魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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51生と死1

「すいません! お薬できてますか!」

 

 朝早くクリアスと俺は医者のところを訪れていた。

 理由は薬を取りに来たから。

 

 もっと言えばカリンの様子が明らかにおかしかったからだ。

 数日前のカリンの元気さがウソのように、今は目を覚まさなくなってしまったのだ。

 

 顔は黒いアザに覆われ、クリアスの呼びかけにも反応しない。

 まるで死んだように眠ってしまった。

 

 医者の迷惑になるかもしれないけれど、いてもたってもいられなくて朝早くから医者の元にやってきた。

 ありったけの力でドアを叩き、ありったけの声を出して医者を呼ぶ。

 

 朝早い時間なので周りの建物から人が疎ましそうな顔でこちらを見ているが、クリアスはそんなもの気にしている余裕がない。

 もちろん俺は周りの視線なんて気にしない。

 

「まだ朝ですよ……」

 

 ドアが開いて眠そうに頭をかく医者が出てきた。

 眠そうな割にサングラスは絶対にかけているのはなんなのだろうか。

 

「朝早くに申し訳ありません! 薬が必要なんです!」

 

「……どうも状態が良くないようですね」

 

「‘笑った?’」

 

 今日はやや風がある。

 風上にいれば薬屋の臭いを嗅がなくても済むだろうと思った俺は、医者の顔を斜めから見ていた。

 

 薄いサングラスなので横から見れば表情は分かる。

 細い目がやや弧を描いた。

 

 医者はかなり細目で、俺の身の回りにあそこ目が細い人はいなかった。

 だから判別が難しいところはある。

 

 笑っておらず、別の意味の表情だったのかもしれない。

 あるいは俺が医者のことを怪しいと思っている先入観がそう見せたのかもしれない。

 

 ただ怪しくても俺に医者を問い詰めるような手段はなかった。

 加えて今は薬の方が優先だ。

 

 どんな顔をしようが薬をくれるなら構わない。

 

「薬ですね。できてますよ。ただ瓶に詰め替えるので少々お待ちください。中に入られますか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 どうせ中に入ったところで落ち着かないとクリアスは断った。

 俺としても中に入らなくていいのは助かる。

 

 クリアスはドアの前で落ち着かないようにソワソワとしている。

 モジモジと指先を動かしていて、今にもまた薬屋のドアを叩いて医者を呼んでしまいそう。

 

「お待たせしました」

 

 クリアスが焦燥感に耐えていると医者が出てきた。

 手には小瓶を持っている。

 

 中には黒っぽい液体が入っている。

 あの白い花からなんでこんな黒いものができるのだ?

 

「薬は一気に飲ませてください。味は決して良くないですが……我慢してください。後で私もお宅にお伺いして、経過を見させていただきます」

 

「分かりました! ウルフさん!」

 

 食い気味に医者に返事をして薬を受け取る。

 クリアスは薬を抱えるようにして持ち、俺に駆け寄ってきた。

 

 俺は一度立ち上がると、膝を折って低い体勢を取る。

 クリアスは体をひるがえすようにして俺の背中に飛び乗る。

 

 小瓶の薬はしっかりと密閉されている。

 だからニオイも分からない。

 

 危険なのか、安全なのか。

 すっかり鼻でも物事を考えるようになってしまった俺は、なんのニオイも感じ取れないことに不安を感じていた。

 

「ウルフさん、全速力でお願いします!」

 

 クリアスは片手で薬を握りしめ、もう片方の手で俺の毛を掴む。

 あまり強く掴まれると少し痛いのだけど、今はしょうがない。

 

「‘疾走!’」

 

 数日戦っていないので魔力も体力も満タンだ。

 俺はスキルを発動させようとすると勝手に集まる魔力よりも多くの量を足に集める。

 

「ひゃう……」

 

 あまりの加速にクリアスの悲鳴を置き去りにして、俺は一気に走り出す。

 

「はわわわっ! モフッ!」

 

 顔の肉が飛ばされそうになって、クリアスは俺の首元に顔をうずめる。

 できるだけ背中は揺れないように。

 

 だけど最速で。

 人にぶつからないようにも気をつけながら走って町を走り抜ける。

 

 あっという間に中心部近くから家がある郊外付近まで移動してきた。

 

「‘ふっ……!’」

 

 家が見えて、俺は急ブレーキをかける。

 

「んぎっ……!」

 

 クリアスは足を俺の腰に巻きつけて、毛を掴んで急ブレーキの反動に耐える。

 上手く家の前で止まることができた。

 

 多少疾走のスピード感にも慣れてきたのかもしれない。

 

「‘クリアス、着いたぞ’」

 

「ヒェッ……ホッ……カ、カリン……」

 

 若干瀕死状態になっているクリアスは俺の上から降りてフラフラと家に向かう。

 

「ありがとう……ございます」

 

 俺はクリアスの横について、クリアスは俺の背中に手を乗せた体を支えながら歩く。

 

「カリン……お薬を持ってきましたよ!」

 

 少しずつ状態が戻って、クリアスの足も速くなる。

 家の中は魔物のニオイが濃くなっている。

 

 静かに家に俺とクリアスの足音だけが響く。

 俺しか感じていない不吉なニオイの中を進んでいき、カリンの部屋にたどり着く。

 

「…………カリン?」

 

 完全に皮膚が黒くなったカリンがベッドに横たわっている。

 死んだように眠っていたカリンだが、今は本当に死んでしまっているように見えた。

 

「カリン、お薬だよ! 飲んで!」

 

 クリアスはカリンの体を起こして薬を口に差し出す。

 

「ウソ……ウソウソウソ!」

 

 だがカリンは薬を飲まない。

 薬を飲ませようと口元に手をやって気づいた。

 

 カリンは息をしていない。

 クリアスの薬の小瓶を持つ手が震え出す。

 

 無理に口に薬を入れようとして、口の横から流れる。

 薬を無駄にはできないとクリアスは無理に流し込もうとするのをやめた。

 

「そんな……ウソだよ……ウソ、だよね……」

 

 間に合わなかった。

 クリアスの目にジワリと涙がにじんだ。

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