魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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52生と死2

「‘結局……なんの病気かもよく分からなかったな’」

 

 医者でもないので病気のことなんてよく分からない。

 魔物に噛まれたことによる毒だとか、呪いだとかそんなことをクリアスは言っていた。

 

 クリアスはカリンを抱きしめて泣いている。

 現実を受け入れられないようだ。

 

 俺に対して態度は悪かったが、悪い子じゃなかった。

 少し顔でも見てやろうとベッド横に近づく。

 

「‘せめて綺麗に死ねたらな……’」

 

 顔が黒く染まって死ぬなんて、女の子にしてみたら屈辱だろう。

 

「‘なかなかひどい……ん?’」

 

 最後苦しまなかったのなら、多少は良かったと言えるのかもしれないな。

 そんなことを考えてカリンの顔を見つめていたら、ほんのわずかにまぶたが動いたような気がした。

 

「‘クリアス!’」

 

「ひゃっ! な、なんですか!?」

 

 急に大きく吠えた俺に、クリアスは驚いて小さく飛び上がる。

 

「‘悪いな!’」

 

「なななななにするんですか!」

 

 俺はクリアスとカリンの間に鼻を突っ込む。

 ちょうど二人の胸の中に頭を入れる形となるが、決してすけべな気持ちではない。

 

 クリアスが頬を赤くして俺から離れ、俺はそのままカリンの胸にミミを押し付ける。

 風が止み、クリアスは俺が何かをしているのを察して感情を押し殺すように黙った。

 

 部屋の中に静けさが漂い、音がなくなった。

 

「‘かなり弱い……だけどまだ生きてる!’」

 

 ゆっくり、そして弱い。

 だが確かにカリンの心臓はまだ鼓動している。

 

「‘クリアス、早く薬を!’」

 

「えっ、えっ?」

 

 俺はクリアスの薬を持つ手を咥えて、カリンの口元に持っていく。

 飲まないのなら飲ませる。

 

 俺は肉球でカリンの額を抑え、そして次にアゴにも前足を置いて下に引く。

 カリンの口が開く。

 

 この際やり方なんて考えている暇はない。

 

「飲ませろ……っていうんですか?」

 

「‘早くしろ!’」

 

 俺のミミにも微かに聞こえるほどに鼓動は弱かった。

 もはや薬が効果を発揮してくれるのかも分からない。

 

 だが、希望があるなら試さない道はない。

 

「……カリン、飲んでください!」

 

 俺は少し額を押さえる前足に力を入れて、頭をやや後ろに倒す。

 クリアスがカリンの口の中に慎重に薬を流し込んでいく。

 

「‘うっ……’」

 

 ツンとするニオイ。

 良薬とは苦いものだというが、ニオイも正直かなりキツい。

 

 それでも俺はカリンを押さえて、クリアスは薬を飲ませた。

 小瓶が空になって、俺は口を閉じさせてカリンの頭の下に鼻を差し込む。

 

 軽く頭を持ち上げて薬を喉の奥に流し込むのだ。

 

「‘どうだ……?’」

 

 おそらく薬は飲み込んだ。

 俺とクリアスは固唾を飲んでカリンの様子を見守る。

 

 間に合ったのか、間に合わないのか。

 薬に本当に効果があったのか、あるいは効かなかったのか。

 

 何も分からず、ただ見ていることしかできない。

 

「‘やっぱり…………ダメだったか?’」

 

 カリンに変化は見られない。

 もう遅かったのか。

 

 そんな風に思った時だった。

 

「ハァッ!」

 

「カ、カリン!」

 

 突如としてカリンが目を見開いた。

 グッと胸を持ち上げ、激しく呼吸する。

 

 さらに変化が訪れる。

 

「へ……えっ!?」

 

 カリンの皮膚の黒みが薄れ、口から黒いモヤのようなものが吐き出された。

 

「‘ファイヤーボール!’」

 

 黒いモヤに嫌なものを感じた。

 強い魔物の臭さが部屋に広がる。

 

 俺はツノに魔力を集めて火球を作り出し、撃ち出した。

 火球は閉じていた窓を破壊して飛び出し、黒いモヤも空気の流れに押されて窓の外に流れていく。

 

「く、薬が効いてる……ということ、なんですか?」

 

 カリンの口から黒いモヤが抜けていき、じわじわとカリンの黒みが薄くなる。

 どうしたらいいのかも分からない俺とクリアスはその様子をただただ見ていることしかできない。

 

「あ、あれ?」

 

 黒いモヤが収まった。

 しかしカリンの皮膚はまだ黒みが残っている。

 

 日焼けしたような褐色っぽい肌色になっている。

 

「‘……お姉、ちゃん?’」

 

 カリンが体を起こした。

 

「カリン!」

 

 クリアスが涙を浮かべてカリンに抱きつく。

 しかしクリアスは異常事態に気付いていない。

 

 かりんが発した言葉、それは『あー』と聞こえた。

 だが俺には、あーと言いながらもお姉ちゃんと言ったように理解できた。

 

 理解、できてしまった。

 胸にザラついたような感情が湧き起こる。

 

 見てはいけないものを見てしまった時のような、胸の痛さがある。

 

「‘どうしたの?’」

 

「どうしてそんな……喉でも痛い?」

 

「‘痛くないよ。むしろすごく気分がいい’」

 

「……カリン…………」

 

 異変に気づいたのか、クリアスの顔が曇った。

 会話は成り立っているようで、成り立っていない。

 

「‘そんな顔してどうしたの?’」

 

「ただ……ちょっと…………調子悪いだけだよね?」

 

 俺は今魔物だ。

 魔物が魔物の言葉を分かるかどうかは知らないが、ホーンフォックスは俺の言葉を分かっているようだった。

 

 意思の疎通を図ろうと思えば、魔物同士でも言葉を通じさせることができるのかもしれない。

 俺のミミにもクリアスのミミにも、カリンは『あーあー』とうめくような声を出しているだけのように聞こえた。

 

 だが俺の頭の中ではカリンの言葉の意味が理解できている。

 クリアスも頭の悪い子ではない。

 

 逆に頭がいい。

 今のカリンの状態を見て、考えたくない可能性を頭の中に思い浮かべているのだろう。

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