魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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「えっ、あっ、あ、あまり動かないでください!」

 

「‘そうは言ってもな……’」

 

 クリアスの方も魔法の準備は出来ている。

 魔力で描いた魔法陣は赤い光を放っていて、いつでも魔法を撃てるようになっている。

 

 だが狙いが定まらない。

 俺とネズミは激しく戦っている。

 

 入れ替わり立ち替わり動いていて、上手く魔法で狙えないのだ。

 変なタイミングで魔法を撃つと、俺にも当たってしまうかもしれない。

 

 今の所魔力に余裕はあるが、バカスカと適当に放ってもいられないのだ。

 

「‘なら……これでどうだ!’」

 

 上手く戦えば、ネズミ一匹ぐらい倒せるような気はする。

 しかし毎回そんなことしていたら、俺の方もあっという間に体力切れになってしまう。

 

 やはりクリアスの魔法の威力で倒すという形は、俺たちにとって必要なものだ。

 クリアスが魔法で上手く狙えないというのならしょうがない。

 

 出来ないものを今すぐにできるようになれと言うつもりはなく、今あるものでどうにかするのが優先事項になる。

 俺はネズミの爪をかわすと、ナイフを逆手に持ってネズミの足に突き立てた。

 

「‘クリアス、今だ!’」

 

「今ですね! ファイヤーランス!」

 

 ナイフはネズミの足を貫通して地面に突き刺さる。

 俺が今だと吠えると、チャンスを狙っていたクリアスも意図を察する。

 

 ネズミは大きく口を開いて、俺に噛みつこうとした。

 しかしクリアスが放ったファイヤーランスの方が速い。

 

 大きく開いた口に炎の槍が突き刺さって、ネズミはそのまま後ろにぶっ飛んでいく。

 

「コボルトさん、大丈夫ですか?」

 

「‘なんとかな……’」

 

 クリアスが心配そうな顔をして駆け寄ってくる。

 幸いなことに無傷だった。

 

 しかし余裕の勝利というわけではない。

 

「どうですか?」

 

「‘そんな質問されても俺の意見なんか聞こえないだろう’」

 

「……なんて言ってるか分からないです。何か答えてる風ではあるんですけどね」

 

 伝わらないとは分かっていても、クリアスの問いかけには一応返事をしている。

 クリアスも返事をしているっぽいとは感じていた。

 

 戦った感じどうなのか。

 俺にそう問いかけている。

 

 だが返事をしたところで伝わらない。

 こうした時には大げさにリアクションして伝えるしかないのが辛いところである。

 

 俺は出来るだけ困ったような顔をしてみる。

 決して楽な戦いではありませんでした、と伝われと願う。

 

「厳しい……ですか?」

 

 クリアスも眉間にシワを寄せて俺の顔を見つめる。

 意図を伝えようとしていることは分かっているので、クリアスの方も汲み取ろうとしてくれているのだ。

 

 ひとまず楽じゃないことは伝わった。

 

「私のせいでもありますよね……魔法がもっと当てられたら……」

 

 動かないで的ならばいくらでも当てられる。

 ただ実戦で相手が動かず魔法が飛んでくるのを待ってくれたりはしない。

 

 クリアスはちょっと落ち込む。

 一階でも動く相手には苦戦していた。

 

 ここら辺は魔法を使って相手を狙う経験も必要になる。

 

「もう少しだけ……頑張ってみましょうか。やらなきゃ慣れないですしね」

 

 できないからと逃げてはいつまでもやれるようにはならない。

 魔法で動く相手を狙うのに慣れるためにもクリアスはもう少し進みたいと言う。

 

 立派な心がけである。

 俺としても、もう少しやり方があるかもしれないと思うし、チャレンジするクリアスの心意気はいいものだと頷いて肯定の返事を示す。

 

「おっ、君たちはまだ初心者っぽいね」

 

 進んでいくと別の冒険者に出会った。

 デカいカニのような魔物とデカいキノコのような魔物を連れていた。

 

 口髭を蓄えたベテランのような雰囲気がある。

 俺が警戒するようにクリアスを守るのを見て、優しい目をして微笑みを浮かべる。

 

「コボルト……だけど主人を守ろうとするいい魔獣だね。老婆心で一つアドバイスだ。今日はあまり深入りしないほうがいいかもしれない」

 

 俺の態度を不快に思うこともなく、中年冒険者はアドバイスをしてくれた。

 

「今日は何かあるんですか?」

 

「ダンジョンがざわついてる。魔物の数が少ないんだ」

 

「魔物が少ない……? 逆にいいんじゃないですか?」

 

 魔物が少ないなら、むしろ警戒しなくともいいのではないかとクリアスは首を傾げる。

 

「普段ならそうだが今日は少なすぎる。こうした時には反動があるもんなんだ」

 

「反動……ですか」

 

「倒されて減った分の魔物をダンジョンが補充しようとする。新しく生み出された魔物は……普通とは違う異常行動を取ることがあるんだ。今日起こるとは限らないが、俺は今日は帰ってダンジョンが落ち着くまで待つつもりだ」

 

「そうなんですか。情報ありがとうございます」

 

 クリアスは冒険者のアドバイスを素直に受け取って、素直に頭を下げる。

 

「そう簡単には人も信じない方がいいぞ。まあ、おせっかいだと思ってくれ」

 

 中年の冒険者は俺たちとすれ違って去っていく。

 時にこうしたアドバイスは嘘という可能性もある。

 

 騙して襲いかかってきたり、何かの悪意を持って誘導することもあるのだ。

 ただ今回に関しては純粋に善意のアドバイスに見えた。

 

「……うーん」

 

 クリアスは悩みに悩んでいる。

 まだ二階には降りてきたばかりだ。

 

 もう少し戦って慣れておきたいと思っていたところで、まだ引くには早すぎると思うのも当然である。

 俺としても非常に悩ましいところ。

 

 安全を取るならここで引き返して帰るべきだ。

 だがカリンの容態を考えるとのんびりとしていられない。

 

 どの道判断はクリアスに任せるしかない。

 何を選ぼうと尊重はする。

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