魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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「もう少しだけ……やってみましょう!」

 

 悩んだ末にクリアスが出した答えは、もうちょっとやってみるだった。

 中年冒険者の口ぶりでは今すぐに異常が起こるわけでもなさそう。

 

 リスクはあるが、早く慣れておきたいという思いもあるのだろう。

 

「‘それじゃあやるか……’」

 

 クリアスがやるというのなら最後まで付き合う。

 

「‘何だこれ? チーズ……?’」

 

 倒されたネズミは、もう死体がなくなって素材になっていた。

 落ちているものを見て、俺は首を傾げてしまう。

 

 ネズミからドロップしたものは二つ。

 一つはネズミのヒゲだ。

 

 何に使うのかは知らないが、使い道はあるのだろう。

 もう一つはチーズだった。

 

「‘何でこんなものが?’」

 

 三角形に切られた、穴あきタイプの黄色いチーズが地面に落ちていたのだ。

 拾い上げて匂いを確認してみるけれど、確かにチーズの匂いがする。

 

 普通に美味しそう。

 

「あっ、これもレアドロップですよ」

 

「‘これが?’」

 

「ラットチーズ……町では普通に売っていたりしますよ。ダンジョンのネズミが落とす特殊なドロップです。何でチーズが落ちるのかは……私も分からないです」

 

 クリアスは肩をすくめる。

 どうやらチーズはネズミのレアドロップに当たるらしい。

 

 ただ何でチーズが落ちるのかは、謎なのだ。

 そもそも亡霊樹でも瓶入りの樹液がドロップした。

 

 何で瓶ごとという不思議さをその時はスルーしてしまった。

 クリアスも特に疑問を呈したりしなかったから、多少の不思議さは許容されるのかもしれない。

 

「ふふ、これもちゃんとした値段で売れるので意外といいんですよ」

 

 クリアスはチーズもドロップ品を入れておく袋に放り込む。

 

「この調子でいきましょう!」

 

 帰り道も気にしつつ、ダンジョンをもう少し進んでいく。

 魔物が少ないと言っていたが、確かにその通りらしくネズミ一体ずつとしか遭遇しない。

 

 一体だけなら俺が引き付けて足止めし、クリアスが魔法で攻撃することもそう難しくなかった。

 試しにと何回か動くネズミを狙ってみたものの、なかなか上手くいかなかった。

 

 魔法の速度を考えるに相手の動きを先読みするように撃てば当てられると思うのだけど、これもまた慣れが必要なので気長にやっていくしかない。

 クリアスも努力をしていることだし、俺にできるのは焦らせないようにネズミを引きつけるだけだ。

 

「やっぱり一体ずつしか出てこないですね。ありがたいんですけど……他の魔物とか、二体でも対応できるかとかみたいんですけどね……」

 

 一体ずつは安全に倒せて良い練習になるが、違う相手や違う状況でも戦えるかも確かめたくはある。

 

「‘またチーズだ……’」

 

 レアドロップと聞いているのに、チーズがよく落ちる。

 お金としては良いのかもしれないけれど、なんだか上手くいきすぎてる感がある。

 

「‘そろそろ引いた方がいいかもしれないな’」

 

 ヒゲがひくつく。

 これがなんによるものなのか。

 

 嫌な予感がするせいかもしれない。

 

「うわああああっ!」

 

「な、なに!?」

 

「‘人の悲鳴……?’」

 

 どうやって帰ろうという意思を伝えようかと悩んでいたらダンジョンに悲鳴が響き渡った。

 冗談などではない、背中が寒くなるような本気の悲鳴だ。

 

「コボルトさん、行ってみましょう!」

 

「‘おせっかいだな……まあ、状況把握は必要か’」

 

 あまりいい状況には思えない。

 ほっといて逃げるという選択もあるが、見に行ってみることにした。

 

 危険を避けることも必要だけど、何が起きているのか知ることも同じく大事ではある。

 悲鳴が聞こえた方に走っていく。

 

「‘この臭いは……’」

 

 俺は鼻につく臭いに顔をしかめた。

 鉄臭い。

 

 この臭いがなんなのかすぐに分かった。

 

「‘血の臭い……’」

 

 ちょうど悲鳴が聞こえた方向から漂ってくるのは血の臭いだ。

 嫌な臭い。

 

 だけど、コボルトの頭の芯を殴りつけるような刺激的な臭いでもある。

 

「あ、あれは……」

 

 悲鳴の先は小部屋だった。

 廊下となっているところよりも二回りほど広い空間になっていて、そこには大量のネズミがいた。

 

 ネズミはなぜか部屋の真ん中に集まっている。

 何をしているのか知らないが、なんだかとても生々しい音が響いている。

 

 ネズミとネズミの間から何かの肉の塊のようなものが見えて、地面には血がジワリと広がっていた。

 

「ヒッ……」

 

「‘……クリアス、逃げるぞ!’」

 

 一歩後ずさったクリアスの背中が壁にぶつかって、ガサリと音を立てる。

 ネズミが一斉にこちらを向く。

 

 その口周りは血で汚れ、目には狂気が宿っていた。

 危険だと本能が叫ぶ。

 

 俺はクリアスの服を引っ張って逃げ出した。

 

「‘もう始まったのか……!’」

 

 中年の冒険者が言っていた異常事態が起きているのだと察した。

 ネズミはけたたましい鳴き声を上げながら俺たちのことを追いかけ始めた。

 

 強い命の危険を感じる。

 ネズミの足音が一つに合わさり、地響きのように迫ってくる。

 

「‘チッ! この!’」

 

 俺たちよりもネズミの方が速い。

 すぐに追いついて、飛びかかってきたネズミの鼻先をナイフで斬りつける。

 

 一、二体ならともかく、多くのネズミに一気に襲われたら対応できない。

 

「‘走れクリアス!’」

 

 今はもうともかく逃げるしかない。

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