魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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65復讐の始まり1

「‘割と大きめな町……それに険しい顔’」

 

 旅は続き、俺たちは大きめな町に到着した。

 ウルフになって耳や鼻が敏感になった。

 

 能力は便利だ。

 敵の接近に素早く気づくことができるし、これだけ鋭ければ戦いにおいてもニオイや音は相手の動きを見抜く一つの要素となる。

 

 ただ不便さもある。

 意識せずとも色々なニオイや音を拾ってしまう。

 

 町というのは臭いしうるさい。

 人であった時には全く意識しなかった様々なことが、襲いかかるように感覚を刺激してくる。

 

 こんな時には別の感覚に集中する。

 もっと言えば目に集中するのだ。

 

 欲を言えばガムでも噛んでいたいものだが、この世界にそんなものはない。

 だから何かを見ることで他の感覚を紛らわせる。

 

 視力としては元々良かったのでそんなに変わりがない。

 道行くおっさんとか冒険者が連れている魔物とか観察してみるのだ。

 

 そんな中でヘルンが顔をしかめているのが目についた。

 

「‘ここなのか?’」

 

 会話もいい感覚逸らしになってくれる。

 クリアスと会話はできないので、ヘルンと話すしかない。

 

 今でもコブンリンにできなかったことがちょっと悔やまれるな。

 

「‘うい……’」

 

 ヘルンは小さく頷く。

 どうやらこの町がヘルンの契約者が死んだ、復讐の場所であるようだ。

 

「‘んな顔されてもな……’」

 

 名前だって必死になってようやく伝えられた。

 復讐したいなんて複雑な内容をクリアスに伝えられるはずがない。

 

 それに伝えたところでそんな厄介事に首を突っ込むのも俺は賛成できない。

 仮に伝えたらクリアスなら手を貸してしまいそうだけど。

 

「‘そもそも相手は何者なんだ? 騙されたとは聞いたが、何をどう騙されて、どうして殺された?’」

 

 ざっくりとした目的は聞いたものの、細かい話は聞いていなかった。

 無情な世界なので死は珍しくない。

 

 命の価値が低く見積もられがちで、些細なことでも殺されてしまうようなことがありうる。

 騙し騙されも少ないとも言い難いだろう。

 

 何をして騙されて、そして殺されたのか深く踏み込んでみることにした。

 

「‘お金稼ぎたかったんす。元ご主人様は都会に憧れがあって……都会に行くためにお金が必要だった’」

 

「‘まあ、ありがちだな’」

 

 都会に憧れる。

 そして都会に行くのにはお金が必要。

 

 どこかで聞いたことがあるような話だなと俺は思った。

 

「‘才能がある……とかそんなこと言って近づいてきた冒険者がいたんす。優しい人で、もっと頑張れば都会でも通じるとか言ってきて、それからその人に教わるようにして頑張ってたんです’」

 

「‘何だか先が読めたな……’」

 

「‘ある時急にその人の態度が一変して、急に…………元ご主人様を刺したんす。可愛い我が子がお腹を空かしてる。そして自分は珍しい魔物だから、売れるかもしれないって……’」

 

「‘我が子?’」

 

「‘そいつ、自分の魔獣のこと我が子って’」

 

 ヘルンは悲しそうに目を伏せる。

 

「‘……はぁ’」

 

 俺はため息をついてしまった。

 結構胸糞が悪い話だ。

 

 純粋な夢見る少女に言葉巧みに近づいた。

 その目的は一つじゃない。

 

 こうした場合の目的といえば金である。

 やる気のある若者を上手くコントロールしてお金を搾取する。

 

 あるいは相手が女性なら、体が目的ということもある。

 

「‘クリアスも似たような経験はある……’」

 

 クリアスも襲われたことがある。

 その時は俺がたまたま助けたが、世の中そんな事件は後を絶たない。

 

 だがヘルンの契約者の件は体が目的と言っても、ちょっと違っている。

 体が目的というのは、だいたい性的な意味だ。

 

 けれどもヘルンの話を聞く限り、ヘルンの契約者は魔獣のエサとしてみられていようだった。

 

「‘…………ほんの少しだけ、分からなくもない、な’」

 

 とんでもない事件だ。

 だが、頭の隅ではあり得ることだと理解ができた。

 

 今でも時折、人を食べた時の感覚を思い出す。

 単なる食事とはまた違う、強い刺激を覚えた。

 

 血が、肉が、舌先を刺激して、体の中で厚く溶けて自分になっていく。

 熱に浮かされたような、何か劇物にでも手を出してしまったような、不思議な感覚は忘れられない。

 

 きっと魔物の本能なのだ。

 人を食らうということに対して、特別な何かを感じてしまうのだ。

 

 そんな感覚だけでなく、あの時の力強さは格別だった。

 もしかしたら魔獣を強化するために人を与えているのかもしれない、と理解したのだった。

 

 こんなものを理解できてしまう自分がちょっと嫌になる。

 だが魔物の身になったからこそ理解もできるものだと言える。

 

 だからこそ胸糞悪い。

 思わず俺は顔をしかめてしまう。

 

 そんな様子をクリアスが見ていないのは助かった。

 

「‘ついでにお前も欲したってわけか’」

 

 もう一つの理由としてはヘルンだ。

 魔物としては既存のものから外れた珍しい姿としてヘルンは生まれた。

 

 世にはどんなものでもコレクターやマニアと呼ばれるものがいる。

 魔物コレクター、魔物マニアがいても全くおかしい話じゃない。

 

 ちょっと不思議な魔物であるヘルンなら、そんな人が買い取ってくれる可能性もある。

 魔物を単なるペットとして飼うなんてかなり悪趣味だけど、ないとはいえない。

 

「‘ほんと……嫌な世界だ’」

 

 俺は盛大にため息をついてしまう。

 いつの間にかニオイや音も気にならなくなっていた。

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