魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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39新たな体で金稼ぎ2

「‘さてと……’」

 

 俺とクリアスはダンジョンの中を進み始める。

 ダンジョンの中に俺の爪が地面に擦れる音とクリアスの足音が静かに響く。

 

「あっ、出ましたね」

 

 一階で現れる魔物といえば亡霊樹である。

 のそのそと根っこで歩くようにして角を曲がってきた。

 

「‘クリアス、ここは俺にやらせてくれ’」

 

 亡霊樹はあまり敵ではなかった。

 ただし、それはクリアスと一緒に戦っていたからだ。

 

 俺だけではちょっと厳しい相手であった。

 負けはしなかっただろう。

 

 けれどもコボルトの体にナイフでは、木の性質を持つ亡霊樹にダメージを与えられなかった。

 一階だし楽勝な相手という認識だが、実際にはそうでもなかったのだ。

 

 ウルフとなった俺の攻撃力をまずは試してみよう。

 

「……頑張ってくださいね」

 

 力強く前に出た俺の背中を見てクリアスは意図を察する。

 危なくなれば魔法を使えばいい。

 

「‘いくぞ! んなもん食らうかよ!’」

 

 亡霊樹に向かって駆け出す。

 体は軽く、瞬く間に亡霊樹との距離が近くなる。

 

 振り下ろされる亡霊樹の枝を横に飛んでかわす。

 ここまではコボルトの体でもそんなに変わらない。

 

 四足歩行で動くという慣れなさはあるが、亡霊樹の攻撃ぐらいなら違和感を調整するのにもちょうどいいぐらいだ。

 

「‘爪ぇ!’」

 

 前足を振り上げ、亡霊樹の幹を爪で斬りつける。

 亡霊樹の幹に深々と四本の傷が刻まれた。

 

 俺の胸が高鳴る。

 ナイフで斬りつけた時よりも傷口は深く、ジワリと亡霊樹の樹液が滲み出てくる。

 

 爪だけでもナイフとコボルトより強い。

 

「‘牙ぁ!’」

 

 俺は横に振られた枝を口で受け止める。

 そのまま顎に力を込めていくと、枝が砕けるバキバキとした音が響く。

 

「‘おりゃあ!’」

 

 伸ばした前足を幹にかけ、枝を一気に引きちぎる。

 

「‘さてと、じゃあ最後は……ツノだ!’」

 

 軽く後ろ下がった俺はぺっと枝を吐き出す。

 四本の足で地面を踏み締め、頭を下げる。

 

 ツノを前に突き出して、走り出す。

 四本の足で地面を蹴ると二本よりも遥かに強い加速を得られる。

 

 ほんの一瞬尻尾がたなびき、俺のツノは亡霊樹の幹に突き刺さった。

 グッと首に力を入れて、さらにツノを深く刺す。

 

 メリメリと音がして、亡霊樹の幹が縦に裂けていく。

 

「‘ふっ……相手にもならないな’」

 

 倒れる亡霊樹が軽い音を立てながら消えて、後には枝が寂しく残された。

 しかし俺は達成感のようなものに満たされていた。

 

 一人で亡霊樹を倒した。

 コボルトの時だったら厳しかった相手をあっさりと倒せてしまったのだ。

 

 強くなってる。

 喜びがジワリと胸に広がる。

 

「コボ……ウルフさん!」

 

「‘うおっ!?’」

 

 クリアスが後ろから抱きついてきた。

 内心ニンマリとしていた俺は油断していて少し驚いてしまう。

 

「すごいじゃないですか!」

 

 クリアスの顔はニコニコだ。

 俺が一人で亡霊樹を倒したことを自分のように喜んでくれている。

 

「‘ああ、少しは強くなれたよ’」

 

 態度はクールぶっているのだけど、尻尾が振られてしまう。

 忌々しいな、この尻尾。

 

 ひとまず爪、牙、ツノ、どれも攻撃力はコボルトの時よりも高い。

 

「‘まだまだ試してないこともあるしな’」

 

 今試したのは俺の体に備わっている武器であり、スキルは使っていない。

 疾走やファイヤーボールというスキルは温存したままだ。

 

 もう少し俺は強い。

 

「この調子なら三階もいけそうですね!」

 

「‘ああ、いけそうだな’」

 

 三階で戦えるかはともかく、二階のネズミも乗り越えられそうな自信がついてきた。

 そのまま俺とクリアスは亡霊樹を倒しながら階段を見つけ、二階に降りた。

 

「‘さて、本番はここからだな’」

 

 二階に降りると、石壁が植物に変わった。

 少し気温が下がったように感じる他はあまり大きな違いはない。

 

「‘だが他にも人がいるようだな’」

 

 強化された俺のミミは音を拾っている。

 戦う音、ネズミの鳴き声、カサカサ動く音なんて色々聞こえている。

 

 リスクを避けてダンジョンに入らない人もいるが、ネズミを倒せばお金がもらえるからネズミ討伐に繰り出している人もいる。

 

「ある程度は倒しながら行きたいですね」

 

 薬を作ってもらうためにもお金は必要だ。

 三階が目的ではあるが、ネズミも倒していきたい。

 

 時々地面に伸びている根っこも意外と厄介だったりする。

 転ばぬように足元にも注意しながら、三階への階段とネズミのことを探す。

 

「‘よう……久々だな’」

 

 ダンジョンを進んでいって、小部屋に突き当たった。

 小部屋の中には三体のネズミがいる。

 

「‘腕持ってかれた恨みは忘れてないぜ! ファイヤーボール!’」

 

 先手必勝。

 ネズミが動き出す前に俺はスキルを一つ使ってみる。

 

 額のツノに魔力が集まり、炎へと変わっていく。

 魔力が燃えて炎に変わっていく初めての感覚に、少しツノがくすぐったいような気もする。

 

 ツノに炎が渦巻き、俺の視界の端にも赤いものが映っている。

 ツノの先端に炎が集まって拳大の丸い塊になる。

 不思議と熱くはない。

 

 ほんのりと暖かいと感じるぐらいだ。

 自分で作り出しているからだろうか。

 

「‘飛んでけ!’」

 

 軽く頭を下げるようにして、ツノの先に浮かび上がる火の玉を撃ち放つ。

 

「いい感じです!」

 

 火の玉が勢いよく飛んでいき、油断しているネズミの背中に直撃した。

 ネズミの背中が燃えだして、うるさい叫び声を上げる。

 

「‘疾走!’」

 

 続いてもう一個のスキルを試してみる。

 スキルを意識してみると四つの足に魔力が集まった。

 

 これ以上の変化はない。

 

「‘……走ってみればいいのか?’」

 

 疾走というからには走る感じのスキルだろう。

 

「‘うわっ!?’」

 

 とりあえず一歩踏み出してみて、すぐに違いを感じた。

 

「‘……疾走、か!’」

 

 一歩が軽く、ぐんと前に進む。

 まるで風にでもなったように、疾い。

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