魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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16初めての共闘3

「‘ふぅ……焦るな……’」

 

 自分の攻撃力が足りないだろうことは前々からうっすら自覚していた。

 だから焦ることはない。

 

 改めて確認してみて分かったというだけだと自分に言い聞かせる。

 攻撃力を補う手段はいくらでもある。

 

 そして今は俺の攻撃力を補ってくれる存在がいる。

 

「‘クリアス!’」

 

「あっ、えっ、そ、そっか! わ、私ですね!」

 

 俺の戦いをボーッと見ているクリアスに向かって吠える。

 意図が伝わってくれればと思ったけれど、ハッとしたクリアスは何とか意図を汲み取ってくれたようだ。

 

「つ、ついボーッとしちゃいました……コボルトさん、すごくて……今、倒しますね!」

 

 クリアスは杖を前に出し、意識を集中させる。

 杖の前で空中に魔力が走り、魔法陣が描かれる。

 

 赤い魔力で描かれた魔法陣は完成すると淡い光を放つ。

 あれがこの世界における魔法なのかと、亡霊樹の攻撃をかわしながら感心して眺めてしまう。

 

「ファイヤーランス!」

 

 魔法陣から赤々と燃える炎が飛び出してくる。

 

「‘あぶっ……!’」

 

 魔法は細長く形を変えながら真っ直ぐに亡霊樹に向かっていったが、クリアスは俺が戦っている最中だということを忘れている。

 とりあえず放ってしまった魔法は俺にも当たりかけた。

 

 とっさにのけぞるようにしてかわしたからいいものの、毛の先がチリチリと焼けるような感覚に背中がヒヤリとする。

 

「‘ク〜リ〜ア〜ス〜!’」

 

「あ、ああ、ごめんなさい!」

 

 亡霊樹の幹に炎の槍が突き刺さって、真っ二つに裂けた。

 火がついてメラメラと燃えている亡霊樹は、わずかに枝を持ち上げただけで動かなくなってしまう。

 

 確かに魔法の威力は高かった。

 一撃で亡霊樹を倒す攻撃力はいいのだけど、一歩間違えるとその攻撃力が俺に牙を向くところだった。

 

 初めてだし意思の疎通を図って戦うことが難しいのは理解している。

 だからっていきなり魔法を放つことはない。

 

 俺の怒りを感じて、クリアスも失敗を察する。

 正確には失敗はしていないが、俺じゃなかったら危ないところだったというのに気づいたのだ。

 

「‘気をつけろ!’」

 

 炎の槍が掠めた毛が焦げ臭い。

 

「ふ、ふぃー!?」

 

 叱責しても言葉は通じない。

 だから怒ってるぞということを伝えるためにクリアスの頬を摘んで引っ張る。

 

 俺の思わぬお仕置きをクリアスは抵抗もせずに受け入れる。

 

「い、痛いです!」

 

「‘次やったらもっと痛くするからな!’」

 

 俺が手を離すとクリアスは涙目で頬をさする。

 どうしたものかと思うが、言葉が通じない以上はクリアスに方法を考えてもらうしかない。

 

 簡単なことで魔法を放つ時に声ぐらいかけてくれればいい。

 それに気づいてくれるだろうか。

 

 俺は小さくため息をつく。

 

「‘おっ?’」

 

 ポンッ。

 軽い破裂音のような音がした。

 

 見ると燃えていた亡霊樹が消えている。

 

「‘枝?’」

 

 そして亡霊樹がいたところには小枝が落ちていた。

 俺は枝を拾い上げて首を傾げる。

 

「ダンジョンの魔物は倒すと消えてしまうんです。その代わりにドロップ品……魔物から取れる素材をランダムに落とすんですよ」

 

 クリアスも枝を覗き込む。

 ダンジョンが人気である理由の一つがここにもある。

 

 ダンジョンの中で倒された魔物は消えてしまう。

 代わりに素材を落とすのだ。

 

 何を落とすのか、それはランダムであって狙ったものが落ちるとは限らないギャンブル的なところはある。

 しかし魔物の死体を回収したり、自分で解体しなくてもいいというところは楽なのだ。

 

 素材も汚れていないし、綺麗な品質なものが手に入る。

 これがダンジョンがお金稼ぎとしても人気の理由になっている。

 

「‘んじゃこれが亡霊樹のドロップ品……’」

 

 口には出さなかったけれど、しょっぱいなと思ってしまった。

 一体倒して、枝一本なのはしょぼいと言わざるを得ない。

 

「そんな顔しないでください」

 

 クリアスは俺の手から枝をひょいと取る。

 

「これもちゃんと売れるんですよ」

 

 明らかに俺が渋い顔をしていることが伝わったらしい。

 

「これ一本じゃあれですけど、何本か集めれば買い取ってもらえますよ。安いですけどね」

 

 クリアスは腰につけていた袋に枝を放り込む。

 売れるなら何であれ貴重なアイテムである。

 

「次はコボルトさんに当たらないように気をつけなきゃいけないですね」

 

 クリアスも反省してくれている。

 俺自身も気をつけては行くつもりだが、これからも一緒にやっていくなら連携の取り方というものも考えねばならない。

 

「ひとまずこの調子で行きましょう!」

 

 敵を引きつけるぐらいなら今のところ問題もない。

 俺とクリアスは慎重にダンジョンの中を進んでいく。

 

 一回戦ったことによって、緊張もだいぶほぐれた。

 クリアスの表情もいくらか明るくなったので、今のところ雰囲気も良い。

 

「コボルトさん、撃ちますよ!」

 

 今度は魔法を放つ前にちゃんと声をかけてくれた。

 俺の方もクリアスが魔法の準備段階として魔法陣を展開したのを見て、魔法に巻き込まれにくいように位置を調整している。

 

 魔法陣から飛び出してきた火の玉が亡霊樹に当たって、亡霊樹が激しく燃え上がる。

 今度は毛が焦げることもない。

 

「どうですか、コボルトさん!」

 

「‘良い感じだったな’」

 

「ん……な、何だか変な気分ですね。でも悪くはない……かも」

 

 自慢げな顔をするクリアスの頭を撫でてやる。

 クリアスは一瞬キョトンとした後、少し照れくさそうな表情を浮かべた。

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