魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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63名付け1

「名前が必要だと思うんです」

 

「‘お、おう……’」

 

 名前も知らないような町の宿。

 少しお高めのお金を払って三人で一部屋を使う。

 

 あんまり汚さないでくださいね、という宿の人は俺のことを見ていた気がする。

 そんなに毛をまき散らすつもりはないとちょっと不快に思ったものだが、よく見ると確かにちょっと毛が飛んでいたりクリアスのローブについてたりする。

 

 何も言えません。

 意外と毛が抜けてました。

 

 二つあるベッドを一つはクリアスが使い、もう一つを俺と変なゴブリンで使う。

 毛がついたって知るもんか。

 

 そうして地面よりいくらかマシなベッドで休んでいたら、クリアスが唐突に俺に顔を寄せてきた。

 

「ここまでウルフさん、ゴブリンさんと呼んできましたが、お名前が必要だと思うんです!」

 

「‘まあ……そのうち必要にはなるかなと思ってたよ’」

 

 他の魔獣はともかく、俺の中身は俺のままであるということが分かった。

 しかしここまで名前に関して積極的になってこなかった。

 

 なぜなら、俺にはラクという名前があるのだけど、それをクリアスに伝えることができないからだ。

 適当な名前でもいい。

 

「‘でもなぁ……’」

 

 ただし可愛い名前とか女の子のような名前をつけられるのは嫌だ。

 冒険者には入れ替わりの激しい魔獣に名前をつけない人もいるし、逆に毎回しっかり名前をつけるような人もいる。

 

 冒険者ギルドにいる時にも、魔獣を呼んでるらしき声は聞こえることもあった。

 ナントカちゃん、なんて可愛らしく呼んでる女性もいたことは覚えてる。

 

 ちゃんも、ちょっと嫌かもしれない。

 

「どんな名前がいいですかね?」

 

 クリアスは丸まるようにしている俺のお腹にお尻をねじ込む。

 俺は大人しくクリアスの背もたれになって、可愛い名前が来たらノーと言う準備をする。

 

 俺はともかく変なゴブリンもゴブリンじゃない名前で呼んでやりたいものだ。

 向こうはアニキなんて呼んでるので呼び方ぐらい決めてもいいだろう。

 

 コブンリンとかどうだろうか?

 子分のゴブリンでコブンリン。

 

 我ながら良い名前だと思う。

 

「‘なんすか、その目……’」

 

 俺の馬鹿にしたような目に気づいたのか、コブンリンは顔をしかめる。

 

「‘良い名前を思いついてな、お前の’」

 

「‘絶対ロクなもんじゃない!’」

 

「‘お前の特徴を一言で表した良い名前なんだけどな’」

 

「‘絶対嘘っす!’」

 

「‘信用がないな’」

 

 どの道クリアスに伝える手段はない。

 名前が決まるまではこっそり呼んでやろう。

 

「まずはウルフさんですね! これからも長く呼ぶことになると思うので良い名前をつけたいです」

 

 クリアスは俺の背中の毛をサワサワと撫でながら名前を考える。

 

「浮かびました!」

 

「‘おっ、早いな’」

 

 そう時間もかからず、クリアスが名前を思いついたように手を打った。

 

「ウルフさんといえばやっぱり目が特徴だと思うんです! どんな時でも凛々しくて、澄んだ目をしています!」

 

「‘ほぉ、そう褒めてもらえると嬉しいな’」

 

「‘時々怖い目をしてますけどね’」

 

「‘それはお前が黙ることを知らないからだ’」

 

 コブンリンが茶々を入れてくるので、例の怖い目で睨みつける。

 

「そこで……ウルフさんのお名前は……」

 

「‘名前は……?’」

 

「ウルルンさ……」

 

「‘却下だ’」

 

「………………今、嫌だって言いました?」

 

 なんだその名前。

 凛々しいとかそんな要素どこに行ったんだ。

 

「ではモフリンさんはどうですか?」

 

「‘そんなの今だけだろ’」

 

「じゃ、じゃあプ……」

 

「‘ダメだ’」

 

「ため息つかれた……!」

 

 クリアスの口から飛び出すプに続く言葉でかっこいい名前になるはずがない。

 俺は盛大にため息をついて名前案を拒否する。

 

「‘分かったす! 姉さん、センスないですね!’」

 

「なんかゴブリンさんにも馬鹿にされてる気がする……!」

 

「‘センスないな……’」

 

 センスがないとまでは言い切ってしまっていいのかは、俺だって別にセンスがあるわけじゃないから微妙なところではある。

 ただ少なくとも俺が求める名前のセンスを持ち合わせてはいなさそうだ。

 

 これならウルフさんの方が遥かにマシである。

 

「うーん……」

 

 クリアスはあまり見ないような険しい顔をしている。

 冗談ではなく本気で考えてくれているようで胸が痛いけれど、これからずっとウルルンさんと呼ばれるぐらいなら体が変わる都度に見た目で呼んでくれ。

 

「では……ちょっと趣向を変えましょう!」

 

 悩んだ末にクリアスはまた別の名前を考えたようだ。

 

「スパシェア、というのはどうですか!」

 

「‘おっ? ちょっといいじゃないか’」

 

 ウルルンに比べたらだいぶ良い感じの名前をしている。

 人の名前っぽい。

 

 ただ急にどこからそんな名前が出てきたのか。

 名前のセンスの合成でもしたのか。

 

「スパルシェアリアスという神様がいるんです。豊穣の神様なんですけど、そこから少し拝借してみました!」

 

「‘まあまだマシだな’」

 

 それなりにカッコいい。

 もはや自分の名前を付けてもらうことを諦めている俺は、どうせならいくつか候補を出してもらって決めたいなと考え始めている。

 

「悪くはない反応ですね。他の神様からもいただいてみましょうか」

 

 大絶賛ではないしても、ため息をつかれた先ほどに比べればだいぶ反応がいいとクリアスの顔も明るくなる。

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