魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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26弱肉強食の世界1

「それでは魔物を従えましょう!」

 

 ウジウジ悩んだり、泣きそうになったりとしていたクリアスも時間が経って落ち着いてきた。

 俺の方も怪我の影響か体が熱を持って、気だるいような状態が続いていたが、ようやく復活してきた。

 

 合成のためにもまず、他の魔物を捕まえて従える必要がある。

 大丈夫なのか心配だったが、クリアスもやる気を出してくれてよかった。

 

 腕の傷は生々しく残ってしまった。

 クリアスが傷の跡を見ると悲しそうな顔をするので、肩に布を巻いて見えないようにしておいた。

 

 ともかくどうやって他の魔物を従えるのか知らないが、まず他の魔物を見つけないことにはどうしようもない。

 そのために俺とクリアスは、俺と最初に出会った森に来ていた。

 

 どうやら俺がいた森は比較的弱い魔物が多い場所らしい。

 

「コボルトさんとも契約しましたが、あれは……割と特殊な感じです」

 

「‘そうなのか’」

 

 例によって、クリアスが魔獣を従えることについて説明してくれる。

 太い木々がまばらに生えた森は静けさに包まれていて、俺とクリアスは並んで歩く。

 

 風が吹くと葉が揺れる音が鳴るだけで、今のところ魔物には遭遇していない。

 

「本来の契約は……結構強制的なものなのです。契約魔法によって無理矢理相手を従わせてしまうんです」

 

 クリアスと出会った時には雨上がりでジメジメとしていたが、今の森は数日雨が降っていなくてちょっと湿っている程度の空気感だ。

 

「契約魔法を使う人の技術や魔力、あるいは相手の魔物の相性や知能、そして体力なんかによって成功するかどうか、変わってくるんです」

 

「‘へぇ’」

 

「コボルトさんは……無理矢理にすることもなく受け入れてくれたので……特別ですよ」

 

 クリアスはちょっと照れくさそうに笑う。

 本来の魔獣契約とは魔法で強制的に従わせるものなのだ。

 

 魔物の抵抗する体力なんかも魔法の成功に関わってくるので、普通は魔物を攻撃して弱らせてから従わせようと試す。

 俺は戦うまでもなく対話で契約したなんて、かなり特殊な例だった。

 

「合成もわからないことは多いんですけど、片方が極端に弱いと弱い魔物にもなってしまうことがあるようなので、力としては同じかちょっと強い、あるいはそれぞれに尖った能力があるといい……らしいですね」

 

 森の中を魔物を探す。

 合成についても軽く触れてくれる。

 

 合成のルールは分かっていないことも多いらしい。

 基本的には難しいことはない。

 

 魔物同士を掛け合わせると別の魔物になる。

 多くの場合では、新しく生み出された魔物はベースとなった魔物よりも強い。

 

 俺が垂れ下がった枝を持ち上げて支えると、クリアスは屈んで枝の下をくぐる。

 

「コボルトさんが強くなるにはもっと強い魔物を捕まえるのがいいんですけど……あまり無理はできませんからね」

 

 強い魔物に合成したいなら強い魔物と合成する必要がある。

 ただちゃんと自分たちで契約できる魔物じゃなきゃいけないので、そこら辺のバランスを考える必要もあるのだ。

 

「‘倒しちゃいけない……ってのも一つ面倒だな’」

 

 俺はクリアスにバレないようにため息をつく。

 弱らせる必要はあるが、倒して死んでしまっては従わせられない。

 

 つまり今の俺とクリアスからしてちょっと強めの相手を殺さないように弱らせなきゃいけない、という話なのだった。

 言葉で言うのは簡単だけど、やろうと思うと面倒だなと感じた。

 

 だが同時に納得した。

 散々ウルフに追いかけ回されたのも、俺のことを従わせるために弱らせようとしていたものだったのだと腑に落ちた。

 

 あそこで諦めていたら無理矢理従わされて、合成の素材にされていたことだろう。

 かなり危ないところだった。

 

「この辺りにいるのはコボルトさん……コボルトもいますしゴブリンやちょっと強めならウルフとか意外と種類は色々ですね」

 

 ダンジョン以外に住んでいる魔物も多い。

 魔物の分布として町に近いようなところほど魔物は弱く、人里から離れると魔物が強いような感じだ。

 

 ダンジョン周りは少し生態系が違ったり、環境などによって色々なので一概に決めつけられるものではない。

 ただクリアスが住む町周辺は、比較的魔物が弱い地域なのだった。

 

「あとは……スキルの継承? 合成前に持っていた魔物のスキルが合成した後にも受け継がれることもある……らしいです。酔ったお客さんの話なので本当かどうか知らないんですけどね」

 

 クリアスは苦笑いを浮かべる。

 

「‘スキルか……俺はそんなもの持ってないしな’」

 

 コボルトが何かの技を行使しているところなんて見たことなく、俺自身も何かできるような気はしない。

 

「‘でも他の魔物の能力を受け継いで使えるなら意外と便利かもな’」

 

 合成に対して少しは希望っぽいものが持てる。

 単に強くなるだけでなく、合成前の魔物の力を受け継げるなんて多少夢のある話だ。

 

「どんな魔物がいいでしょうか? まあ、あまりこの辺りには特殊な能力を持ってるような魔物はいませんけど……」

 

 どうせなら能力は欲しいが、特殊な能力を持つ魔物は強い魔物なことも少なくない。

 弱い魔物だと大体の特殊能力なんてないのだ。

 

 それこそコボルトのように。

 俺にできることといえば、少しの段差でクリアスに手を差し出してやることぐらいのもの。

 

 クリアスは嬉しそうに手を取って段差を降りている。

 

「あっ、コボルトですよ、コボルトさん!」

 

 遠くに野生のコボルトを見つけた。

 コボルトの方もこちらに気づいたらしく、ジッと俺のことを見ている。

 

「‘何を思ってるんだろうな……’」

 

 俺はコボルトを見ても特に何も思わない。

 同族とか仲間という意識もない。

 

 むしろ群れから追い出されたから、コボルトのことが嫌いという感情までもある。

 薄汚れた犬頭だなと思うのは、もしかしたらほんの少しの同族嫌悪なのかもしれない。

 

 いや、そう考えたら何も思わないのではなく、何も思わないようにしているだけなのかもしれない。

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