魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

66 / 66
66復讐の始まり2

「‘まあなんにしても復讐は難しいがな’」

 

「‘ギィー! 悔しいっす!’」

 

 ヘルンは頭を掻きむしる。

 魔物の身はあまりに制限が多い。

 

 気持ちはわかるから忘れろとは言わない。

 だが正直なところ、忘れてしまった方が楽なのだろうな。

 

 それでも忘れられないということも、もちろん分かっている。

 

「‘……強かったらこんな思いしないんすかね?’」

 

「‘最も強くたって、何もかもを救うことができないことはある。時にあっけないほど簡単に大切なものは手をすり抜けていくんだ’」

 

 良いこと言った。

 俺はちょっと良い顔して、余韻でカッコつける。

 

 カッコつけはしたが、間違ったことは言っていない。

 強ければ守れるもの多く、守れることも多いだろう。

 

 けれども強くとも守れないことはあるし、どうしようもない時もある。

 強ければ、と思うこともあるだろうが、思ったところでそんなものは机上の空論に過ぎない。

 

「‘アニキ、手ぇないですけどね’」

 

「‘次、真面目な話してる時に茶化したら俺はお前のことをコブンリンと呼ぶ’」

 

「‘そりゃないっすよ!’」

 

 コイツ……と俺は俺は思った。

 真面目に答えてやったのに、こんな時に冗談めかして返すからいまいち俺も本気で復讐に手を貸してやろうと思えないところがあるのだ。

 

「‘まあ、難しいのは分かって……あっ!’」

 

「‘ん? どした?’」

 

 急にヘルンが大きな声を出す。

 

「‘あっ、アイツだ!’」

 

「‘アイツ?’」

 

 ヘルンが何かを指差して、俺は指差す先を視線で辿る。

 そこには何人かの男たちがいた。

 

 武装しているので、冒険者のようだ。

 

「‘んん!? クリアス!’」

 

「なぁ!? な、なんですか!」

 

 そのうちの一人に俺は驚く。

 クリアスの服を咥えて引き止める。

 

 急に引っ張られたクリアスは転びかけて、俺の背中の背中に手をついた。

 今の体格ならふらついたクリアスを支えるのもそんなに大変じゃない。

 

「‘おい、見ろ!’」

 

 俺は前足を伸ばして、あっちを見ろとアピールする。

 

「えっ!? あの人って!」

 

 男たちの輪の中に俺とクリアスが見知った顔がいる。

 細い目をした怪しい雰囲気の男は、キツソウであった。

 

「‘おい、待て!’」

 

「ラクさん、放してください!」

 

 キツソウは謎の研究者である。

 医者であるとウソをついてクリアスに近づき、カリンを魔物化させた犯人だと見られている。

 

 結局捜査の手が伸びてくる前に逃げてしまったので、真相は分かっていない。

 だができるなら捕まえて話を聞きたいところだ。

 

 クリアスもカリンを治すための何かを得られるかもしれないと、キツソウを見て目の色を変えた。

 今にも走り出しそうなクリアスを、再び服を咥えて止める。

 

「あ、あ、あ!」

 

 俺はそのままクリアスを引っ張って物陰に連れていく。

 

「何するんですか!」

 

「‘今行って捕まえられると思うのか?’」

 

 俺はため息をついてしまう。

 気持ちは分かる。

 

 キツソウを捕まえたいのは俺も同じだ。

 カリンを治したいし、あれだけ大変な目に遭わされてむかつくような気持ちもある。

 

 しかしこんな町中で何の策もなく相手を捕まえるのは難しいだろう。

 ジェレインたち冒険者ギルドや国が指名手配しているにも関わらず捕まっていないような男なのだ。

 

 町中で追いかけても逃してしまう可能性は高い。

 それに加えて周りには仲間と思わしき冒険者たちがいる。

 

 逃げずに戦闘になったとしたら多勢に無勢だ。

 まず勝てない。

 

 ここは冷静さが必要だ。

 

「むむむむ……分かりました……」

 

 俺の目を見つめているうちにクリアスも少し冷静になった。

 

「‘ふぅ。んで……お前の知った顔は?’」

 

 ちゃんとヘルンのことは忘れていない。

 

「‘あの目のほっそいやつと話してる怪しい笑みの奴っす’」

 

 うさんくせぇ。

 見た時にそう思った。

 

 ヘルンは怪しい笑みと言ったが、まさしくその通り。

 押し売り販売でも得意そうな薄い笑みを貼り付けた男がキツソウと話している。

 

 キツソウも目が細くて営業スマイルのような顔をしているので、二人合わせると胡散臭さがとんでもない。

 ガードの弱いお年寄りなら貯金全部持っていかれそうな胡散臭さである。

 

 だがヘルンのこれまでの話が本当だとしたら、魔獣に人を食べさせるヤバい人である。

 そう考えて顔を見るとヤバい奴にも見えてくる。

 

 人を実験に使うようなヤバい奴と、人を魔獣に食べさせるヤバい奴。

 よくよく考えてみれば意外と近いところはあるかもしれない。

 

 にしても何でこんなところにキツソウがいて、ヘルンの復讐相手と仲良くしているのか。

 

「‘それに単独犯でもなさそうだな……’」

 

 ヘルンの復讐相手は複数の冒険者とつるんでいる。

 関係性は分からないものの、仲間ではありそうだ。

 

 勝手に一人で活動しているようなやつかと思っていたが、仲間が複数いるなら結構面倒だ。

 

「‘もしかしたらお前の復讐に手を貸すことになるかもな’」

 

「‘ホントっすか!’」

 

「‘ああ、その代わり問題は複雑だ……’」

 

 何が起きているのか。

 まずは状況把握から必要そうだ。

 

 キツソウを追いかけるとヘルンの復讐相手にもぶち当たるかもしれない。

 どうしてこう旅をすんなり進めさせてくれないのか、と俺は深いため息をついてしまったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

廃核の海 〜魔族アバターのまま現実世界に放り出された俺と不思議な美少女の物語〜(作者:織雪ジッタ)(オリジナルSF/冒険・バトル)

そこは未来都市。▼何年も放置していたVRMMORPGに久しぶりにログインしてみた青年、ショウ。▼すっかり人のいなくなったそのゲームの世界に、懐かしさと哀愁を覚えながら、特にすることもなくログアウトする――はずだった。▼しかしショウは、ゲーム内のアバターであるおぞましくも禍々しい「魔族」の姿のまま、現実世界に出てきてしまう。▼魔族の見た目のせいで自分の意志とは…


総合評価:101/評価:6/連載:140話/更新日時:2026年06月11日(木) 09:14 小説情報

霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~(作者:犬型大)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

俺は幽霊が視える。▼しかし、それは祝福ではなく、前世から続く呪いのような力だった。▼異世界に転生し、霊視の力なんか隠して穏やかに暮らすはずだった。▼しかし両親を殺されて俺の人生は大きく変わることになった。▼聖職者見習いとして過ごしていた俺は、大司教の死をきっかけに、教会の暗部と“見えない者たち”の騒動に巻き込まれる。▼陰に潜む生霊、悪魔の囁き、そして神聖力の…


総合評価:162/評価:7.4/連載:106話/更新日時:2026年06月11日(木) 10:00 小説情報

【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~(作者:パンダプリン)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

女神さまにハズレ扱いされた俺は、ラスボスの魔王が超高難易度で有名なとあるゲームの世界へ転生させられてしまった。▼スキルはダンジョンマスター。種族は魔族。どう見ても主人公側ではなく、敵側としてだ……。▼途方に暮れていたところ、明らかに格上の存在と出会ってしまったが、あなたが魔王……?▼勇者たちを倒したはいいけど、部下もダンジョンも失ってやる気がない……?▼俺、…


総合評価:710/評価:8.61/連載:142話/更新日時:2026年06月10日(水) 23:50 小説情報

ビルドロボオンライン ~趣味に走った私の愛機、廃人どもに野生のレイドボス認定される~(作者:SIS)(オリジナルSF/冒険・バトル)

 友人の勧めで『ビルドロボオンライン』なるゲームを始めたサラリーマン小鳥遊将也(たかなししょうや)。▼ 最初はそこまで乗り気ではなかったものの、作りこまれたゲーム内容に魅了された彼は、文句を言いながらもなんだかんだとゲームを楽しみ、独自の道に突き進んでいく。▼ 彼は知らない。▼ 後に、自分が廃人ゲーマー達から正体不明、野生のレイドボス、なんて呼ばれるようにな…


総合評価:1067/評価:8.1/連載:57話/更新日時:2026年06月11日(木) 06:00 小説情報

家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~(作者:水瓶シロン)(オリジナル現代/恋愛)

「ぎゅって、して……?」▼「構ってくれないと闇落ちしちゃうよ……?」▼ 高校入学を機に一人暮らしを始めた『御守望』は、青春を勉強とバイトに費やすような限界貧乏生活を送っていた。▼ 幼くして両親を失っている望が頼れる人は、田舎に住む祖父母くらいだが、なるべく負担は掛けたくない。▼ そのため、睡眠時間を犠牲にして死に物狂いで勉強することによって好成績を維持し、入…


総合評価:4374/評価:8.7/連載:82話/更新日時:2026年06月09日(火) 18:22 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>