世界の有り様は変えられないという経験が私に諦めという消えない傷を残していった。

 

 それに同意し、FUSHIは身体をよじって頷いた。

 

「うん、その通りだと思う。だからきっと彩葉もヤチヨももう一度出会えるって確信したんだよな」

 

 ここで言う運命は、すでに決まっていることを指す、特定のイベントがという話ではなく未来は全て決まっているという考え方だ。

 

「大事なのは"今この場でこう考えるというイベントすら"も、この先の行動全てが未来では確定しているって」

 

 FUSHIは続ける、私達が運命に屈したのは特殊な事例だからだ、と。

 

「ヤチヨが運命に苦しんでるのは、時間を遡行した存在だからだよね」

 

「そう、だから月で仕事してる時も彩葉の事は見ようとしなかった。

 あの時に未来を知っちゃったら、楽しみにしていた彩葉との未来を知ってしまうから」

 

 運命が決まっているのと、その運命を知っていることは似ているようで全く別なのだ。

 

「私は彩葉と歩む未知を守るために地球を見なかった、けど今はその逆」

 

 少し息を吐いてFUSHIに告げる。

 

「この先の運命を体験してしまってるからこそ、ヤチヨは何をしてもそこに行きつく流れを感じてるんだよね」

 

 私は頷く、かぐやがヤチヨになるように彩葉もいろPになることは決まっている。

 かぐやが幸せだったあの2ヶ月間は確定している未来なんだ。

 

「だからこそ、ヤチヨが彩葉の事を深く聞こうとしなかったことが幸いする」

 

 あの頃は彩葉が苦しむ顔を見たくなくて、彩葉の事は聞かないようにしていた。

 一度だけ聞いたのは、体調不良で弱った彩葉が語った家庭事情だけ。

 宇宙人調べでも激ヤバお母さんのことは8000年経っても忘れそうにない程に衝撃が強かった。

 

「そうだね、事情は聞いたけど彩葉がどうやって立ち直ったか、どんな風に耐えていたかは詳しく聞いていないよ」

 

 FUSHIの言うとおり、私にとって昔の彩葉は未知のまま。

 それは決まっている未来との間に存在する、空白のページのようなもの。

 

「最終的な未来が決まっていても、その間は現在を生きてるヤチヨの自由」

 

「たとえその行動すらも運命で決まっていても、それを知らない私達にとっては自由ってことだよねFHSHI?」

 

「うん、今までの旅と一緒だね」

 

 そう、8000年前に飛んでしまったあとに生きていた世界が過去だなんて保証はなかった。

 未来に彩葉がいるなんてのは、絶望の中で祈った願いでしかなかった。

 

 運命は定まっている。

 けど、それが今を自由に生きない理由にはならない。

 少なくともかぐや姫の物語が始まるまでは、ヤチヨが自由に動ける前日譚。

 

 終わりと始まりが決まってるお伽噺でも、その間のお話は自由に変えられる、

 それが最終的にFUSHIと私が出した結論だった。

 ──────────────────────

 彩葉に会いに行く。

 

 そうは決めたものの、ツクヨミの運営は疎かにする事はまずできない。

 

 スタート直後の今はコンテンツを提供し続ける必要がある、インフルエンサーや専属ライバーがツクヨミに定住するまで月見ヤチヨというコンテンツは必要不可欠。

 

「けどだいじょーぶ! ヤチヨにかかればヤチョイのチョイっ」

 

 リソースを分割し、彩葉を探すための専用の分身を生み出す。

 ライブの後にファンサを行うためによく使う手法と同じだ。

 

「機能は最低限に、なるべく軽量にしてどの回線にも紛れ込めるようにして、見るために監視カメラを渡り歩くイメージで」

 

 彩葉を見つけることに特化したカスタマイズを施していく、FUSHIにも尽力してもらった。

 言い出しっぺだからね。

 

「行ってらっしゃい、彩葉の事を見つけてね」

 

 そうして完成した掌サイズのミニヤチヨを、ツクヨミを通じてネットの海へ送り出す。

 律儀にお辞儀をしてから飛んでいったのが可愛らしく、自分のことなのに少し笑ってしまった。

 

「さてさて、本業の配信もバリバリやっちゃうぞー!」

 

 肩に乗ったFUSHIをなでながら、私は私を広めるべくステージへ戻っていく。 

 

 ライブをしながら私は探す。

 

「彩葉の実家は京都だったよね、あーあかぐやが聞いていればなぁ

 って聞けないか、楽しくない話だもんね」

 

 配信で雑談をしながら私は探す。

 

「どうしたのミニヤチヨ、どうして個人情報を抜いて調べようとしないかって? 

 いやぁ、とっても悪いことはヤッチョはちょっと嫌かなぁ」

 

 ツクヨミのアップデートを行う、また人が増えてきて嬉しい。

 

「ってのは半分くらいの理由、本当は彩葉がいない世界だったら……怖いから」

 

 お兄ちゃんの帝はライブに来てくれたというのに、

 それでもまだ彩葉はツクヨミに来ていない。

 

「運命だって諦めてるのに、運命が本当なのかまだ怖いなんて変だよね」

 

 京都の中学校をすべてリスト化し、通学路近辺のカメラを掌握、一つ一つ映像を見ていく。

 時に同時に、時に恐る恐る一つだけを眺めたりと繰り返していく中で──。

 

「……見つけた」

 

 しゃがみこんでいる少女を、やっと見つけた。

 

 いろ、は…………いろは、彩葉! 彩葉彩葉彩葉!!! 

 良かった、生きてる、ここは彩葉のいる世界だったんだ。

 ちゃんと私に会う世界で──。

 

「いろ、は?」

 

 彩葉は道でしゃがみこんだまま動かない、自分の体を抱くように小さくなっている。

 ──あの夏、発熱して道に座り込んだ彩葉のように。

 

「彩葉っ!」

 

 急いで音声を確認するも、今見ている監視カメラだと音は拾えない。

 

「ごめんね彩葉!」

 

 ミニヤチヨを即席で改修し、電波に乗せて彩葉の持つ携帯端末へ送り出しハッキングをする。

 

「入れた、マイクを起動して音声を……っ」

 

 強制的に起動したマイクが拾ったのは、8000年ぶりの彩葉の声。

 

『だれ、かぁ……お父さん……』

 

 声を押し殺して泣いている、彩葉の苦しみの声だった。

 ──────────────────────

 泣くだけ泣いた後に動けないでいると、

 どこからか優しい声が聞こえてきた気がした。

 

『大切なメロディは流れてるよ』

 

 どこからだろう、力の入らない首をゆっくりと振ってあたりを見渡す。

 ……私以外誰も居ない。

 

『鼓動のよう途絶えず溢れてるよ』

 

 ポケットのスマホから音が出ていることに気がついた、しゃがんだときになにかアプリを開いてしまったのだろうか。

 取り出してみると、ストリーミングで歌が再生されていた。

 

「月見、ヤチヨ……?」

 

 白い髪の美しい少女、人間離れしたその容姿は記憶にある。

 確かニュースアプリだろうか、それとも兄だろうか。

 いや、そんなことより……。

 

 この曲は、なぜだかとても心に染み込んでいく。

 苦しみの糸を解きほぐすように、入り込んでいくような感覚がした。

 

「…………ヤチヨぉ」

 

 感極まって歌が流れているスマホを胸に抱く。

 重かった足は、不思議と動くようになっていた。




ゲーム活動の為、標準語をよく使う兄に影響されてるという感じで彩葉と基本標準語にします。
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