魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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54わずかな希望1

「こんなところに軟禁するような形になっちゃってごめんなさいね」

 

 俺とクリアスは冒険者ギルドにいた。

 嗚咽しながらも何が起きたのかジェレインに説明し終えると、冒険者ギルドの調査官はカリンの状態を確認した。

 

 よほどあの医者は警戒されているらしい。

 俺たちはカリンも含めて冒険者ギルドに連れていかれた。

 

 ジェレインのおかげで拘束されることは免れたものの、部屋から出られない監禁されるような状況に置かれていたのである。

 しばらく音沙汰もなく、クリアスは泣き腫らした目でじっと俯いて悲しげにしていた。

 

 俺はなんとか慰めたくて、クリアスの手に鼻先を少し擦り付けてみたりしたが、慰めになったかは分からない。

 そろそろ状況でも知りたいと思っていたら、ジェレインが部屋に入ってきた。

 

「あっ……」

 

 クリアスは顔を上げる。

 悲しげな目には希望の光がわずかに見られる程度だった。

 

「どう? 疲れてないかしら?」

 

「……大丈夫、です」

 

 明らかに憔悴しきっているクリアスだが、ジェレインの言葉に首を振る。

 

「妹は……カリンは、どうですか……」

 

 すがるような声色。

 クリアスはジェレインの返事が怖いのか、視線を逸らしてしまった。

 

「……最悪よ。今すぐにでも指名手配犯のキツソウをぶっ殺しに行ってやりたいほどにね」

 

「あの子は……まさか……」

 

 ジェレインは顔に怒りを滲ませ、クリアスは声を震わせる。

 ギュッと拳を握るジェレインの怒りは本物だ。

 

「カリンは……魔物になってしまったわ」

 

 衝撃の告白。

 うっすらと感じていた不吉な予感が、ジェレインによって確かなものになってしまった。

 

「アンデッド……ゾンビやリビングデッドと呼ばれる死んでいるけど生きている存在になっているわ」

 

「そんな……どうしてあの子が……」

 

 クリアスの目に涙が溜まり、堪えきれずに流れ出す。

 もう枯れてしまえば楽になるのかもしれないと思うほどに、クリアスは泣き続けている。

 

「毒であり、呪いである特殊なものによってアンデッドにされてしまったのね。あいつの研究について、私はよく知らないからキツソウが犯人なのかは確定できないけれど……ほぼ間違い無いでしょう」

 

 ジェレインはクリアスの様子を見ながら、言葉を選んでいる。

 

「カリンは……どうなるんですか」

 

 もはやクリアスの声は消え入りそうになっていた。

 

「人が魔物にされる。かなり危険な行いよ。本来なら何かの問題になる前に……カリンのことは止めてあげる必要があるのかもしれない」

 

 ジェレインは一瞬言葉を詰まらせた。

 処分とか、そんな言葉を使わないように配慮したのかもしれない。

 

「幸い今もおとなしくしているわ。契約していないのよね?」

 

「……はい」

 

 俺はカリンがカリンであることを知っている。

 だがそれを伝えようも無い。

 

 カリンは別の場所で拘束されているらしいのだけど、人としての理性で動いているカリンが暴れるはずもない。

 

「もしかしたら……人間としての理性が残っているかもしれない。カリンとしての……人格が」

 

「カリンの……人格が?」

 

 カリンが大人しくしていることから導き出された結論は、見事にカリンの状態を言い当てていた。

 

「今カリンをどうすべきか、冒険者ギルドの中でも意見が割れているの」

 

 ジェレインは小さくため息を漏らす。

 

「危険だという人もいれば、キツソウが何をしようとしたのか突き止めるためにカリンを調べるべきだという意見もある」

 

「……治すことはできないんですか?」

 

「現状では難しいわね」

 

 ジェレインも悲しそうな顔をする。

 

「今のあの子は死んでいるけど生きている。体に宿る呪いがあの子を魔物として生かしているのよ。呪いを解けば人に戻れるかもしれない。でも呪いを解いた瞬間にカリンは死んでしまうでしょう」

 

「…………」

 

 クリアスは言葉もなく頭を抱えてしまった。

 

「でも可能性がないわけじゃない」

 

「本当ですか!」

 

 クリアスの顔は、もはや涙でぐちゃぐちゃになっている。

 

「体に定着してしまった呪いを解くことそのものも簡単なことではない……でも解呪と治療を同時に行えるような人ならあるいは……」

 

「解呪と……治療を同時に行える人?」

 

「神官……その中でも枢機卿や教皇クラスなら可能性がある」

 

「そんなのって……ほとんど可能性がないに等しいじゃないですか……」

 

 希望、そして絶望。

 一瞬与えられた希望はまるで蜘蛛の糸のように細くて、伸ばしても掴み取ることが難しいものだった。

 

「どうやってそんな人たちに治療してもらえば……」

 

「よほど強力なツテか……よほど莫大な財産でもない限り厳しいわね」

 

 枢機卿や教皇は宗教のトップで、そこまで行ってしまうと一般の人を治療することは無くなる。

 カリンの治療になど応じてくれる可能性はほとんどない。

 

「…………もう一つ、可能性がある。こちらは本当かどうかすら分からない話よ」

 

「どんな話ですか?」

 

「願いを叶えてくれるダンジョンって知ってる?」

 

「願いを叶えてくれる……知らないです」

 

「ここから遠いところにある辺境の地に遥か昔からあるダンジョンがあるそうよ。そのダンジョンを最後まで攻略できたら……どんな願いでも一つ叶えてくれるそうね」

 

 あまりにも荒唐無稽で、おとぎ話のようだと俺は思った。

 だが、その話に俺も惹かれた。

 

 どんな願いでも。

 ならば俺を人に戻すという願いも叶えてくれるのかもしれない。

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