魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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66復讐の始まり2

「‘まあなんにしても復讐は難しいがな’」

 

「‘ギィー! 悔しいっす!’」

 

 ヘルンは頭を掻きむしる。

 魔物の身はあまりに制限が多い。

 

 気持ちはわかるから忘れろとは言わない。

 だが正直なところ、忘れてしまった方が楽なのだろうな。

 

 それでも忘れられないということも、もちろん分かっている。

 

「‘……強かったらこんな思いしないんすかね?’」

 

「‘最も強くたって、何もかもを救うことができないことはある。時にあっけないほど簡単に大切なものは手をすり抜けていくんだ’」

 

 良いこと言った。

 俺はちょっと良い顔して、余韻でカッコつける。

 

 カッコつけはしたが、間違ったことは言っていない。

 強ければ守れるもの多く、守れることも多いだろう。

 

 けれども強くとも守れないことはあるし、どうしようもない時もある。

 強ければ、と思うこともあるだろうが、思ったところでそんなものは机上の空論に過ぎない。

 

「‘アニキ、手ぇないですけどね’」

 

「‘次、真面目な話してる時に茶化したら俺はお前のことをコブンリンと呼ぶ’」

 

「‘そりゃないっすよ!’」

 

 コイツ……と俺は俺は思った。

 真面目に答えてやったのに、こんな時に冗談めかして返すからいまいち俺も本気で復讐に手を貸してやろうと思えないところがあるのだ。

 

「‘まあ、難しいのは分かって……あっ!’」

 

「‘ん? どした?’」

 

 急にヘルンが大きな声を出す。

 

「‘あっ、アイツだ!’」

 

「‘アイツ?’」

 

 ヘルンが何かを指差して、俺は指差す先を視線で辿る。

 そこには何人かの男たちがいた。

 

 武装しているので、冒険者のようだ。

 

「‘んん!? クリアス!’」

 

「なぁ!? な、なんですか!」

 

 そのうちの一人に俺は驚く。

 クリアスの服を咥えて引き止める。

 

 急に引っ張られたクリアスは転びかけて、俺の背中の背中に手をついた。

 今の体格ならふらついたクリアスを支えるのもそんなに大変じゃない。

 

「‘おい、見ろ!’」

 

 俺は前足を伸ばして、あっちを見ろとアピールする。

 

「えっ!? あの人って!」

 

 男たちの輪の中に俺とクリアスが見知った顔がいる。

 細い目をした怪しい雰囲気の男は、キツソウであった。

 

「‘おい、待て!’」

 

「ラクさん、放してください!」

 

 キツソウは謎の研究者である。

 医者であるとウソをついてクリアスに近づき、カリンを魔物化させた犯人だと見られている。

 

 結局捜査の手が伸びてくる前に逃げてしまったので、真相は分かっていない。

 だができるなら捕まえて話を聞きたいところだ。

 

 クリアスもカリンを治すための何かを得られるかもしれないと、キツソウを見て目の色を変えた。

 今にも走り出しそうなクリアスを、再び服を咥えて止める。

 

「あ、あ、あ!」

 

 俺はそのままクリアスを引っ張って物陰に連れていく。

 

「何するんですか!」

 

「‘今行って捕まえられると思うのか?’」

 

 俺はため息をついてしまう。

 気持ちは分かる。

 

 キツソウを捕まえたいのは俺も同じだ。

 カリンを治したいし、あれだけ大変な目に遭わされてむかつくような気持ちもある。

 

 しかしこんな町中で何の策もなく相手を捕まえるのは難しいだろう。

 ジェレインたち冒険者ギルドや国が指名手配しているにも関わらず捕まっていないような男なのだ。

 

 町中で追いかけても逃してしまう可能性は高い。

 それに加えて周りには仲間と思わしき冒険者たちがいる。

 

 逃げずに戦闘になったとしたら多勢に無勢だ。

 まず勝てない。

 

 ここは冷静さが必要だ。

 

「むむむむ……分かりました……」

 

 俺の目を見つめているうちにクリアスも少し冷静になった。

 

「‘ふぅ。んで……お前の知った顔は?’」

 

 ちゃんとヘルンのことは忘れていない。

 

「‘あの目のほっそいやつと話してる怪しい笑みの奴っす’」

 

 うさんくせぇ。

 見た時にそう思った。

 

 ヘルンは怪しい笑みと言ったが、まさしくその通り。

 押し売り販売でも得意そうな薄い笑みを貼り付けた男がキツソウと話している。

 

 キツソウも目が細くて営業スマイルのような顔をしているので、二人合わせると胡散臭さがとんでもない。

 ガードの弱いお年寄りなら貯金全部持っていかれそうな胡散臭さである。

 

 だがヘルンのこれまでの話が本当だとしたら、魔獣に人を食べさせるヤバい人である。

 そう考えて顔を見るとヤバい奴にも見えてくる。

 

 人を実験に使うようなヤバい奴と、人を魔獣に食べさせるヤバい奴。

 よくよく考えてみれば意外と近いところはあるかもしれない。

 

 にしても何でこんなところにキツソウがいて、ヘルンの復讐相手と仲良くしているのか。

 

「‘それに単独犯でもなさそうだな……’」

 

 ヘルンの復讐相手は複数の冒険者とつるんでいる。

 関係性は分からないものの、仲間ではありそうだ。

 

 勝手に一人で活動しているようなやつかと思っていたが、仲間が複数いるなら結構面倒だ。

 

「‘もしかしたらお前の復讐に手を貸すことになるかもな’」

 

「‘ホントっすか!’」

 

「‘ああ、その代わり問題は複雑だ……’」

 

 何が起きているのか。

 まずは状況把握から必要そうだ。

 

 キツソウを追いかけるとヘルンの復讐相手にもぶち当たるかもしれない。

 どうしてこう旅をすんなり進めさせてくれないのか、と俺は深いため息をついてしまったのだった。

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