魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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33初めての合成3

「‘まだ何があるんだ?’」

 

 ホーンフォックスは倒した。

 てっきりこれで終わりだと思っていたのに、ホーンフォックスの光の半分は俺の周りをクルクルと回っている。

 

「‘うっ!’」

 

 急に胸が苦しくなった。

 胸の中から光の粒子が突然飛び出して、俺は胸を押さえる。

 

「‘な、なんだ……?’」

 

 俺から飛び出した光はホーンフォックスの光と同じく俺の周りを漂う。

 ゆっくりと漂っていた光の速度が少しずつ速くなっていき、もはやどの光が俺のもので、どの光がホーンフォックスのものか分からない。

 

「‘光が一つに合わさっていく……’」

 

 俺の光とホーンフォックスの光が集まって一つになっていく。

 

「‘何がしたいんだよ?’」

 

 大きな一つの光になって、今度は三つに分かれ、何かの形になっていく。

 

「‘…………何かの形を作ってる? コボルト……ワーウルフ? それにウルフ……となんだあれ?’」

 

 光の一つは二足歩行の魔物っぽい形になった。

 もう一つは四足歩行のウルフっぽい。

 

 最後の一つはなんだか丸くて何の魔物か俺には判別できない。

 ただどの光にしても輪郭はぼんやりとしていて、明確にこれだろうと言い切ることはできない。

 

「‘俺に何をさせたい? 選べとでも?’」

 

 光の魔物は俺のことをじっと見つめている。

 何がしたいのか、一切の説明もない。

 

 この中から好きなものでも選べというのかと俺は一応解釈してみた。

 

「この中なら……」

 

 まず丸い何か魔物はない。

 なんだか分からないし、見た目的には可愛いっぽそうだが今のところ選ぶような判断材料がない。

 

 となると二足歩行の魔物か、四足歩行の魔物となる。

 

「‘やっぱり二足歩行だよな’」

 

 こんなの選ぶまでもない。

 四足歩行の魔物なんて魔物すぎる。

 

 コボルトは弱いけれど手があって、細かな作業もできたりするしその点で人っぽい。

 選ぶなら人に近い二足歩行型の魔物だろう。

 

「‘えっ……あっ?’」

 

 選んだけれど、どうしたらいいのか。

 触れればいいのかと近づこうとしたら瞬間、二足歩行の魔物と丸い魔物の光が激しくブルブルと震え出した。

 

「‘あっ、おい!’」

 

 二足歩行の魔物と丸い魔物の光がバラバラに散らばって消えてしまう。

 残されたのは四足歩行の魔物。

 

 俺は突然の出来事に手を伸ばした体勢のまま、呆気に取られてしまった。

 

「‘……ええっ?’」

 

 残された四足歩行の魔物が光の塊に戻る。

 

「‘ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はお前じゃなくて、二足歩行の魔物の方が……’」

 

 一度フワッと高く浮き上がった光は、焦る俺の胸に飛び込んできた。

 光が胸に吸い込まれていき、俺は勢いよくぶっ飛ぶ。

 

 四足歩行は嫌だ!

 そんな叫びは言葉として発することもできず、俺の意識は白く塗りつぶされてしまったのだった。

 

 ーーーーー

 

「コボルトさん……」

 

 不思議な夢から覚めたような、ぼんやりとした感覚の中で俺はゆっくりと目を開けた。

 

「‘ん……んん……’」

 

 頭は重たいような感じがする。

 けれども気分は悪くない。

 

 目を開けたけれど視界がぼやけて、よく周りが見えない。

 魔法陣の光はもう収まっている。

 

 何度か瞬きしているとようやく視界がクリアになってきた。

 合成室にいることはすぐに分かった。

 

 足元には大きな魔法陣。

 小さな魔法陣の方にいたはずだけど、今の俺は大きな魔法陣の真ん中にいた。

 

 顔を上げるとそこにはクリアスの姿があった。

 複雑そうな表情をしていて、俺のことを見つめている。

 

 それだけで一つ、俺はコボルトではないのだなと察した。

 それどころか嫌な予感がする。

 

 自分の体のことは自分が一番よく分かっている。

 今自分がどんな体勢なのかも分かっている。

 

「‘四足歩行……’」

 

 今の俺は四足で地面に立っている。

 見たくないけど、俺は恐る恐る視線を再び下に戻す。

 

 すると魔法陣を踏み締める足が見えた。

 一瞬頭が理解を拒んだ。

 

 尻尾がしゅんと下がる感覚がお尻の方から伝わってきた。

 

「‘うぅ……嘘だーーーー!’」

 

 俺は吠えた。

 実際には嘆きの叫びだったのだけど、ただの遠吠えにも聞こえる俺の咆哮の意味を理解してくれる存在はいない。

 

 コボルトの手はまだ人っぽかった。

 なのに見えた俺の手は明らかにそれよりも獣のそれであった。

 

 人になりたくて合成を受け入れたのに、フォルムが人から離れてしまっている。

 泣き出したいほどのショックを受けて、俺は魔法陣の上に転がった。

 

「‘なんてことだ……嘘だと言ってくれ……’」

 

 しかも手、いや前足は割とモフモフしている。

 俺はふと白い世界での出来事を思い出す。

 

「‘やっぱりあれは合成先の選択だったのか? あれか? 悩みすぎて時間切れだったのか?’」

 

 仮に白い世界での三つの光が選択肢だったのだとしたら後悔してもしきれない。

 

「コボ……えと、ウルフ……さん? でもツノ生えてるし……」

 

 俺がパタリと倒れたものだから、クリアスが心配そうに近づいてきた。

 クリアスの言葉から察するに俺はウルフっぽい魔物になったようだ。

 

 そして俺は今、クリアスのことが分かっている。

 

「‘見た目はともかく……俺は…………俺のままのようだな’」

 

 見た目のショックが大きすぎて忘れていたが、むしろ見た目にショックを受けるということは俺の心は俺のままなのだと言えるということだ。

 合成されても俺は、俺でいられた。

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