魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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28弱肉強食の世界3

「ああっ!」

 

 ゴブリンが手に持っていた粗末な棍棒を投げつける。

 ただひたすらに前だけ見ていた子供のホーンフォックスに当たりそうになって、親のホーンフォックスが自らの体でかばう。

 

 攻撃力や素早さとしては優れているホーンフォックスだが、防御力としては弱い。

 ゴブリンの棍棒でも当たれば痛い。

 

 親を心配して子供が立ち止まるが、親は怖い顔をして吠える。

 言葉は理解できなくとも走れと言っているのが分かるようだった。

 

 クリアスも思わず声を漏らしていて、どちらに感情移入しかけているのか手に取るように分かった。

 

「‘さて……’」

 

 ゴブリンがホーンフォックスに追いついた。

 棍棒を振り下ろして親のホーンフォックスを狙うが、ホーンフォックスだってやられるだけではない。

 

 棍棒をかわして、頭のツノでゴブリンの胸を一突きにする。

 仲間がやられてもゴブリンたちは怯まない。

 

 倒せそうな獲物を前にして興奮している。

 そもそも群れてはいるが、仲間意識なんてものもないに等しい。

 

 仲間が倒されようと、その死を悼んで悲しむようなこともないのだ。

 

「‘クリアス、どうする?’」

 

 俺はクリアスの服の裾を引く。

 これはチャンスかもしれない。

 

 ゴブリンはともかく、ホーンフォックスはコボルトよりも上の魔物だと見ていい。

 格上の魔物が弱った状態で目の前にいる。

 

 追いかけている相手もゴブリンなら追い払える。

 共に戦う仲間であるなら弱っているという状態はネックになるが、合成の素材とするなら弱っていてもいいだろう。

 

「……あのホーンフォックスを狙うつもりなんですね?」

 

 俺の問いかけるような視線に、クリアスはその意図を考えた。

 そしてホーンフォックスのことを見て、俺の視線の意図を汲み取った。

 

 俺が頷くとクリアスの瞳が迷いに揺れる。

 子供を守る母親。

 

 俺たちは今、弱りに弱ったところに手を出そうとしている。

 クリアスが迷いに揺れるのも、心情としては理解ができる。

 

 子供が可哀想だったり、卑怯だったりとためらうような理由がある。

 だが時には冷徹さも必要だ。

 

「…………あ」

 

 気づけば親のホーンフォックスは袋叩きにされていた。

 焦げたように倒れているゴブリンがいるので、抵抗はしていたのだろうが、後ろにいる子供たちを守るためにただ攻撃に耐えている。

 

「‘このままだと、ただゴブリンの餌になるだけだ’」

 

 俺とクリアスが手を出さずともホーンフォックスは助からないだろう。

 むしろゴブリンなんていう下層の魔物にやられてしまうことになる。

 

 だが今手を出せばもしかしたら、救うことができる命もあるかもしれない。

 

「どうしたらいいのか分かりません。でも……あのホーンフォックスを助けたいです!」

 

 クリアスは一度目を閉じて、長く息を吐き出した。

 悩んだ末にクリアスは俺に視線を向ける。

 

 その目にまだ迷いはある。

 だけど、何がしたいのかは決まったようだ。

 

 もしかしたら、何かを守る姿がカリンを守る自分や自分を守ろうとした親と重なったのかもしれない。

 

「‘まあ、その判断は嫌いじゃないぜ’」

 

 甘い判断だ。

 目の前で繰り広げられる冷酷な弱肉強食の戦いに、ただホーンフォックスを助けようと介入するなんて普通はあり得ない。

 

 でもクリアスだからいいのだ。

 そして俺もそんなクリアスの判断に従おう。

 

 ともかくホーンフォックスを助けてもいいだろう。

 ゴブリンにいいように殴られて、ホーンフォックスはボロボロになっている。

 

 赤褐色の毛色が鈍い赤色に染まり、それでも子のためにホーンフォックスは倒れることはない。

 

「魔法で一気に攻撃します。コボルトさん、あとはお願いします」

 

「‘任せておけ’」

 

 クリアスが杖を握りしめて意識を集中させる。

 魔力によって魔法陣が描かれていく。

 

「いつでも行けます!」

 

 描かれた魔法陣が赤く光り出す。

 もういつでも魔法を放つことができるという予兆だ。

 

「‘俺も行くか’」

 

 木の影から飛び出す。

 クリアスの魔法の動線に重ならないようにやや膨らむ形でホーンフォックスたちの方に走る。

 

 都合よくゴブリンたちは俺とクリアスに背を向けるような位置関係になっている。

 ホーンフォックスを痛めつけることに夢中になって、後ろの警戒もしていない。

 

 賢いといっても所詮は下層の魔物の中でという話に過ぎないのだ。

 

「ファイヤーボール!」

 

 クリアスが魔法を放つ。

 魔法陣から人の頭ほどの大きさの火の玉が複数放たれる。

 

 俺の横を赤く燃える火球が通り過ぎていく。

 一瞬でも熱を感じさせるファイヤーボールは、狙い澄ましたかのようにゴブリンの背中に当たって爆ぜる。

 

 あたりどころが悪かったゴブリン数匹倒れる。

 ゴブリンの肉が焼ける臭いが漂ってくる。

 

 あまり気分のいい臭いではない。

 

「‘お前らには興味ないんだ!’」

 

 俺はファイヤーボールが当たらず無事だったゴブリンを狙ってナイフを振る。

 ためらいなく真横に振られたナイフは、ゴブリンの首に吸い込まれる。

 

 ゴブリンは攻撃力も低ければ、体も柔らかくて防御も低い。

 ナイフは容易くゴブリンの喉に突き刺さり、肉の感触がナイフを伝って手に返ってくる。

 

 急な襲撃に動揺しているゴブリンの動き出しは鈍い。

 動揺している間にできるだけ倒してしまおうと、俺は次のゴブリンにナイフで襲いかかる。

 

 流石にゴブリンのくすんだ緑色の肌に牙を突き立てる気分にはならない。

 

「ファイヤーアロー!」

 

 ゴブリンの動揺の間にクリアスも次の魔法を備えていた。

 炎の槍がゴブリンの頭を吹き飛ばして、俺たちは優位に戦いを進める。

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