魔物に転生した俺は、優しい彼女と人間に戻る旅へ出る〜たとえ合成されても、心は俺のまま〜   作:犬型大

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72木の中の森のダンジョン3

「‘ぬうううぅん!’」

 

「‘おっ、避けるのは上手いな’」

 

 ヘルンはすごい顔をして横に転がり、ポワッボアーの突進をかわした。

 足八本もあるイノシシからも逃げていたのだから、ゴブリンも必死になれば意外と動けるものだった。

 

「ラクさん? 助けてあげないんですか?」

 

「‘アニキィィィィ! たすけてくだせぇー!’」

 

 ヘルンはポワッボアーに追いかけ回されている。

 戦う前は自信満々だったので何か秘策でもないのかなと思っていたけれど、なんの秘策もないようだ。

 

「‘仕方ないな……’」

 

 このままじゃヘルンがやられる。

 今はもう仲間であるし、目の前でポワッボアーに轢かれるのも寝覚が悪い。

 

「‘はっ!’」

 

「‘アニキッ!’」

 

「‘うわっ!?’」

 

 俺はポワッボアーに横から体当たりする。

 微妙に硬い毛質はモコモコとすると意外と弾力性を持つ。

 

 体当たりしてポワッボアーの軌道はヘルンから逸れたけれども、俺はポワッボアーのモコモコの弾力にボヨンと弾き返される。

 

「防御力は高そうですね」

 

 俺は結構な勢いで体当たりした。

 けれどもポワッボアーにダメージはなさそう。

 

 毛がモコモコとしたイノシシなんて奇妙な見た目になるのは絶対に嫌だけど、性能としてはそこそこなのかもしれない。

 

「‘ただ……これはどうだ?’」

 

 俺はツノに魔力を送り込む。

 おでこに温かさが広がり、ツノに真紅の炎がまとわれる。

 

「‘くらえ!’」

 

 俺のことは無視してヘルンに突進しようとしているポワッボアーに火球を放つ。

 かなりの速度で飛んでいった火球はポワッボアーに当たる。

 

「‘うーん、やっぱり’」

 

 なかなか面倒な防御性能を持っているが、俺はポワッボアーのことをあまり脅威に思っていなかった。

 なぜなら倒すのは簡単そうだと思っていたからだ。

 

「‘へっ! よゆーっすね!’」

 

 火球が当たったポワッボアーはあっという間に炎に包まれた。

 モコモコとした毛は見た目通りに燃えやすく、ポワッボアーは一瞬にして火だるまとなって暴れている。

 

 なんでヘルンの方がやってやったみたいな顔してるのかは知らない。

 

「‘おっ、死んだっすね!’」

 

 火を消そうとしているのか、走り回ったポワッボアーは木に正面からぶつかった。

 そしてそのままゆっくりと倒れ、ボンッと音を立てて消えた。

 

 ここはダンジョンなので死体は残らず、ドロップ品だけを落とす。

 

「牙と……魔石ですね」

 

 落ちていたのはポワッボアーの立派な牙と青く透き通った魔石であった。

 

「意外と倒すの簡単そうですね」

 

 物理的攻撃に強い代わりにすごく燃えやすい。

 非常にわかりやすい弱点だ。

 

 見た目通り、想像通りすぎてむしろ笑えてしまうぐらいだった。

 

「‘まあ、自分があのへなちょこの気を引きつけていたから……っすね’」

 

「‘そうだな’」

 

「‘あっ! 絶対にそんな風に思ってない顔っすね!’」

 

 結果的に良い囮役ではあった。

 しかし危なっかしくて見ていられない。

 

「‘もうちょい戦い方覚えないとな’」

 

 道具を扱う知恵はある。

 逃げっぷりをみるに普通のゴブリンよりも動けそうな感じもある。

 

 ただそれを全く活かせていない。

 

「‘背中向けて逃げたら追いかけてくるのは当然だ。盾があるんだから少し活かせ’」

 

 今すぐ劇的に強くなることはないだろうが、戦い方を知ればヘルンならちょっとは役に立ちそうだ。

 

「‘腕を出して盾構えてみろ。……違う、そうじゃない’」

 

 ポワッボアー相手だってモコモコの毛に覆われていない能天を目掛けてナイフを突き刺せば勝てる。

 別にヘルンの装備じゃ戦えないというものじゃない。

 

 ともかく死なれたら困るので、盾の使い方を教えてやる。

 残念ながら四足歩行の俺は見せて使い方を教えてやるわけにはいかない。

 

 ヘルンも試行錯誤しながら、なんとか盾を盾らしく構えられるようにはなった。

 

「‘へぇ……腕疲れるっす……’」

 

「‘よし、次に……なんだその顔?’」

 

 見た目だけは様になったので次の戦いにと思ってクリアスのことを振り返った。

 するとクリアスは、頬を膨らませてつまらなそうな顔をしていた。

 

「お二人で仲良さそうに……」

 

 せめて何言ってるのか分かったら少しは違うのかもしれない。

 しかし何言っているのかも分からないクリアスからすると、俺がヘルンと楽しそうに何かやってるように見えるのだろう。

 

 だが俺たちは遊んでいるわけじゃない。

 

「うひゃっ!?」

 

「‘ほら、すねてないでいくぞ’」

 

 俺は鼻先でクリアスの脇腹をぐりぐりとつつく。

 クリアスはくすぐられるのに弱くて、悲鳴のような声を上げる。

 

「あー、待ってくださいよぅ!」

 

 俺が先を歩き始めるとクリアスとヘルンで慌ててついてくる。

 除け者にされると寂しい気持ちは分かるが、多少は我慢してもらわなきゃしょうがない。

 

「‘いたぞ、やれるな?’」

 

「‘お任せくださいっす!’」

 

 森の中を進むと、またポワッボアーを見つけた。

 またしてもヘルンが前に出て、クリアスは少し心配そうな顔をする。

 

 だがヘルンの顔には自信が溢れている。

 

「‘来るっすよ!’」

 

 ヘルンは大きな声を出してポワッボアーの気を引く。

 ポワッボアーは軽く地面を蹴りながら、頭を下げて牙をヘルンの方に向ける。

 

「‘むむむ……’」

 

「‘そう緊張するな。お前ならできるさ’」

 

 ポワッボアーに睨まれて、ヘルンの表情が少し強張る。

 

「‘やるっす……見ててください!’」

 

 ポワッボアーが勢いよく走り出した。

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